2019年12月某日、イラストレーター&Live2Dデザイナーのfumi(@fumi_411)さん執筆の『10日でマスター Live2Dモデルメイキング講座』の刊行を記念して、本書に推薦文を寄せていただいた漫画家・リムコロ(@rimukoro)さん、イラストレーター・巻羊(@rollsheeeep)さんをお迎えし、「Live2Dの楽しみ方」「キャラクターが動く面白さ」から「VTuber」「バ美肉」の誕生と現在、さらにはイラストや漫画にかかわる人のPRや表現の可能性についてお話いただく三者鼎談をお届けします。
Live2Dとの出会い
fumi:専門学校の卒業制作を考えているときに、4Gamer[1]でイラストを動かすツールがあるという記事でLive2Dを知って、面白そうじゃんってなったのがきっかけです。
Live2D社[2]さんにポートフォリオと卒業制作の企画書を持ってアポを取ってみたところ、「うちでバイトしながらLive2Dを覚えてみる?」と学生の自分をとても快く受け入れてくれて、そこではじめてLive2Dに触れました。当時はマニュアルすらなくて、いろいろな出来上がってるモデルを解体して見様見真似で勉強して、2か月くらい必死でバイトをしながらLive2Dを習得しましたね。
巻羊:それは貴重ですね。
fumi:まだ、Live2Dを使ったゲームがほとんど出てない頃だったと思うので、そういった意味でも貴重な経験だったと思います。
巻羊:ソーシャルゲームの流行が「Live2Dを使ってイラストを動かすこと」を一気に広めましたね。
リムコロ:立ち絵が動く豪華さみたいなものが出てきたよね。それからの「VTuber[3]」のブームで、ゲームを作る人だけでなくより多くの人に使われていった印象があります。
巻羊:僕はペイントソフト以外を習得しようかなーと思っていたタイミングで、VTuberを知り、それがきっかけでLive2Dを勉強しました。映像作品を作るのであればLive2Dの公式のマニュアルだけでもわかるかなという感じだったんですけど、やりたいことがFaceRig[4]で使えるモデルの作成だったので、ネット上に散らばってるTIPSを拾い集めて独学で作り上げました。ちょうど2年前くらいだったけど、当時は参考にできるところが本当に少なかったですね。
リムコロ:僕は巻羊くんがきっかけですね(笑)。巻羊くんが僕のモデルを作ってくれた後に、自分でも色々とモデルを編集しようと思って、ネットでLive2Dの勉強をしました。そこそこ扱えるようになりましたよ(笑)。
巻羊:Live2Dはペイントソフトを使っている人ならわかりやすいソフトだと思います。
リムコロ:あとは3DソフトやFlash[5]などを触ってた人がわかりやすいのかなって思います。レイヤーと制御点の概念がわかっている人であれば、すんなりと入れるソフトですね。
3Dにはない良さがある
fumi:Live2Dを知った頃に「サモンナイト5[6]」でLive2Dが使われていて、黒星紅白先生のイラストがそのまま動いてゲームになってることにめちゃくちゃ感動したんですよ。昔はどんなキャラデザでも3Dになるとなんか違うよね感が結構あった。Live2Dの登場で、イラストレーターさんの持つ味、イラストのテイストをそのまま活かして動かせるようになった。そこが、Live2Dの一番の魅力だと思いますね。
リムコロ:最近の3D技術は進化してきましたけど、それでもキャラデザした方のイラストが「かなり高めの再現度で動いている」感じではあるんですよね。Live2Dなら「あの人のイラストがそのまま動いている」という感動がありますね。
fumi:ですね。
リムコロ:あと、描く側としても感動が大きいんですよ。
巻羊:自分がデザインしたキャラを動かすってなったときに、いきなり3Dでやろうとするとハードルが高いと思うんです。その点、Live2Dは自分のイラストがそのまま動かせる。
リムコロ:自分のイラストがそのまま動いていて、「めっちゃ可愛い、これやばいな……」ってなるのは、Live2Dだからこそ味わえる感覚ですね。
巻羊:VTuberさんを運営されている企業に自分のイラストを納品したときも、Live2Dで動いたものが出てくると、「あっ、自分が想像していたよりも可愛く動く!」という感動があります。3Dでは出てきづらい可愛さっていうのがあると思うんですけど、Live2Dはそういった可愛さがそのまま出てくる。最近はLive2Dの後に3D化されるVTuberの方が多いんですけど、決して踏み台的な意味合いではなく、Live2Dだからこそ出せた良さ、その上での3Dになったときの良さみたいなのがあるんじゃないかな。3D化だけじゃ出せないような良さが、Live2Dを挟むことで生まれている気がしますね。
