「脳とグリア細胞」

脳の能力は、ほんの一部しか分かっていません。というのは、脳には神経細胞(ニューロン)以外にも、情報処理にかかわる細胞群があることが明らかになってきたからです。その細胞が「グリア細胞」と呼ばれる細胞群です。人の脳には、ニューロンの約10倍存在しているといわれています。グリア細胞の研究が進み、ニューロンとは違う方法で、脳機能の発現に関与している証拠が続々と発表されてきました。グリア細胞の仲間には、アストログリア、オリゴデンドログリア、ミクログリアなどの細胞がいて、それぞれユニークな活動を行っています。

縁の下の力持ちといわれるアストログリアは、脳内の環境保全、栄養管理、健康管理などを引き受ける仕事をしています。たとえば、損傷を受けニューロンが死んでしまった場合には、そのなくなった部分を埋め損傷が広がらないようにしていきます。つまりグリア細胞は増えることができるのです。さらに、グルタミン酸やDセリン、ATPなどの伝達物質を遊離することができ、アストログリア同士の情報のやりとりをしています。とくにDセリンは、長期増強現象を引き起こし脳の記憶に積極的にかかわっていることがわかってきました。そのほかにも、ニューロンへの栄養補給、血液脳関門、神経伝達物質の除去、血流量の調節、シナプス形成促進、ニューロンの興奮の調節などもこなしています。

オリゴデンドログリアは、神経信号の伝達スピードをアップさせたり、速度調節する仕事をしています。たとえば、運動ニューロンで発生した電位の伝導速度は秒速2mぐらいですが、これではパッと反応することはできません。ここにオリゴデンドログリアが関与することで、秒速100m(約時速360km新幹線の速度)までスピードアップすることができるです。

細胞体の小さなミクログリアは、マクロファージと同じ生まれで、脳の中にたまるゴミを処理してくれます。脳内をパトロールして、ニューロンがダメージを受けた時は、ダメージ部分を包み込んで健康な部分と切り離すという脳内免疫システムを担当しています。たとえば、脳梗塞などの障害が起きた時、ミクログリアが集まり免疫関連分子を発現しています。

このように、グリア細胞の活躍により、脳の能力が発揮されているのです。詳細は「脳とグリア細胞」をお読みください。