ダーウィンを悩ませたミステリー カンブリア爆発の謎を追う

5億4000万年前からはじまるカンブリア紀に生命は突如として爆発的な進化を起こしたとされています。これを「生命の爆発的進化」と呼びます。この時、短い時間の間に現在につながる生物種の祖先のほとんどが一度に出現しました。生命進化のビッグバン、または生命進化史上最大のミステリーと表現されることもあります。その最大の事件の謎を解こうとする試みが、本書の内容です。

5億4000万年前とはどのくらい昔のことでしょうか? 5億年という時間は人間にとって長すぎる時間であり、想像を超えた範囲にあるように思われます。例えば、宇宙の年齢は約140億年なので、それに比べられるくらいの時間スケールであると考えてもいいでしょう。あるいはほんの小さな魚が私たち人間にまで進化する時間と表現してもいいでしょう。しかし、いずれにせよ、遠い遠い昔のことであり、まさに想像もつかないほど昔のできごとと表現するくらいしか術はないようにも思われます。

地球上には、カンブリア紀周辺の地層が1キロメートルにもおよぶほどの厚さで連続して観察できる場所がいくつかあります。本書では、中国やカナダの地層の中に順番に出現する生物群を追いかけて、時間の経過と、生物の進化が感じ取れるようにしています。この関係は、地球環境の変化と生物の進化の関連性を見ることにもつながっていきます。生物の進化は生命の内因的な要因によるものなのか、環境によって誘発されたものなのか、という問いの答えがこの関連性の追及から見えてくると思います。

ここでその答えを書いてしまうと、生物はカンブリア紀の前の時代に徐々に進化を積み重ねていったことが明らかになってきました。また、その進化には環境の変動が大きく関与します。主には寒冷化、また時には他の要因によって生物は数千万年の単位で大きな絶滅を経験します。この大絶滅現象によって古い生物相がいなくなり、新しい生物群が進化します。古生代以降の標準的な大進化のパターンですが、カンブリア紀とそれ以前の時代にもこの図式があてはまるのではないかと思える証拠が出てきました。

この分野では、いま中国の古生物研究が急速に進んでいます。本書で紹介する研究内容から、それらの関係をぜひ読み取っていただけたらと思います。