過去10~20年の間に、ネットワーク機器は進化し続けており、さまざまな機能が開発・サポートされてきました。「プロのための[図解]ネットワーク機器入門」は、そんなネットワーク機器にスポットを当て、実践的な製品知識をつけていただこうという書籍です。
本書の魅力のひとつに、ネットワーク機器が成立した歴史的経緯を踏まえた記述があります。その一端をご紹介します。
メトカフ博士による開発着手
1973年5月、アメリカのゼロックス社でロバート・メトカフ博士(RobertM.Metcalfe)がイーサネット(Ethernet)を開発しました。19世紀に電磁波や光を伝えると考えられていた“Ether(エーテル)”という物質名と、“Network(ネットワーク)”が合体して“Ethernet(イーサネット)”という言葉が作られたのです。
メトカフ博士は、初期のパソコンを開発していたPARC(Palo Alto Research Center;パロアルト研究所)の研究職員でした。その頃ゼロックス社は、世界初のレーザープリンタを開発中で、PARC研究所内のすべてのコンピュータをそのプリンタに接続しようと考えていました。そのためメトカフ博士は研究所のネットワークシステムの構築を依頼されていたのです。
CSMAとイーサネット
当時最新の高速レーザープリンタを制御するのに十分なスピードを持ち、同じ建物の中にある数百台のコンピュータを接続するという過去に例がないネットワークを構築しなければなりませんでした。このネットワークシステムの構築に博士が使った技術というのがCSMA(Carrier Sense Multiple Access)です。
メトカフ博士はARPANETとハワイのアロハネット(ALOHA NET)の構築に参加していました。アロハネットとは、無線を使ってハワイにあるいくつかの島々を結んだネットワークで、現在のLAN通信方式と同じ、CSMAが採用されていたのです。
CSMAでは、同じ通信回線を使って複数のコンピュータが自由にデータを送ることができるように、通信の衝突検出と再送信ができる仕組みになっています。アロハネットでは、通信を行う通信回線として電波を使いましたが、代わりに同軸ケーブルを使って高速通信を行うネットワークインタフェースとして開発されたのがイーサネットです。
伝送速度の向上
イーサネットが発明された1976年当時の伝送速度は2.94Mbpsで、100台以上のワークステーション(端末)を1kmのケーブルで接続しました。また、光ファイバを利用して150Mbpsでの高速通信を行うなど、研究レベルではさまざまなイーサネットネットワークの実験が行われていました。
その後、1979年にDEC社とIntel社、ゼロックス社が共同で、最も経済的な伝送速度として10Mbpsを導き出し、これをDIX規格(DIXはDEC、Intel、Xeroxの頭文字)として策定しました。このDIX規格を、翌1980年に開催されたIEEE 802委員会へ「Ethernet1.0規格」として提出しました。
現在広く普及することに成功したイーサネットは、その後の1982年に提案された「Ethernet 2.0」の規格が基になったもので、IEEE 802.3CSMA/CDとして1983年に標準仕様が決定されました。
その後、 伝送速度を10Mbpsから100Mbps、1Gbps、10Gbpsなどに高速化したものや、ツイストペアケーブルや光ファイバなどを伝送媒体に使用した規格などが作られ、今も発展を続けています。