いまを生きるための切実な課題に答えるテキスト

フランス現代思想の研究者にして武術家である内田樹先生は、いま最も注目されている書き手です。⁠日本辺境論』⁠街場の教育論』⁠街場のメディア論』⁠下流志向』⁠寝ながら学べる構造主義』などのベストセラーを連発し、その言動は教育界、経済界、スポーツ界、さらには政界からも熱い注目を集めています。今年3月に、長年勤めた神戸女学院大学を退官し、現在は凱風館という合気道の道場主として、文武両道の人材を育成すべく尽力される一方、ジャンルにとらわれぬ旺盛な言論活動を続けておられます。

その内田樹先生の最終講義─⁠─生き延びるための六講は、先生初の講演録。タイトルにある、神戸女学院大学で行われた「最終講義」を筆頭に、京都大学、大谷大学、日本ユダヤ学会などさまざまな場所で行われた、計6本の講演の内容をまとめたものです。

話題は、人文科学に明日はあるか、右肩下がり時代の日本の進むべき道、沖縄基地問題と北方領土問題の知られざる関係……など縦横無尽。近年における内田先生のお考えが幅広く網羅されていて、⁠ウチダ思想」の入門編としてもおすすめの一冊。アーチストのベスト盤をライブバージョンでお届け、といった趣です。

本書の内容からいくつかご紹介します。

「私たちの学びへの意欲がもっとも亢進するのは、これから学ぶことへの意味や価値がよくわからないけれども、それにもかかわらず何かに強く惹きつけられる状況においてです。自分の手でノブを回したものだけにしか扉の向こうは開示されない」

「自分の知的身体的なパフォーマンスを最高レベルに維持しなければならないとき、判断力や理解力を最大化するためには方法は一つしかないんです。それはことです。にこやかに微笑んでいる状態、目の前にある現実をオープンマインドでありのままに受け容れる開放的な状態、それが一番頭の回転がよくなるときなんです」

「微かなノイズのざわめきにを感じとって反応する能力、それは自然科学の世界でも人文科学の世界でも、あるいは探偵の推理とも同じものです。が知的なイノベーションには必須なんです」

「資源の乏しい環境で、支え合って共に生きるための生活原理はわりとシンプルなものです。エコロジカル・ニッチ、をできるだけばらけるようにすることです。限られた資源を複数の個体で分け合うためには、行動パターンを変えなくちゃいけない」

「敵を想定し、それとの強弱勝敗に固執すると、人間の心身の能力はあらわに低下する。強くなろうと思うと弱くなる。強くなろうと思わないと強くなる。これは長く武道をやってきた人間にとっては、ほんとうに当たり前のことなのです」

……などなど、頭にメモしておきたい金言が満載。学びのスイッチを入れるカギはどこにあるか? 超少子化・超高齢化時代を迎えて日本の進むべき道は? 窮地に追いつめられた状況から生き延びる知恵とは?……いまを生きるための切実な課題に答える極上のテキストです。

なお、この『最終講義』は、技術評論社の新しい教養書シリーズ「生きる技術!叢書」の第一回配本で、釈徹宗『キッパリ生きる!仏教生活⁠⁠、小川仁志『日本を再生!ご近所の公共哲学』と共に、3冊同時の刊行です。⁠生きる技術を伝える」をモットーに、哲学者、宗教家、社会学者から芸術家、アスリートまで、専門家の知見をわかりやすく伝えていきますので、ご愛顧のほどよろしくお願いいたします。シリーズのブログもはじめました。