1月24日に開催された『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則【生成AI対応版】』刊行記念イベントでは、著者の松上純一郎氏が、生成AIを生かした資料作成の基本やリモートワーク時の考え方、最新トレンドについて詳しく語りました。
本記事では、そのイベントの内容を全3回に分けてお届けします。
第1回目となる今回は「資料作成における生成AIの活用」をテーマに、AIと人間の役割分担について考えます。
生成AI・リモート時代の資料作成に対応
皆さん、こんにちは。『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則【生成AI対応版】』の著者、松上純一郎です。
2019年に出した『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』から約6年経ちまして、このたび新たに時代の流れに合わせた形で改訂版が発売されました。もともと500ページあったのですが、色々と加筆した結果今回は600ページの大ボリュームになって生まれ変わりました。
改訂の目玉は、やはり生成AIですね。生成AIをどのように資料作成に役立てればいいのか、プロンプト(命令文)のサンプルとともに書いています。収録されているプロンプトは、ダウンロードしてご自身で活用いただける形になっています。
もう1つの改訂ポイントとしては、リモートワークにおけるプレゼンテーションの考え方やスキル、ノウハウの部分です。
今はまた出社も増えてきましたが、取引先との打ち合わせとか、今後もリモートで対応されるケースは多いと思います。そうすると、非対面でどのようにして自分の言いたいことを伝えるか、資料をどのように見せた方がいいのかが大事になってきますね。そのあたりも加筆しました。
たとえば、アニメーションですね。私はコンサルティング業界出身なのですが、「アニメーションを使うな」が業界では原則でした。対面のプレゼン前提なので、口頭での説明や、資料のこの部分だと示すことで伝わるという考え方です。
しかしリモート会議になると、そのやり方では限界がきますよね。うまくアニメーションを使いながら、いかに見てほしいポイントに誘導するか。こうした、リモートでも通用する資料作成のあり方を今作では補強しました。ちなみにここでいう「アニメーション」は、キャッチーにするためではなく、言いたいことをより伝えるためのプロフェッショナルなアニメーションのことです。
さらに、資料作成のトレンドについても反映しています。MSPゴシックからメイリオ(Meiryo)にフォントを変える企業が増えたり、6年前はあまり使っていなかったアイコンが使われるようになったりといった話ですね。
- 生成AI活用
- リモートワーク対応
- 資料作成のトレンド
これら主に3つの観点から、今回6年ぶりに改訂を行っています。こういった話にもフォーカスした資料作成本はなかなかないです。前のバージョンをお持ちの方も含めて、皆さんのお役に立てる1冊になっていると思います。
AIはどの工程に使うべき?
この本でも様々な生成AI活用法を書いていますが、まずは資料作成の手順を理解しておく必要があります。
資料作成の手順をある程度押さえておいた方が、イチから生成AIに聞くよりも速いです。まずお伝えしたいのが、この中でも上流の部分は、なかなかAIに渡せないということです。
(本書7pより)
資料作成において何が一番重要か、皆さんわかりますか?
資料作成とはつまり、コミュニケーションだと思うんですね。誰かに何かをしてもらうために、情報を提供する。そこでとても大切になるのが、コミュニケーションの目的を決めることです。
「目的」とは何かというと、誰に対して、どういう状態になってもらうか。どういうアクションをしてもらうか、ということです。もっと言うと、誰が伝えて、誰が誰にどういう行動をしてもらうか。そこまで含めて、実はコミュニケーションの目的設定が非常に重要なんですね。
そのために「何を」伝えるかという話は、実は後にくるんです。「こういうことを伝えたい」が先ではなく、「相手にこういう状態になってもらいたい」、だから「こういうことを伝えて、こんな順番にする」。この順番が大切です。
相手がどういう人で、どういうアクションをしてほしいのか。これは生成AIが決められることじゃないんですね。もちろん、プロンプトを駆使して「これから3回の打ち合わせがあります。3回目にはこういう状態になっていたいので、1回目の打ち合わせは、どういう状態になっていれば良いですか?」といった質問はできます。
ただ、そこは自分で設計した方が早いんです。相手がどんな人となりで、どんなことに興味関心があるのか。そのインプット情報をもとに仮説を立てながら「こういう行動を促したい。そのためには、こんなことを伝えたい」といった部分は、自分で規定しないといけないんですね。これが、人間の仕事として一番最後まで残るところだと私は思います。
(本書545pより)
自分が定めた目的に沿って「こういうストーリーの流れにするとよさそうです」と提案するのは生成AIの得意分野です。相手との関係性などを考慮した微調整は必要ですが、資料のストーリーラインを作る部分でAIは頼りになります。構成に応じたスライドの概要づくりや、情報収集にも使えますね。