りむちゃん、まきちゃんによる伝説の配信
巻羊:にじさんじ[7]さんが一気に出てきて、「これは新時代きたな……」って思いましたね。使っているのはイラストだったので、「あ、これ自分のイラストでも動かせるじゃん」って気づいたんですよ。そう思い立ってから1週間くらいだったかな、イラストもモデルも全部用意して、(りむちゃん、まきちゃんの)お披露目配信をしました。当初は、VTuberごっこみたいなことをして、何やっとんねんこいつらくらいで終わろうと思ってたんですよ(笑)。
リムコロ:(笑)。
巻羊:VTuberごっこではあったけど、やるからには全力でやらなきゃなってことで手は抜きませんでした。そしたら意外にもすごい反響があって、「あれ?」みたいな(笑)。
巻羊:みんな自分のイラストを動かしたいんだなって、Twitterのタイムラインを見てて気づいたんです。それで、バーチャル受肉[8]布教をやりたいってことをリムコロに「反響あるからさ、帰ったら3時間そこらでやってみようと思うんだけど、配信できる?」みたいな(笑)。
リムコロ:「いいけど、やれんの?」みたいな(笑)。
巻羊:会社のトイレでそんな電話をした覚えがあります(笑)。
リムコロ:何も計画性はなかったですね。とはいえ、なんとかLive2Dでイラストを動かすのは簡単だよってことが伝わる配信になったかなと思います。
巻羊:この配信で、リムコロは横で喋ってただけっていう自称をよくするけど(笑)。
fumi:(笑)
リムコロ:巻羊くんがLive2Dでモデルを作っているところを配信の前にずっと見てたんで、流れは全部知ってたんですよ。これがわかりやすく伝わるようにツッコミをできればいいなーと思いつつ、本当に横で喋ってただけ(笑)。
巻羊:正直モデルを作っている人よりハードルの高い仕事をお願いしたよね。見て喋る(笑)。ソフトを使っているところを実況するというのはなかなかないよ。
リムコロ:巻羊くんがこんなにさくっと自分の描いたイラストを動かしてくれて、この感動をいろんな人に味わってもらいたいという気持ちだけで喋ってましたね(笑)。
バーチャル受肉布教の配信後の反響
巻羊:バーチャル受肉布教の配信後は、好きなイラストレーターさんが自分のイラストを動かしてみたってTwitterに動画上げてくれててすごい嬉しかった。
fumi:僕も盛り上がりを端から見てたんですけど、お二人の配信後から、目パチやってみたとか、顔ちょっと動かしてみた、みたいな動画が一気に広がった印象があります。多分、Live2Dに対してハードルの高いイメージがすごくあったと思うんですよね。新しいツールだし、専門的な知識とかがないとダメなんですかねみたいな。そういったハードルを取り去ったのがお二人の配信だったと思います。
巻羊:Live2Dは無料期間のおかげで導入のしやすさもありますよね。たいていのソフトの無料期間って1ヵ月だと思うんですけど、Live2Dは42日間。この期間なら、ちょっとイラストを動かすぐらいのものは比較的誰でもできるかなと思います。
fumi:うんうん。やろうと思えばできる。
巻羊:僕がモデルを作ったのも全部無料期間だったんですよ。Live2Dさんにお金を払ってないのめちゃめちゃ申し訳ないなって思いながらやってたんですけど(笑)。
fumi・リムコロ:(笑)
巻羊:そのあとちゃんとお金を払いましたけどね(笑)
バ美肉おじさん[9]の盛り上がり
巻羊:みんな女の子になりたかったんですかね(笑)。
fumi・リムコロ:(笑)。
巻羊:でも、実は今流行っているバ美肉おじさんと、僕らがやってたことって結構かけ離れているんです。当初はイラストレーターの方々がイラスト動かして楽しいって形だったと思うんですけど、だんだんとボイスチェンジャーを使った方向にシフトしていったんですよ。
リムコロ:僕らは自分の描いたキャラの中に入って喋りたいなって気持ちはありましたけど、ボイスチェンジャーまでは考えていませんでした。おじさんの声が出ても大丈夫な(笑)、キャラデザの範囲を模索しました。
巻羊:中性的に見えるようにはしましたね。
リムコロ:そうそう。
巻羊:配信をする際に面白くできる要素としてのバーチャル受肉だったんです。たとえば、プロゲーマーの方々は自分の顔を出すのが普通だと思うんですけど、インターネットであっても顔を出したくない世代ってあるじゃないですか(笑)。
