Webディレクター、かくあるべき「第二部 対クライアントへのマインド、Webディレクターの存在」

⁠Web Site Expert #14』⁠ISBN978-4-7741-3226-6)の特別対談「Webディレクター、かくあるべき」第一部では、Webディレクターのスキルや人材育成についてお話しいただきました。

gihyo.jp拡張版第二部では、対クライアント、ディレクターの位置付けなどについてお話しいただいています。

阿部淳也さん(左⁠⁠、森田雄さん(中央⁠⁠、長谷川敦士さん(右⁠

阿部淳也さん(左)、森田雄さん(中央)、長谷川敦士さん(右)

IAとディレクター

Flashエンジニアについて考える

阿部:

総合監督や軸足という点をもう少し深堀してみましょう。たとえば、Flashを扱うことになったと言っても、さまざまな志向がありますよね。

長谷川:

ええ、Flashなんかは、アートディレクションとテクニカルディレクションのどちらにも関わる技術で。その観点から見れば、マークアップとIAって実はかなり近いところがあります。

森田:

さらに踏み込んで、なぜ(サイト内のここで)Flashを採用するのかって、ところから見ていくと、デザインが重要になります。そこから、Flashを機能させるために裏で動くにはどうするか、という考え方が必要となるはずです。

もし、元々がテクニカル志向の会社で実装することになったら、必ずしもFlashを選択することにはならないと思います。Flashにはビジュアル表現、モーション表現が必須で、それが大事だからFlashを使うわけです。比重で考えれば、ビジュアルデザイン寄りでしょうね。

阿部:

そうですね。うちが採用するFlashエンジニアもデザインとかインタラクションのことをきちんと理解している人ですね。

長谷川:

一方で、Flashの志向とかその重要性はわかっていて、できあがりについてもイメージできる、でも、スクリプトも書ける、でもビジュアルについてスキルが不足している人もいるはずです。その場合は、デザイナーと組むことですばらしい成果物ができることはあると思うんですよ。

森田:

うん、それはそうでしょうね。でも、その人はおそらくエンジニアですよね。そういうのって、Flashに精通していたとしても、テクニカルディレクターではないと思います。全体俯瞰はできないのではないかということです。

こう考えてみれば、やっぱりテクニカルディレクターはあくまでテクニカルディレクターなのかなぁと。

ただ現実は、Flashのエンジニアがかなりの部分を消化してるんですよね。エンジニア寄りの人間でも、Flash触ってビデオ作ってモーションデザインの勉強をしてたりして。

阿部:

してますね。

森田:

当然、逆もあり得る話で。モーションデザイン寄りの人間も、一所懸命ActionScript勉強してるんですよ。おそらく、Web制作の中でもFlashを担当している人間は一番優秀というか多芸な人間が多いと思います。ただ、それをうまく分離できないせいで、彼らは悩んでいるところはあるのではないでしょうか。

ワイヤーフレームの善し悪し

長谷川:

今の問題って、おそらくモーショングラフィックがアルゴリズムと表現とに分かれるから生じるんだと思います。

コンセントでは、IAって言っているような作業は、画面のワイヤーフレーム(以降ワイヤー)を書くような作業はじつは明示的には含んでいなくて、それは基本的にはデザイナーがやる仕事であろう、と思っています。

でも、クライアントの要件の調整の中で要素がいろいろ変動するようなもののについては、その調整はデザイナーではなかったりします。グラフィックデザイナーも、⁠そこまでする必要があるかどうかは別として)人間工学的なものの配置としてのワイヤー作成をしたり、他にも実際のリソースの配置をどうするかということでワイヤーを使います。

つまり、特化した人間がワイヤーを書いたほうが良いプロジェクトもあれば、要素だけ決めて、あとはデザイナーがワイヤー的な下書き的なもの書いてしまったほうが良いプロジェクトもあります。

ただ、非デザイナーの人がどういう風に落とし込むかを決めて作るワイヤーは良くないですね。

森田:

僕のプロジェクトではワイヤー作らないですよ。

長谷川:

でも、ワイヤー的なものが必要になってくることはない? HTMLで作ったりとか。

森田:

ワイヤーが指し示す意味が曖昧なので。実際、Webの解説本を見ても、ワイヤーが何かというので、デザインのラフであるとか、もっと構造的なものだとか、ぶれていますから。

長谷川:

IA業界でも、ぶれていますね。

森田:

そう、意味がわからない。だから、ワイヤーという言葉を僕のプロジェクトでは使いません。わかりづらいですから。僕のプロジェクトでは、画面内要素設計というのをやっています。

長谷川:

それって一緒では?

ワイヤーフレームに含める要素とは?

森田雄さん

森田雄さん

森田:

いや、それは明白に分けているんですよ。まず、画面内要素設計とコンテンツ仕様書というのを作ります。画面内要素設計では、位置配置はまったく行わず、この画面にはこの要素がありますというのを設計するためのものです。

阿部:

つまり、ワイヤーのように、中途半端にレイアウト的な要素は含めないと?

