ベイズの理論の広がり
この10年、ベイズの理論は幅広い分野で活用されるようになりました。例えば、ホームページの検索で有名なグーグルでは、効率の良い検索ができる論理としてベイズの理論が利用されています。また、電子メールの迷惑メールの振り分けに、この考え方が活かされています。「感情が経済を動かしている」と主張する行動経済学などの分野でも、盛んに利用されるようになってきました。
近年、マスコミ界ではAI(人工知能)の研究やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)など、情報理論の言葉が日常的に飛び交っています。
その最新の世界にもベイズの理論は活躍の場を広げています。
一方、ベイズの理論に関して、「わかりにくい」、「複雑だ」といった話をよく耳にします。確かに、ベイズの理論に関する文献をひも解くと、たくさんの数学記号が紙面を埋めていたり、著者の研究分野に偏った内容に主眼が置かれたりしていて、けっして易しいという印象は受けません。
しかし、ベイズの理論について、「難しい」といって逃げることができない時代に突入しているのです。
ベイズの理論とは
ベイズの理論は色々ある確率論の中の一つです。「2度あることはきっと3度ある」と考える人を正当化する確率論です。
何回も実験して確かめられることを前提とする確率論を頻度論と呼びます。中学校や高等学校で扱う確率論はこの頻度論です。20世紀までの確率・統計学の主流の論理で、現代を支える生産管理や疫学、実験計画などで大いに活躍しています。
例えば、次のような日常の例を考えてみましょう。
- 【例1】
A君のB大学合格確率は50%
- 【例2】
明日の株価が上昇する確率は80%
- 【例3】
僕が彼女の愛を射止める確率10%
- 【例4】
新開発の抗癌薬Cが末期患者に効く確率は50%
日常会話で用いる限り、これらの例文は何の違和感もないでしょう。しかし、「頻度論」的な立場で見直すと問題が生じます。
【例1】の「大学合格確率」50%を確かめるには、頻度論的にはA君は何回もB大学を受験しなければなりません。しかし、大学入試の機会はそれほど多くはありません。すると、この合格確率50%は何を意味するのでしょうか。【例2】、【例3】も同様です。明日の株価は1回限りのものですし、人の愛を射止めるかどうかも繰り返せるものではありません。【例4】の新薬についても、命に直接関わる薬の場合には多くの人にその効能をテストすることは出来ないでしょう。
このように、日常的に用いられる「確率」概念は、学校で教えられる頻度論とは相容れない場合があります。これらを取り込める新しい理論が求められます。その代表がベイズの理論です。
ベイズ理論の特長
頻度論は「固定した確率」からデータが生まれ、ベイズの理論では「データから確率分布が得られる」と考えます。
「データから確率分布が得られる」というベイズの理論の考え方は、頻度論よりも拡張性に富みます。頻度論は仮定した確率値が正しいかを確かめるために、試行を何回も繰り返す必要があります。それに対してベイズの理論では、たった1個のデータからも妥当な結論を引き出すことが出来るのです。
この性質のお陰で、先の【例1】~【例4】などの確率現象を十分に分析対象とすることが出来ます。人間の信念や確信、理解度など、更に抽象的な内容についても、ベイズの理論は研究対象にすることが可能です。
現代において、AI(人工知能)や経済学、心理学でベイズの理論が多用される理由はここにあるのです。