人物でつづる統計学

現代の統計学はいろいろな人によって、大きな発展を遂げました。そんな人たちから、統計学の図鑑をもとに、何人かご紹介したいと思います。

ナイチンゲール

ナイチンゲールはイギリスの看護師です。クリミア戦争の際、傷病者の多くが医療体制の不備のために死亡していく実態を体験し、陸軍の医療衛生制度の改革を訴えます。

このとき「統計データの重要性」「訴え方(いまでいうプレゼンテーション)の重要性」を知ることになります。

彼女は若い頃から「近代統計学の父」と呼ばれるベルギー人アドルフ=ケトレー(1796~1874)を信奉し、数学や統計に強い興味を持っていました。彼女はその知識を存分に使って膨大なデータを分析し、軍人の多くが戦闘の傷ではなく、傷を負った後の治療や病院の衛生状態が原因で死亡したことを明らかにしたのです。

ナイチンゲールの献身的な活躍と、統計学を用いた説得力で、病院内の衛生状況が改善され、傷病兵の死亡率を劇的に引き下げることになります。

カール・ピアソン

カール・ピアソンはデータの分布や相関などの統計的手法を考案し、⁠記述統計学」の分野で大きな貢献をしたイギリスの統計学者です。

ピアソンは、生物の遺伝と進化の研究の過程で、⁠相関係数」⁠積率相関係数)を発案しました。現在多用されているカイ2乗適合度検定も、この研究の中で生み出されました。

また、現代に残るものとしては、⁠ヒストグラム」「標準偏差」も彼の功績です。

一方、彼の息子エゴン・ピアソンはイェジ・ネイマンとともに「仮説検定」「信頼区間」の理論を発表し、現代統計学の重要な柱となっています。⁠帰無仮説」「対立仮説」との2つの仮説や、仮説を検討する「検定統計量⁠⁠、⁠棄却域」⁠棄却」といった手法を提案したのです。

ウィリアム・ゴセット

ゴセットは、少ない個体数から全体を知ろうとするときに用いられるt分布」を発案しました。

彼は、大学卒業後、ビールのギネス社に就職し、原料の品種や醸造の管理で、統計学の実際を学びます。そんななかゴゼットは、会社から休暇をもらいカール・ピアソンの研究室で研究し、不朽の論文『平均の確率誤差』を発表します。

ゴセットは少数の標本から全体を推定したかったのですが、当時の統計学は「大きな標本」を理想としていました。発表当時、この小標本に関する論文は目立ちませんでした。

ところで、ギネス社は社内の実験データを社外に持ち出すことを快く思っていませんでした。そこで、ゴゼットはスチューデントというペンネームで論文を発表します。そのためt分布」「スチューデントのt分布」と呼ばれています。

ゴセットはその活動を生涯ギネス社に知られませんでした。そして、最終的にロンドン醸造所の所長になったそうです。

彼の死後、友人が追悼論文集のための寄付をギネス社にかけあったとき、ゴゼットがあの「スチューデント」だと知ったといいます。