「リスク」統計に基づいて明らかに

身近なリスク

リスクは、最近特によく聞く言葉かもしれません。感染症、戦争、経済……様々な話題についてくるのがリスクという言葉です。リスクはできれば避けたいものですが、なかなかそれにも限界があります。例えば健康に関するリスクに配慮する場合、外出するとしても感染症のリスクが出てきますし、かといって家に引きこもっているのも別の病気のリスクが考えられます。このように、起きうる不都合なことを考えているだけだと何もできなくなってしまいます。そこで、無意識かもしれませんが外に出かける場合は無数にあるリスクから以下のようなリスクを優先して対策をしているかと思います。

  • 流行している感染症のように、不都合なことが起きやすいリスク
  • 交通事故のように、起きる確率はそれほど高くない一方で、起きたときの影響が大きいリスク

この一方で、以下のようなリスクへの対策の優先順位は低くなるかと思います。

  • 歩き回った結果足が疲れるというような、起きやすい一方で影響はそれほど大きくないリスク
  • 隕石が落ちてくるというような、結果は重大な一方で起きる確率は極めて低いリスク

このようにリスクを考える上では、⁠起きる確率」「起きたときの影響」の両方を考えることが重要になっています。これは食品や製品などのリスクについても同じような考え方をすることができます。

食品の安全から考えるリスク解析

リスク解析がわかるでは統計学に基づいてリスクを把握することに重点を置いて解説しています。例として、食品の代表的なリスクである食中毒について考えてみましょう。食中毒を避けることを徹底するならばすべての食品について検査を実施して、原因となる成分が全く含まれていないことを確かめる、ということをしたくなります。しかし、現実としては検査した食品をそのまま食用として戻すことは難しく、厳密にすべてを検査することは不可能です。加えて、少量なら問題なく、摂取しすぎると害があるような成分もあります。そこで、適切な検査の内容を検討する必要があります。

一般毒性を持つ物質については、どれくらいの量までであれば害が出ないのかが研究されており、この量は無毒性量(NOAEL)と呼ばれます。この無毒性量の値ギリギリまでなら問題ないと考えるかというとそうではなく、実験と実際の差や人間1人1人の個体差があることを踏まえた不確実係数と呼ばれる値(一般的に使われる値としては100など)で無毒性量を割った値を、毎日摂取し続けても健康被害が出ない値ということで、1日許容摂取量として定義されています。

実際には、ある物質Aの無毒性量は1mg/kg/dayのように1日で接種しても無害な量が体重1kgあたりの値で表されます。この物質Aの不確実係数を100とすると、1日許容摂取量は1/100=0.01mg/kg/dayとなり、体重が60kgの人であれば毎日0.6mg摂取し続けても健康被害は出ないというように考えます。このような値を踏まえて検査の基準が決定されます。

基準値さえ決まれば検査ができるというわけではなく、すべての食品を検査することは現実的でないので、一定のまとまり(ロット)からどれくらい取り出して検査するのかを検討する必要があります。

サンプルの分布、基準値、検査する数から、不良品の割合ごとの合格率を表すグラフ(OC曲線)を描くことができます。ここから、不良品の多いロットを合格としてしまうリスクと、不良品の少ないロットを合格としてしまうリスクが割り出されます。検査するサンプルの個数を増やすとコストがかかる一方でこれらのリスクは下がるので、コストとリスクを総合して適正な検査数を判断します。

様々な業界で使われるリスク解析

今回紹介した検査の考え方はあくまで一例ですが、統計と確率を駆使して食品の安全が確保されています。食品だけでなく、工業製品や衛生などの分野でもリスクの解析が行われています。本書では、基本的な数学の内容からスタートして、様々な例とともにリスク解析の解説をしています。