目指すべきは「遅延を感じさせない仕組み」
ソーシャルゲームやMMO(Massively Multiplayer Online)はもちろん、一人用の買い切りゲームにも、オンライン接続機能が当たり前のように存在する時代となりました。それによりゲーム性が増した半面、無視できないのが「遅延」の問題です。「敵チームがカクカクしていて弾が当たらない」「音が遅れて聞こえてくるせいで状況が把握できない」……一般に「ラグい」と称されるこうした事象は、そのゲーム性やUX(User eXperience)を損ないます。特に、一瞬の操作が勝敗を分ける現代のeスポーツシーンや、高度に競技化されたゲームの世界においては、遅延は致命傷になりえます。
どれほどゲーム機のスペックを向上させていっても、処理にかかる時間をゼロにはできません。一方で、ゲームをプレイし、遅延を観測するのは、常に「ヒト」です。であれば、「ヒトがどのように遅延を感知するのか」を理解し、「ラグを感じさせないための仕組み」を構築できれば、実質的に、遅延が存在しないUXは実現可能、ということになります。そのためには、たとえば以下のような、人間の脳や五感の仕組みの理解が欠かせません。
意識はシングルプロセス
ヒトが同時に処理できる意識は、たった1つです。並列にこなせているように見える処理も、実は複数の処理を順繰りに切り替えながら実現しているにすぎません。
プロセスの寿命は約3秒
1つのプロセスを継続して意識できるのは、約3秒です。3秒を超えて継続させたい場合は、プロセスの再起動が必要になります。
クロック周期は30~40ミリ秒
クロック周期とは、つまり脳が情報を処理する周期のことで、個人差はありますが約30~40ミリ秒の間に落ち着きます。この周期は訓練によって鍛えることもできず、常に一定です。
こうしたヒトのスペックを理解したうえで、2026年6月発売の『遅延VS. ゲームラグの全対策』では、遅延に打ち勝つための具体的なアプローチを3つのステップに分類して解説しています。
要因ごとに改善する
第一の基本技は、発生している遅延を要因ごとに削っていく「要因改善」です。そもそも遅延を生む要因は、冒頭に紹介した「通信」だけではありません。まず第一に、ヒトがゲームコントローラーに操作を入力し、それを処理する時間が存在します。次にCPU/GPUが、その入力に従いゲーム世界を処理するにも一定の時間が必要です。そして、その処理の結果をディスプレイに出力するのにも、やっぱり時間がかかります。これら「入力」「処理」「出力」「通信」にかかったトータルの時間こそが、遅延時間の正体です。
これら各要因については、それぞれ固有の解決法が存在します。ラピッドトリガーやタッチパネルの離し始めをトリガーにするといった「入力」、昨今注目を集める可変リフレッシュレート(VRR)や120ヘルツといった高フレームレート化の功罪に迫る「処理」の最適化、フレーム補間処理などの「出力」、世界中のプレイヤーと繋がる上で避けては通れない「通信」という難敵に対するパケット制御、P2P方式といった対策など、話題は多岐にわたります。
予測によって相殺する
どれだけ物理的な無駄を削っても、取り除けない限界は存在します。そこで登場するのが、大逆転の必殺技とも言える第二のアプローチ「予測相殺」です。あらかじめ未来を予測して予定を前倒しにすることで、「マイナス遅延」を引き算として組み込む手法です。物理法則に従って動く弾道などの軌道予測、音楽ゲームにおける譜面の前倒し表示や、対戦格闘ゲームの通信ラグを極限まで抑え込む「巻き戻し(ロールバック)」、過去のフレームから未来の映像を描き出す「フレーム外挿」にいたるまで、遅延をゼロにするための手法を解説します。
錯覚によって緩和する
最後に紹介するのは、奥の手、第三のアプローチ「錯覚緩和」です。これは、人間の脳を巧みに騙して遅延を「感じさせなくする」手法です。たとえば、ボタンを押してから技が発動するまでのアニメーションカーブに工夫を加えると、人間の脳は遅延を意識の外へと追いやり、100ミリ秒を超える大きな遅延すら完全に知覚できなくなってしまうことが知られています。また、銃のマズルフラッシュや大音量の効果音といった「より強い刺激」に意識を意図的に誘導することで、視覚の遅延をマスキングしてしまうなど、五感をフルに使うゲームだからこそ実現できる手法を紹介します。
長年にわたり暗黙知として蓄積されてきた遅延対策の「あきれるほどニッチな知見」を詰め込んだ『遅延VS. ゲームラグの全対策』で、奥深い遅延対策の世界を体感してください。
村瀬光(むらせひかる)
令和元年入社。2026年現在は書籍第4編集部所属。ビジネス系、デザイン系を中心に企画・編集を担当。
𝕏: @cunlaiguang