昨年末デンマークで開催されたCOP15(国連気候変動枠組み第15回締約国会議)、報道などを通じて見る限り、かなり紛糾していた模様です。先進国と途上国の思惑がまっぷたつというところしょうか。最終的に各国の合意を得るところまではいかなかったようです。はたからみていると、この会議が、温暖化効果ガスの削減を目指すという単純な目的のものでないことだけはわかりました。
おまけに「どうしてまたこのタイミングに!」というタイミングで「クライメートゲート」事件と呼ばれる、情報漏えいの問題も勃発しました。英イーストアングリア大学のサーバーに外部から何者かが侵入し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のメンバーでもある研究者のメール1000通あまりがインターネット上に流出したのです。その中に、データ捏造を示唆するメールもあり、地球温暖化という問題の根底が揺るぎかねない大きな問題へと発展してしまいました。
この事件を経て、いわゆる温暖化懐疑派と呼ばれる陣営はにわかに活気づいています。やはり人為的な要因で地球が温暖化しているという説はウソであったと。
「そうか、温暖化などしていないんだ」と短絡的に考えると、どうもそこには、石油メジャーが一枚かんでいるなどといった憶測もあり、これまた事実はいかに? ということになってしまいます。ネットなどでいろいろ見ていくと興味深い話も見つかります。しかし、このクライメートゲートと名付けられた事件は、もう少し根深い問題もはらんでいると考えられ、ここではこれ以上言及することは避けましょう。
ただ、COP15でも、地球温暖化説に疑いはないとコメントされているように、温暖化の事実に関しては揺るぎないように思われます。本書『温暖化論のホンネ』の著者の一人でもある江守正多氏も、たとえ、事件で言われているように、何かトリックがなされ、「過去1000年の気温変動に関するIPCCの結論が万が一これに影響を受けたとしても、いわゆる『人為起源温暖化説』の全体が揺らぐわけではまったくない』とNIKKEI NETのコラムなどでコメントしています。
「『人為起源温暖化説』の主要な根拠は、『近年の気温上昇が異常であるから』ではなく、『近年の気温上昇が人為起源温室効果ガスの影響を勘定に入れないと量的に説明できないから』なのですから」と。
これまで日本国内における、地球温暖化問題に関する議論も、部分的にはこうした地球温暖化「脅威論者」と「懐疑論者」による、単純なメッセージの応答が中心であったように思います。
本書では、そういった議論の火付け役となったともいえる『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』の著者である武田邦彦氏、アル・ゴアの『不都合な真実』の訳者でもあり、環境ジャーナリストの枝廣淳子氏、そして、科学者としての立場から、国立環境研究所地球環境研究センターに所属し、地球温暖化科学を専門とする江守正多氏にご参集いただき、これまでとは一味違う議論を展開してもらいました。
この鼎談(ていだん)では、単純に、地球温暖化による脅威を述べるのでもなく、いたずらに地球温暖化説を疑うのでもなく、次のステージにむけて、これから我々がどのように地球温暖化という問題をとらえていけばいいのか、その手がかりとなるような議論をすることが目的となりました。
少しこぼれ話を書きますと、当初、鼎談の前に電子メールにて基本的な部分の討論をし、その内容も本書に盛り込む予定でしたが、だんだん白熱してきて、収拾がつかなくなり、その内容を本書に収めるには至りませんでした。それどころか、この企画すら白紙になりかねない事態に突入していたのでありました。しかし、そういった状況もなんとか乗り越え、また、電子メールでの討論があったおかげか、比較的スムースに鼎談も進み、無事、書籍という形になり、みなさまのお手元にお届けできる日がやってきました。
本書では、3人が(鼎談を行う前に)まえがきを執筆し、鼎談を行ったのち、再び3人があとがきを書いています。鼎談によってどういった思考の変化が起こったのかという部分にも着目しながら読んでいただけたら幸いです。