改訂新版で何が変わったのか?
本書は2011年に初版が発行されました。すでに5年の月日が流れ、テーマであるRed Hat Enterprise Linux(REHL:レルと読む)も、Version 5.5から7になりました。それに従い、主要な変更点であるsystemdという新機能の解説を追加しています。sytemdとは、Linuxが最初に起動するプロセスで、これに伴う変更点はシステム全体に及ぶのですが、本書では基本的な部分を押さえつつ、旧バージョンとの動作の違いから解説をしていきます。その点で、従来の読者を置いてけぼりにせず、スムーズに新技術のメリットを理解できるようになっています。――と、本書の特長である懇切丁寧な解説の一端を書きましたが、重版御礼の本書で変わらないものがあります。それは各章にちりばめられたコラムです。
コラム その①『深夜のマシンルームのときめき』
改訂版では「Linuxエンジニア温故知新」というコラムタイトルになっています。このコラムでは、IBMのRS6000/SPというUnixシステムで、16台のコンピュータにネットワークインストールをする話が書かれています。1台のマシンにOSをネットワークインストールすると、その1台をベースに残り15台へのインストールが始まるという話なのですが、これがLinuxのキックスタートインストールの解説につながっていきます。マニュアル片手に何度も繰り返し作業をしていくうちに、システムの本質的な理解につながっていったというエピソードにもなっています。しかし「なぜときめいたのか」それはぜひ本書を読んでみてください。
コラム その②『英語の情報を活用していますか?』
英語の文献にあたることが、オープンソース技術の理解に必須であるというアドバイスが書かれています。外資系のIT企業の現場を転戦してきた筆者だからこその説得力です。Linuxの情報はあえて英語のWebサイトから調べる、和訳が出ている技術書でも英語の原著を購入するという経験談を書かれています。「最初は効率が悪くても、かけた時間の分だけ、知識とスキルは向上すると信じてください」ということです。エンジニアとして1つ突きぬけるために英語学習にトライしたくなります。
コラム その③『ネットワークケーブルの乱れは運用の乱れ?』
Linuxサーバとネットワーク、両方の知識を持つことの重要性を説いています。
「きちんと管理されたネットワークであれば、サーバ側とネットワークスイッチの終端がマッチングできるように、ネットワークケーブルにラベルが付いています。これを見ながら、ネットワーク設計書と現場の物理配線の対応を頭に入れていきます」こうすることによって、本当に頭の中に設計書ができて現場が理解できるようになります。もし問題が起きたときに、何が原因なのか的確にわかるわけです。
コラム その④『カーネルのソースコードを読む!』
ソースコードを読む。そのきっかけはBondingドライバーの検証からという話なのですが、ARP監視の仕組みを読み解く過程で「火星と通信するには、これでは足りない」というコメントをソースコードの中から見付けたという逸話など、ソースコードを読むという行為が無味乾燥な難しいものではなく、きわめて人間的で技術者が何を考えているのかが感じられて面白いことを教えてくれます。
コラム その⑤『Linuxをマスターするために』
すべてではありませんが、本書に掲載されているコラムを少し紹介しました。
中井悦司さんは非常に多作です。わずか5年の間に共著も含め10冊ほど出版をしています。他の本でも、本書と同様に洞察力溢れる技術コラムがたくさん載っています(奥様との出会いをさらっと書いたものあったような……)。
なぜこんなに本を書くことができるのかと、同僚から問われた中井さんはこう言います。「とにかく余った時間を活用しているんです」――事実、当社の『Docker実践入門』と『ITエンジニアのための機械学習理論入門』はほぼ同時の出版です。これは、朝は1時間早く出社し、駅近くのカフェでゲラを読み込み、校正をしていたそうです。会社では会議と会議の間のわずかな休憩時間でも原稿を執筆していたそうです。細かい時間をいかに使うか、そこに鍵があるようです。
そんな中井さんのすべてのLinux技術と経験を投入した本が、『プロのためのLinuxシステム・ネットワーク管理技術』、『プロのためのLinuxシステム・10年効く技術』です。初心者向けには『独習Linux専科』があります。ぜひご一読ください。