一億総ITサービス業時代のITSMの学び方

インターネットが普及し、一般家庭でもパソコンなどのIT機器が当たり前になった2000年以降、サービス業の多くがIT化されていきました。ショッピングや銀行、行政などのサービスをインターネット上で利用することも、今では当たり前になっています。今後、電子マネーの普及(iPhoneでも使えるようになりました)やマイナンバー制度の本格導入により、日本でも「サービスのIT化」が急速に進むと予想されます。

「ものづくり」のITサービス化が加速

一方、日本のお家芸とも言える「ものづくり」の業界にも、ITサービス化の波が押し寄せています。

現在、最も大きな影響を受けているのが、ゲーム業界です。かつては、任天堂やソニー、セガなどのメーカーがそれぞれ家庭用ゲーム機を販売し、カートリッジや光学メディアなどの形態で専用ゲームを販売することで利益を上げていました。しかし、高性能なスマートフォンが普及したことで、わざわざゲーム機を購入する必要がなくなり、ゲーム自体もインターネットからダウンロード可能になりました。さらに、一般に「ソーシャルゲーム」と呼ばれる、ユーザーに半永久的に有料コンテンツを提供し続ける方式のゲームが人気を博したことで、従来の売り切り型のゲームは過去のモノになりつつあります。今や、日本の従来型のゲームの売り上げをすべて集めても、ソーシャルゲーム1作品の売り上げにすら及ばないのです。

日本が世界に誇る自動車業界も、例外ではありません。現在、AI(人工知能⁠⁠、IoT(モノのインターネット)などの最新IT技術が投入され、自動運転や安全管理などのITシステムの開発競争が激化しています。さらに、電気自動車や発電システムの開発により、自動車が「走るコンピューター」となり、クラウド上でITサービスの一部としてコントロールされる時代がすぐそこまできています。実際、インターネット上で自動車配車サービスを展開している「Uver(ウーバー⁠⁠」は、将来的にはすべての配車を自動運転車で行い、サービス全体をIT化することを計画しているそうです。

その他にも、スポーツ用品メーカーであるナイキやアディダス、アシックスが、用具を含めた総合的なITフィットネスサービスの提供に舵を切っており、家電業界でも、スマートホームと呼ばれるITサービスの導入が進みつつあります。

今こそITサービスマネジメントを学ぼう!

このように、すべての業種がITサービス化しつつある現在、事業を成功させるには「ITサービス」とは何かをしっかり学ぶ必要があります。

そもそも、⁠サービス」「製品」は真逆の概念です。製品はそれ自体に価値がありますが、サービスの場合、購入した時点では価値はありません。その代わり、⁠ユーザーの手助けをして目的を達成する」ことが、そのサービスの価値になります。その「手助け」の利便性や確実性が高ければ高いほど、よいサービスとして評価されるのです。

また、サービスにより実現する「目的」が、ユーザーが求める目的とずれてしまうと、とたんにそのサービスは利用されなくなります。一時的な成功に満足せず、常にユーザーの目的をリサーチし、⁠良質な価値を提供し続ける」必要があるのです。

さらに、ITサービスの場合は、一般的に大規模なITシステム上で多数のユーザーを相手にして、常に一定の品質で価値を提供する必要があります。特に、障害が起こったときの対応は重要で、うまく対処できないとたちまち悪評が広まり、大量のユーザーを失うことにつながります。ITサービスを提供するための管理・運用の技術を「ITサービスマネジメント(ITSM⁠⁠」と呼びますが、ITSMでも、障害への対処法やユーザーサポートを最重要の課題と位置づけています。

今後、どの業種でもITSMの基本や実践方法の知識が重要になりますが、ITSMを学ぶ上で最良の教科書「ITIL」は英語の文献であり、理解するのは骨が折れます。そこで日本では、⁠史実」「物語」を例にITSMを解説する試みが行われてきました。アポロ13で学ぶITサービスマネジメントでは、映画『アポロ13』を題材に、障害対応や運用・管理の方法を「実際の映画のセリフ」を使って臨場感豊かに解説しています。本書を読んでITSMを学んでおけば、実際の業務で障害が発生したときも、アポロ13号のスタッフのように勇敢かつ冷静に対処できることでしょう!