事業構造をモデル化するメリット
業務システム開発においては、それが新規開発であっても現行システムの置き換えであっても、実際に行われている業務を詳細に分析し、正しく理解する必要があります。業務の分析作業は、業務部門の担当者、システムエンジニア、情シス部門の担当者など複数の専門家が協力して進めていくことになります。そして分析の結果(業務の流れ、やり取りされる情報など)を定められた形式・表記法に則って表現し、その結果からは、すべての関係者が同じ内容を読みとれるようにしなければなりません。このようにして作られた成果物を「モデル」と呼びます。
モデルには、業務内容、ひいては企業の事業構造がそのまま書き写されることになります。事業構造を矛盾なく正確に表現したモデルは、開発者から経営層まで、事業に関与するさまざまな立場の人が共有できる設計図として働きます。後に続く設計フェーズや開発フェーズでのユーザ側と開発側の認識のずれをなくすことはもちろん、分析結果をもとに現在の事業が持つ強み・弱みを正しく把握し、事業の改善を推し進めることにも繋げられます。
また、事業の内容に変化があった場合にも、モデルによって事業構造が明確になっていれば、変更すべきポイントを外すことなく適切な対応をとることができるのです。
TM(Theory of Models)とは
こうした事業分析のためのモデル作成手法にはさまざまなものがあります。佐藤正美氏が考案した「TM(Theory of Models)」もその1つで、事業分析、データ設計の分野で長く活用されています。TMは、同氏が考案したT字形ERと呼ばれるモデル作成手法を再体系化したものであり、システムエンジニアの経験に基づいた解釈などに依存することなく、厳密かつシンプルな規則に従って事業構造をモデル化するための技術です。TMによるモデル作成を行うことで、すべてのステークホルダーが共通の認識を持ちながら、変化に強い業務システムを構築することができます。
技術評論社が刊行する『事業分析・データ設計のためのモデル作成技術入門』では、このTMを使ったモデル作成の理論と技術を、考案者である佐藤氏が分かりやすく解説しています。解説の合間には練習問題を用意しました。事業構造を正確に分析し、モデル化するための理論と技術をしっかり学ぶことのできる1冊です。