内容だけが「本」じゃない
本を読むとき、わたしたちの意識が向いているのはきっとその内容のはずです。小説なら物語や文体を、実用書なら情報の正確さやわかりやすさを、専門書なら議論の筋道や網羅性を気にしながら読んでいることでしょう。そうですよね。だって、「内容」を読みとりながら楽しんだり学んだりすることこそが読書の目的なのですから。
とはいえ実のところ、そういった読書の体験を支えているのは「内容」だけではありません。ページの開きやすさ、紙の厚み、文字の大きさ、行間、余白、ノンブルの位置、表紙やカバーの手触り……「本」を成り立たせている目立たないそれらの要素たちだって、体験を大きく左右しています。たとえば同じ内容でも、文庫で読むか、単行本で読むか、雑誌で読むかで印象が違うことでしょう。文庫は片手で持ちやすく鞄に入れやすい。ハードカバーには重みがあり、装丁も凝っていて、長く手元に置くものという印象を与えます。雑誌であれば紙面の配置や写真で雰囲気を味わいたくなるはず。
そうです、「本のかたち」は、内容の受け取り方にも関わっているのです。
「だいたいそうなってる」理由
そんな本のかたちについて考えていると、多くの本がある程度似たかたちに落ち着いていることに気づきます。文庫や新書の大きさ、カバーの折り返し、帯の位置、文字の大きさ、目次や奥付の置き方などなど。べつに、法律や規格で厳密に決められているわけでもないのに……。
これらは、印刷や製本の都合、紙の「取り都合」、書店の棚に並べられるという事情、わたしたち読者の手の大きさ、それに長年の慣習が重なって生まれたものです。
この意味で、本はかなり総合的な「工業製品」といえるかもしれません。著者の原稿だけでなく、編集、デザイン、組版、印刷、製本、流通、販売の判断が積み重なり、相互に絡み合った結果が1冊の本としてまとまっているからです。文字を大きくすれば読みやすくはなるけれど、ページ数が増えて本の厚みや価格に影響してしまいます。紙を厚くすれば質感は良くなりますが、本は重くなります。開きやすい製本にすれば便利ですが、コストや耐久性との兼ね合いに頭を悩ませられるかもしれません。そういったさまざまなことが考慮された結果、1冊1冊の本がその本のかたちになり、たくさん刷られて世に出てきているのです。
もちろんわたしたちだって、ふだんからこんな事情のいちいちを意識しているわけでもないでしょう(そうですよね?)。とはいえ、違和感があるとすぐに気づきもするはずです。文字が詰まりすぎていたり、ページが開きにくかったり、紙が透けてしまっていたり、カバーがつるつるで滑ってしまったり、索引が引きにくかったり……ふだんは透明に感じている「本のかたち」が、その設計に失敗したときだけ見えてきてしまう。だからこそ、本の構造を知ることは、単なる豆知識ではなく、本を読むこと、本を作ること、本を売ることを理解するための基礎になります。──もちろん豆知識というだけでも楽しいですけれど!
図解で探る本のひみつ
『本ってだいたいこうなってますよね?:図解で探る本のひみつ』は、こうした「本のかたち」を正面から観察する1冊です。著者の西岡裕二さんは、装丁・エディトリアルデザインを仕事にするデザイナーであり、本書ではデザイナーとしてだけでなく、本好き・読書家としての目線から、いま日本で売られている本──つまり、みなさんが日々手に取っている本のかたちを、じっくりと見ていきます。
本書の魅力は、「こう決まっています」と決まりごととして断定するのではなく、「だいたいこうなってますよね?」という実感に基づいている点にあります。実測値や推定値を交えながら、ルールと慣習のあいだにある本づくりの知識を、図鑑のように眺められる形で整理しています。扱われる範囲は広く、文庫本、新書本、まんが本、並製本、上製本、絵本、辞書、雑誌といった本の種類から、判型、ジャケットや表紙の加工、本文の組まれ方、ルビ、見出し、ノンブル、本文書体、印刷の網点、紙の種類、取り都合、書店の棚、ISBNやスリップ、図書館分類にまで及びます。……おっと、知らない用語がありましたか? 大丈夫です。本書のなかで図解とともに説明されますし、巻末には詳細な用語集も付いています。
手元の本たちと照らし合わせながら──カバーを外し、背をのぞき、紙を触り、ノンブルや余白を確認しながら──本書を読み終えたころには、本の見え方がきっと(少しだけ)変わっているはずです。ふだんなにげなく読んでいる本が、実は多くの判断と技術の集合体であることに気づかせてくれる1冊です。