1万円札に印刷されている福沢諭吉は「天ハ人ノ上ニ人ヲ造ラズ、人ノ下ニ人ヲ造ラズ」という言葉を残しました。この言葉、「人間は生まれながらに、貴賤・貧富の差がなく、平等である」と訳されることが多いのですが、「人間はみな平等だ!」という意味ではありません。「生まれたときは基本的にみな同じようなものだけど、その後の努力次第で、貴賤・貧富の差ができちゃうよ」という意味なのです。これは家計でも同じことが言えます。つまり「手取り額は同じでも、家計簿を付けるという努力をすることで、貯蓄額に差ができちゃうよ」ということです。
では、なぜ家計簿を付けると貯蓄額の差ができるのでしょうか? それは、家計簿を付けることで、家計の収支を把握することができ、ムダな支出を発見できるから、です。ムダな支出がわかれば、ムダを控えようとするのが人というもの。その控えた分を貯蓄に回すようにすれば、当然、貯蓄が増えるようになる、というわけです。じゃあ、毎月貯蓄する額を増やすだけでもいいんじゃない? と思われるかもしれません。はたしてそんなこと、できるのでしょうか?
例えば、給料日に手取りの20万円が振り込まれ、そのままとりあえず5万円を貯金するとします。あとは、野となれ山となれ、で、本当に生活できますか? 自給自足で生活をしている人でない限り、「衣」「食」「住」を確保するにはお金がかかります。まぁ、「住」に属する「家賃」は給料日に自動で引き落とされる設定にしている人も多いでしょうから、住む場所は確保できるかも知れません。が、「衣」や「食」については? おなかが減ったら食べたいものを買う、そんな生活をしていると、食費なんてあっという間に数万円にもなってしまいます。また「手持ち(の現金)が無かったから、カードで買っちゃった」なんてなると、カードの引落日が過ぎたとたん、口座の残高が三桁になってしまった……ということにもなりかねません。
そもそも手取り20万円で、5万を貯蓄に回すこと自体が、可能なのでしょうか? よく家賃は手取りの3分の1以内にするのがベストと言われています。そうすると、家賃だけで6万7千円ほどになり、残りは13万2千円になります。そこから5万円を貯蓄に回すと、8万3千円で生活しなければいけません。朝200円、昼500円、晩1000円などかけたとしたら、食費だけでも5万を超えます。営業職の人ならば、ワイシャツのクリーニングにもお金がかかります。1着150円として、20日分の20着で3000円です。仕事の付き合いで飲みに行くこともあるでしょう。これで5000円。お風呂や洗濯をするには水やガス、電気が必要ですから、水道代・ガス代・電気代もかかります。これがトータルで2万円くらいでしょうか?携帯電話代やインターネットの接続料金などもかかります。そう考えたら、8万3千円で1ヵ月生活していくことなんてできるのかしら? と思えませんか?
そんなとき助けになってくれるのが、家計簿なのです。家計簿を付けることで、まず月々の収入でやっていけているのかどうか、つまり、家計が赤字なのか黒字なのかがわかります。そして、赤字の場合、どこにムダな支出をしているのかを知ることができます。黒字にするためにどこの費用を減らすべきか、またこの手取りなら貯蓄はいくらが適正か、なども判断できるようになります。
強引な貯蓄は、続きません。家計簿を付けて、適正な貯蓄と適切な節約をする努力をして、少しずつ貯蓄を増やしていきましょう。