fumi:あるある(笑)。
巻羊:顔を出さずに、配信を面白くして、違和感がなければいい。僕らはVTuberとしてやっていく気はなかったんです。その点、今のバ美肉おじさんたちは「女の子になろう」っていう意気込みがすごいんですよ。
fumi:確かに、ベクトルが違うというか、最終的に目指している場所が違う感じがしますね。
巻羊:なので、僕らのやったことがバ美肉おじさんの流行に繋がったかというと、間接的にはそうかもしれないけど、別にそういうわけでもないよなってところはありますね。
巻羊:バ美肉おじさんっていう言葉は、語感を含めてインパクトのあるものだったから、いろいろなところに広がりましたね。今やテレビで出るワードですよ(笑)。
リムコロ:言葉の発祥自体は色々な憶測が飛び交ってますけど、「バーチャル美少女セルフ受肉おじさん女子会ワンナイト人狼[10]」からですね。
巻羊:あの配信の中でタイトルを短縮して、「バ美肉」っていう言葉が生まれました。
リムコロ:長くて呼びづらいからっていう理由でね(笑)。
巻羊:そんなふらっと生まれた言葉だったんですけど、月ノ美兎委員長[11]が配信で「バ美肉おじさんが流行っている」っていうことを仰ってたんですね。僕は委員長がきっかけでVTuberにハマって、そこからLive2Dにも手を出したので、委員長のおかげで今の自分があるといっても過言ではないんです。そんな委員長から「バ美肉」っていう言葉が広がっていく様子は、不思議な感覚でしたね。
バーチャル受肉して良かったこと
巻羊:イラストレーターって作品をアップし続けないと忘れられていきやすいんですよ。その点受肉をすると、顔がアイコン化して印象づけられるので、各方面で覚えられやすくなった気がします。加えて、自分のイラストも売り出ししやすくなったんじゃないかな。
リムコロ:漫画家って、たとえば漫画のあとがきに出てくる代理キャラクターっていう形でその人自身がコンテンツ化することがあるんですけど、イラストレーターはそういったことがほとんどない印象がありますね。
巻羊:岸田メル先生[12]とか……。
リムコロ:そうそう。岸田メル先生はご自身の顔を躊躇なく出してますし、強烈なキャラクター性もありますからね。あのレベルまでいかないと、イラストレーター自身がコンテンツ化することってあんまりないんじゃないかな。
fumi:たしかに。受肉のおかげでイラストレーターも印象に残りやすいアイコンを作れるようになりましたね。
リムコロ:僕自身も受肉してよかったことは、顔がアイコン化したことですね。日々の面白かったことなんかをSNSで発信するときに、これまでは、よくわからないリムコロってやつ(笑)がやってるって感じだったのが、「りむちゃんがやってる」と周囲が認識してくれるようになったのが、単純に楽しいです。
fumi:僕も受肉しようとは思ってるんですけど……。
巻羊・リムコロ:おっ。
fumi:ただ、ほかのイラストレーターさんのLive2D制作を頼まれることが多くてまだ手をつけれていないんですよ(笑)。自分のキャラをデザインして、動きを作って、配信するってなると、年明けになっちゃうかな……。せっかくやるんだったら、Live2Dに関する配信をしたいと思ってます。あと単純にゲームが好きなんで、ゲーム配信がやりたいですね。
三者三様の立場から見た職業と表現の可能性
fumi:Live2Dデザイナーという立場といいますか、僕が今後やりたい分野、身に付けていきたいスキルも含めてお話します。今って、Live2Dをちょっと知っている人は「Live2D=VTuber」の印象が強いと思うんですけど、僕はゲームのツールとしてLive2D知ったのが最初だったんで、ゲームにどんどん活かしていくのはありだと思っています。
巻羊:なるほど。
fumi:そしてそれ以上に、映像作品にもっと活かしていけたらなと思ってます。昨年まで勤めていた会社では、アニメーションに近い映像を作っていた期間があって、趣味でLive2D+After Effects[13]で映像作品を作ったこともあるんです。手描きのアニメーションはハードルが高いってイメージがあると思うんですけど、Live2Dでもクオリティ高いアニメーション映像が作れるよってことを伝えていきたいです。
リムコロ:面白いですね。
fumi:映像、そしてさらに違う分野へと発展させて、Live2Dの幅を広げていきたいですね。
