あけましておめでとうございます。NPO法人ハーモニー・アイの馬塲寿実(ばば ひさみ)です。私は、Web製作をしている立場ではなく、あくまでユーザー(使い手側)視点に立って、Webアクセシビリティを推進するために、視覚障害者や高齢者などの情報弱者の利用者側と、Web制作者や発注者の発信側とが共有できる、セミナーやワークショップをコーディネートする傍ら、Webユーザーテストを実施させていただいている者です。
今回は、私がそういった現場で肌で感じている、2009年のWebアクセシビリティの動向と予測、そして、私見も交えながらの期待を率直に書かせていただこうと思います。
世界、国内のWebアクセシビリティガイドラインが同時改定される節目の年
昨年末に,W3C(World Wide Web Consortium)のWebアクセシビリティ・ガイドライン、Web Content Accessibility Guidelines(WCAG 2.0)が、ほぼ10年近い年月を経て勧告になり、いよいよ正式に新しいバージョンが公表される予定です。
そして、国内においてもJIS X8341-3(高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス- 第3部:ウェブコンテンツ)が、それに整合させる形で、5年ぶりに秋には改定されます。今年は、Webアクセシビリティの大きなガイドラインが改定される、まさに節目の年となります。
国内のユーザ側の環境は混迷期?
Webアクセシビリティを考える上で、とても大切なのは、ユーザがWebを利用する際の環境です。障害のあるユーザーが利用する、支援技術の環境の中で、視覚障害者が利用する音声読み上げソフトの、国内の環境について、あまり語られていませんので、少し現状を書きたいと思います。
実は、現在とても混迷期であり、ユーザー達にとって困った状況が続いています。2007年に行われた、『視覚障害者のパソコン・インターネット・携帯電話利用状況調査』の結果においても、国内で一番シェアの高い音声読み上げソフトは、IBMのホームページリーダーという音声ブラウザでしたが、残念なことにXP対応までで開発はストップしました。また、Vistaに対応し人気のある音声ブラウザも、特定のスクリーンリーダーとの抱き合わせで使うようになっており、高額になるので、それほど広まっている状況ではありません。その他、いくつかのソフトもありますが、それぞれ、僅かなシェアで分散しています。また、英語圏の国では多く使われている、優れているJAWSと言うソフトの日本語バージョンは、一般的な国内ユーザにおいては、非常に高額なこともあり、利用者はごく僅かです。
つまり、現状の国内の視覚障害者ユーザー達は、「これだ!」という安定したソフトがないまま、日々進化するWebを、工夫をしながらどうにか使っているのが実情です。このことは、Web製作者側にとっても、どのソフトを基準に検証し、どのような配慮するのか?非常に悩ましいところです。
Microsoftも動くオープンソフトプロジェクト
ごく最近の動向としては、無償のオープンソフトウェアの開発が進んでいます。例えば、NVDAもその1つです。年末に、Microsoftが、NVDA本部へ対して、Windows7の発売に備えてでしょうか、資金援助と技術サポートをする事が発表されました。詳しくは、NVDAのBLOGで公表されています。国内でも有志らで、日本語へカスタマイズするプロジェクト(NVDAJp)も、スタートしています。結局、Windows7に最初からセットされるとになると、無料であるということもあり、否応なしに多くの視覚障害者のユーザたちもシフトするのではないでしょうか。そしてある程度、淘汰されるのかも知れません。高齢者においても、インターネットエクスプローラ(IE)の利用者が圧倒的に多いので、次期バージョンIE8が気になるところです。
今後のWebアクセシビリティへ対するヒントと期待
アクセシビリティへの取り組みをしているWebサイトも、大手企業や行政を中心に増えてはきました。しかし、あくまでも、既存のチェッカーで検証し、高得点がでれば良いという形だけの対応が、いまだ多いように感じいます。実際には、アクセシビリティを施したつもりのサイトが、使えないケースが多いのです。今度の改定においても、検証性は多少明確になった部分もありますが、機械的チェックでわかる部分は、あくまでも1部です。機械的なものだけに頼る事には限界があります。以前開催した「本物のWebアクセシビリティセミナー」において、当会で政党のWebサイトをユーザテストし、その結果を分析し公表したのですが、機械的にわかることは3割にも満たない程度でした。このことは、イギリスの公的な調査でも明確に示されています。
最後に、ある2人のユーザーの声を紹介いたします。
「トップページがフルFlashで、いきなり行き止まりであるサイトが最近増えています。本当に、これはフルFlashでないとできないことなのかな? テキストのリンクを置くことさえできないのかな?」
「教科書みたいな静的なコンテンツばかり多い、アクセシビリティを施したWebサイトを望んでいるわけではなく、役立ったり面白かったりする動的なWebサイトを、視覚障害者だって望んでいます。」
まさしく、今後のアクセシビリティのヒントをくれる言葉です。情報コミュケーションが取れないWebサイトでは、どうしよいもありません。費用をかけても無駄になるばかりです。いくら机の上でガイドラインを眺めても答えはでません。本当にアクセスしてきたユーザへ使ってもらおうとするなら、ユーザーの理解から、はじめるのが意外に近道で確実であるかも知れません。