スライドのレイアウトの形で出力してもらうのはまだ難しいですが、数年後にはできるようになると思います。現時点でできる作業例については、本の中にプロンプトを載せたのでぜひ参考にしてみてください。
Chat GPTの出力をスライドに落とし込む
出力内容をスライドへ落とし込む作業について、活用例を少しご紹介したいと思います。
このChat GPTに関する説明資料は、実はChat GPTで作りました。どのように作成したのか、3つのステップで説明します。
最初に、Chat GPTから情報を得ます。まずはシンプルなプロンプトで説明しますね。
「初心者にChat GPTについて理解してもらうために、3つの点で説明してください。3つの点には10文字以内の見出しをつけるようにしてください」
こういったプロンプトを入れると、それぞれの見出しと内容が出てきます。どこまで正確か確認は必要ですが、リリース当初と比べて劇的にレベルアップしていると感じます。
続いて、強調する部分を特定します。「強調」はスライド作成においてとても重要です。文章がたくさん一気に出てくると、どこが重要なのか明確にする必要がありますね。たとえば私はこのようなプロンプトを使っています。入力文には、先ほど出力された文章を入れています。
「あなたはChat GPTについて説明するトレーナーです。以下の入力文の中で、特に重要な文章を指摘してください」
「制約条件:特に重要な文章を太字で抽出してください」
そうすると、強調すべき重要な箇所を示してくれます。
スライドの要点をまとめてもらう
最後のステップとして重要なのが、スライドメッセージを作ることです。これは資料作成の基本なので、ぜひ取り入れていただきたいですね。私はスライドを作る時に、タイトルの下の部分にスライドメッセージを書くことをおすすめしています。
「ここだけ読めばOK」と要点を示すのがスライドメッセージです。ここを書いておくと、スライドが10枚くらいあっても、読み手に時間がなくても、内容を理解してもらえます。
もうひとつのメリットが、スライドの中で一番言いたいポイントが明確になることです。「この資料で何が言いたいのかよくわからない」と言われたこと、ありませんか? これはスライドメッセージをちゃんと作っていないのが原因です。
実は、スライドメッセージを書くことは結構レベルが高い作業なんです。たくさんある情報の中でどこが大事なのかを考えた上で、最大2行にはおさめたいです。短い文章にまとめるには抽象度を上げなければいけないので、これは訓練が必要なんですね。具体的な内容と抽象的な内容をどちらも出せる、行き来できるのは、論理思考において重要なスキルです。
ただ、最初はなかなかできないので、Chat GPTの力を借りましょう。スライドの内の、具体的な情報を書き込んだ部分について「30文字以内にまとめてください」とChat GPTに指示すると、きれいにまとめてくれます。
自分が言いたいポイントとずれている時は「○○を強調して書き直してください」といった指示をすればOKです。この3ステップ目まで終えればパーツがそろうので、あとは仕上げるだけです。最終的に、最初にお見せしたスライドのような形に落とし込めるかと思います。
Chat GPTから表やスライド形式で出力させる方法について解説した第2回は2月20日(木)に配信予定です。
- プロフィール
松上純一郎(まつがみじゅんいちろう)
同志社大学 文学部卒業、神戸大学大学院修了、英国University of East Anglia修士課程修了。
米国戦略コンサルティングファームのモニターグループ(現モニターデロイト)で、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、外国政府の依頼によるツアリズムのマーケティング戦略、外資系医療機器メーカーの主要管理指標(KPI)策定、国内企業の海外進出戦略の策定に従事した。
その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて日本企業の新興国進出支援プロジェクト(バングラデシュやザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や営業改善プロジェクトを統括する。
現在は株式会社Rubatoの代表取締役を務める。Rubatoにて企業に対しての経営コンサルティングを提供する一方で、提案を伝え、人を動かす技術を多くの人に広めたいという想いで、2010年より資料作成講座を開始。毎回キャンセル待ちが出る人気講座となった。現在は企業向け人材育成サービスや個人向けビジネススキルトレーニングに事業を拡大し、ビジネスパーソンに必要なスキルの普及と啓蒙に努めている。
2025年1月、累計5万部突破のロングセラーを6年ぶりにリニューアルした『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則 【生成AI対応版】』を上梓。他にも著書に『ドリルで学ぶ!人を動かす資料の作り方』(日本経済新聞出版社)、監修作に『この1冊で伝わる資料を作る! PowerPoint 暗黙のルール』(マイナビ出版)がある。