AI技術の進化により、社会のさまざまな場面でAIの活躍を目にすることが増えました。高品質なAIチャットや画像生成AIが話題になっていることは、皆さんもすでにご存知でしょう。
たとえばゲームの分野でも、AI技術は積極的に活用されています。ゲームへのAIの応用例の1つに、コンピュータゲーム全体を統括しバランス調整などを行うメタAIがあります。しかし、多くの人がゲームAIと聞いて思い浮かべるのは、やはり対戦AIではないでしょうか。
将棋や囲碁といった複雑なゲームですら、すでに人間を超える強さを発揮する対戦AIが登場しています。こうした対戦AIの強さは、機械学習やディープラーニングといった技術のほか、「探索」と呼ばれる技術にも支えられています。探索とは、あるデータの集まりの中から必要な情報を探し出すことをいいます。
ゲーム木の効率的な探索
将棋や囲碁のようなゲームでは、1手進むごとに盤面が変化します。多くの場合、ある盤面で可能な着手(合法手)は複数存在するため、着手の違いによって盤面はどんどん枝分かれし変化していきます。このような、着手とその結果の盤面を枝分かれした木のようなデータとして表したものをゲーム木と呼びます。
合法手をすべて試し、あり得るすべての着手の組合せを網羅して最後までゲームをプレイできれば、その結果に基づいて最適な着手を選択することが可能です。しかし、1手進むごとに合法手の組合せ数は急速に膨れ上がるため、ゲーム終了までのすべての着手の組合せを現実的な時間内に検証することはできません。
そこで、巨大なゲーム木を効率的に探索する(無駄な探索を減らす)ことが重要になります。ここで活用されるのが各種探索アルゴリズムです。ゲーム木を探索するためのアルゴリズムを使うことで、限られたリソースを使って効率的に、より良い解をゲーム木の中から探し出せるのです。
ゲーム木を探索するためのアルゴリズムには、MiniMax法、AlphaBeta法、反復深化探索、MCTS(モンテカルロ木探索)などがあります。
組合せ最適化問題とメタヒューリスティクス
巡回セールスマン問題をご存知でしょうか。巡回セールスマン問題は、与えられた複数の都市すべてを1回ずつ巡る最短の経路を求める問題です。これは、組合せ最適化問題と呼ばれる、最適解を見つけることが困難な問題の一種として知られています。
組合せ最適化問題は、複数の候補の中から最適な選択を行う問題であり、多くの場合、探索アルゴリズムを使用して解決されます。しかし、問題が複雑化すると、探索アルゴリズムでは最適解を見つけられない場合があります。
このような時に有用なのが、メタヒューリスティクスという手法です。メタヒューリスティクスは、最適解を保証するわけではありませんが、探索アルゴリズムに比べてより高速に最適解に近い解を見つけられます。メタヒューリスティクスの手法には、遺伝的アルゴリズム、局所探索法、焼きなまし法などがあります。これらの手法では、膨大な数の解の候補を探索しながら最適解に近づいていきます。
生産計画の最適化、ルート探索、データ検索など、社会のさまざまな場面で探索技術が活用され重要な役割を担っています。AI技術の進化や社会の複雑化に伴い、木探索アルゴリズムやメタヒューリスティクスの重要性はますます高まることが期待されます。
技術評論社が発売する『ゲームで学ぶ探索アルゴリズム実践入門~木探索とメタヒューリスティクス』では、シンプルなゲームを題材に、各種探索アルゴリズムの動作のしくみと実装のポイントをわかりやすく解説しています。探索アルゴリズムについて基礎から学ぶために最適な入門書です。