リムコロ:漫画家的な立場からすると、お話にも出たアニメーションとか、漫画のイメージをそのままにPVを作るとか、漫画のキャラのVTtuberデビューとか、メディアミックスの部分で活用されはじめている印象です。今までのメディアミックスって、主にアニメ化とかドラマCD化だったと思うんですけど、Live2Dのおかげでそれがもうちょっと手軽になってきてる。それこそ、「漫画のキャラに会える」みたいなアプリが出てきたときに、積極的に使われていく技術だと思いました。
fumi:うんうん。
リムコロ:Live2Dの機能を使った、仙狐さん[14]にお世話される映像作品を作りたい(笑)。
fumi・巻羊:(笑)
巻羊:イラストレーターの立場からすると、今イラストレーターって爆発的に数が増えているから、「目立つこと」がすごく大変なことだと思うんですよ。それこそ芸能人みたく、偶然注目される・されないの運の世界。単純にイラストを描いているだけでは、もう自分を売っていきにくい職種になっているんですね。そんな状況なので、イラストが上手いだけの勝負じゃなくなってる、技術を複合して色々なことをやったほうが、多くの人の目に留まりやすくなると思うんです。Live2Dは、ほかのソフトと比べるとイラストと直結していて触りやすいので、今後はSNS上とかで作品を動かして動画を作るイラストレーターが増えてくるんじゃないかな。
fumi:それはすごく感じますね。
巻羊:Live2DやAfterEffectsを使えて、自分の作品を動かして見せることができるのは、イラストレーターとしての武器になると思います。そういった意味での可能性を、僕は感じますね。
Live2Dを初心者にオススメする理由
リムコロ:自分のイラストが動いて楽しいっていう感情はでかいんですよね。この喜びを味わえるだけでも価値があると思います。イラストとか漫画って、「うわ、うまく描けた気持ちいいー」というような感情を味わいにくいと思うんですよね。その点Live2Dは、創作をはじめたての方でも動いたことによる感動が得られる。成功体験を味わいやすいソフトですね。
巻羊:作品に携わって仕事をしていきたいって考えたときに、いろんな携わり方があるとは思うんですけど、その中でもビジュアル方面で携わっていくのはスキルが必要になってくるんです。そんな中、Live2Dは最近になってプロジェクトが増えてきてますし、人材が不足している分野ではあるので勉強しておいて損はないと思います。イラストと同時に勉強することで両方のスキルアップになりますし、先を見据えた上での創作活動といった意味でもオススメできますね。
fumi:お二人の答えが、大分完璧に近いんですが(笑)。
巻羊・リムコロ:(笑)。
fumi:本当にわかりやすいオススメ理由が、成功体験、感動を味わうってところなんですよね。イラストレータを目指す人が年々増えている中でイラストを勉強していると、自分が下手だってどっかしらで思ってしまうタイミングってあるじゃないですか。そんなときに、Live2Dはイラストを描くこととはまた違った成功体験、感動を得られるんですね。さらに、それを糧にイラストをもっと頑張ろうって気持ちにも繋がるんですよ。
巻羊・リムコロ:うんうん。
fumi:あとは、Live2Dを誰かに教えたときに、「イラストが動いたことで感動した」って言われることが多いです。そういった感動は探すのが大変だと思うんで、自分の幅を広げるという意味でもLive2Dに触れてみるのはアリなんじゃないかな。
書籍『10日でマスター Live2Dモデルメイキング講座』について
リムコロ:とにかくわかりやすい! 全部書いてある。
巻羊:先ほどの繰り返しにはなりますけど、成功体験を重ねるにあたって、初心者が色々調べてやっていくっていうのは難しい部分もあると思うんですね。なので、この本を買って勉強するっていうのが一番手っ取り早いんじゃないんですかね。
リムコロ:Live2Dのことで「あーわかんないなー」って思ったら、この本をチラっと見たら全部書いてあるので。この本を買って始めれば間違いないです。
巻羊:初心者にオススメできるし、Live2Dをある程度分かってる方でも読めばスキルアップが期待できる。かなり広範囲の方にオススメできる本になってると、読んでいて思いましたね。
fumi:ありがたいっすね(笑)。Live2Dに興味があるけどハードル高そうだなって思っている人は、この本を読んでまずは何か作ってみてほしい。さらに、この本を読んだきっかけで、Live2Dの思いがけない可能性を示してくれる人が増えるといいなと思いますね。
(構成/難波智裕(株式会社レミック))