島国に住んでいる私たちが肌で感じることはできない、広大なユーラシアの大平原。日本人のルーツもそこにあるはずのこの大平原で、古来、様々な民族の興亡が繰り広げられてきました。その興亡こそ「世界史」の名にふさわしいと言えますが、私たちの多くはそれを知る機会がほとんどありません。
なぜか? 世界史を担ってきたゲルマン族(ヨーロッパ人)や漢民族(中国人)が、自分たちよりも力を持ち、精神的にも優位に立っていた国や民族の存在を故意に隠し続け、歴史をゆがめてきた過去があるからです。私たちが歴史教科書を通して学んできたことは、こうしたゆがめられた地球文明の歴史にほかなりません。
たとえば、古代ローマに匹敵する大国だったパルティア、世界の金融市場を牛耳るユダヤ人(アシュケナージ・ユダヤ人)の本当の起源とも伝えられるカザール帝国、ヨーロッパとアジアをつなぐ謎の大国・キメク汗国……。初めて聞いた名前も多いでしょうが、本当の世界史のキャスティングボードは、じつはこれらユーラシアの大平原で生まれた国々が握っていたものなのです。
そもそも、アフリカ大陸に出現した人類の祖先はユーラシアを横断する長い旅に出、最終的には南シベリア、あるいは北満州の一帯で今日の文明の基礎を築きます。この地で生まれた草原の民が、時にスキタイ人と呼ばれ、シュメール人と呼ばれ、匈奴やフン族と呼ばれ……世界に散ることで、拡大発展することに快感を覚える過去の人類には見られなかった悩ましき「文明という病」が広がっていったのです。
今回、経済人類学者としての長年のフィールドワークをもとにこうした世界史の実像をまとめあげた栗本慎一郎氏は、「既成の歴史学は真実の追求を放棄し、自分たちに都合のいい世界像ばかりを描き続けている」と辛辣に語ります。いわく、「本書は、最初から真実を求める人のためにだけ、この地上で人類に起きたことの流れを示しておく本である」。世界四大文明、シルクロード、司馬遷の『史記』、キリスト教……こうしたキーワードによって語られてきた従来の歴史は、この一冊で根本から見直しが迫られるようになるはずです。
栗本氏が「世界史の起源になった土地」と呼んでいる、南シベリア、北満州、そしてセミレチエ(チュー川流域)。アフリカを出た人類はいったんこの地で初期文明を築き、メソポタミアをはじめ世界各地に拡散していったという