森田:

そう、レイアウトは無視しています。それで、コンテンツ仕様書というのは、たとえば見出しという要素があったら、そこにほげほげという言葉が入るっていうところまで詰めたものです。でも、ここでもレイアウトはやっていません。

あえてワイヤーに似ているものと言えば、デザイナーたちの基本デザインがそうなのかもしれないけど、なんとなく世間一般では、今言った画面内要素設計とかコンテンツ仕様書みたいなものがワイヤーと思われているみたいですね。

だから、デザイナーが最初に作るものはワイヤーとは呼んでいないんです。あくまでデザインスタディとか、そういう風に呼んでいるんです。関係者間で意味がぶれる言葉はとにかく使わないようにしています。

長谷川:

それは正しいと思いますね。

先日のWeb標準の日々のときも、ワイヤーはむしろデザイナーに、ということを話がありましたよね。

レイアウト作業でIAという職種が入るとすれば、作ろうとしているサイトがターゲットが3種類あって、1個のサイトの中でその3種類の人を同時に問題解決させるのか、それとも3つのサブサイトに分けたほうが良いのか、とか、その中でのものの読ませ方がどういう形になっているのが良いのか、といったナビゲーションの設計といったような、要素を切り出して考える必要があれば、それはIA、つまり情報アーキテクチャだろうと思っています。

極論すれば、1個のメディアの中の枝葉末節まですみずみわかりやすくやるということができればベストですが、それこそスーパーIAになりますよね。仮にグラフィックデザインの専門知識をきちんと持っていて、大学で視覚伝達デザインをやっていて、タイポグラフィも平面構成も色彩計画もやってきたという人であれば、やってもいいとは思うし、できると思いますが、そういう人あまりいないでしょう。

だから、通常はそこまではやらずに、森田さんが言うように、要素というか要件、このページはこういうところをやるところなんです、という形でまとめているんだと思います。

阿部:

たしかにワイヤーは微妙ですよね。うちもワイヤーを書くときにはデザイナーを入れてやっています。実際に成果物に落とし込むのはディレクターなりIAなりですが、その後にレイアウトという要素が入っくるので、最終的にデザインするときに実際には変わってしまうこともあるので、あらかじめデザイナーにも参加してもらっています。

森田:

うちの画面内要素設計図は、クライアントに話をするときにそのまま見せても理解してもらえないことがあります。だから結果的には画面っぽくはしますね。とはいえ、あくまでレイアウトを規定するものではないと、しつこく言います。

長谷川:

説得用、コミュニケーション用ですね。

森田:

レイアウトがないと理解しづらいということはありますからね。ただ、Flashのサイトのときなんかだと、なんでこういうもの(レイアウト図)を書かなきゃいけないのかな、って思うときもありますよね。

阿部:

そういうこともあるので、うちはペーパプロトとか作って対応します。そこにもデザイナーを入れて作るようにしていますね。

森田:

1つ気を付けなければいけないのは、デザイナーが入った場合でもレイアウト面がすべてOKになるかは別問題という点ですよね。関係者がいても、意見が出やすい雰囲気になっていないと。

阿部:

もちろんそうですね。うちはそういう点では、非常に和気あいあいとやっていますよ(笑⁠

クライアントへの対応

制作サイドとクライアントサイドのギャップ

阿部:

今のワイヤーを使ったレイアウトの話にも出てきましたが、Web制作においては、対クライアントも大きなポイントですよね。この辺について話してみましょうか。

まず、僕自身、強く感じるのが制作/クライアント間のギャップ、とくにスケジュール感とコスト感のギャップです。呼ばれて行ってはみたものの、それは無理だね、っていうときもあります。

長谷川:

ええ、たとえば、オーダーをしてきた段階ではクライアント側で気付いていなかった問題が、プロジェクトが進行するにつれ、タスクごとにプライオリティ付けを明確にすることをこちら側が要求していくと、今まで見えなかった課題が社内でもきちんと解決されていなかったみたいことってよくありますよね。bAでは、そういうのはあまりないですか?

森田:

いやいや、あたりますよ。そういう提案をしていくと、そこで具体的なプロジェクトが明確になったりするんですよね。そうなると、コンペに戻ってしまったりもします。ときにはWeb制作会社向けのコンペではなくなることもあるわけですが。

長谷川:

そうそう、そのように話が戻ってしまうと、Webプロジェクトの範疇を越えてしまうことが起きますね。ただ、Webの位置付けがビジネスのコミュニケーションツールまで上がってきているので、そこまで真摯に解体しないといけなくて、そもそもクライアントが考えていることは本当は、もっと上流のコミュニケーション層にあるという大前提の合意がとれないとなってしまったら、そもそも判断が付かないという状況が……。

ビジネススキル・マインドの重要性

阿部淳也さん

阿部淳也さん

阿部:

ようするに、ビジネスの話ができないとダメっていうことでしょうね。Webの部分だけではダメと。

長谷川:

そうですね。

阿部:

クライアントと話していると、ビジネスロジックのところまで行き着いてしまうじゃないですか。そこの話ができないと、最終的にはWebを使うにしても、根本的なビジネス戦略のところから作っていくみたいな話になるので。

森田:

スケジュールやコストのギャップはあって当然だと思うので、あまりこだわらない。あと、代理店を経由するとコスト感は合う、でもスケジュール感では非常なギャップがあるという(笑⁠⁠。まあスケジュールにギャップがあると結果的にコスト感も合わないということになってきますけどね。

一方、クライアントと直でやると、スケジュールは確保できても、でも、コストが合わないってはありますよね。おそらく、このギャップはそれに対するコンペとかでは埋まらないですね。

長谷川:

ええ、そうですね。

信頼関係を築く

森田:

それで、何が埋めるかというと、やはり信頼関係が重要になってくるのかなぁと。通常、僕たちが接する人たちは、クライアント担当者の位置付けとか立ち位置にも寄りますが、いわゆるWeb担当者といった場合は、たいがいはそれほど権限がないというか、たとえば予算決定に関する裁量権がないとか、そういうポジションの人が多いのではないかと思います。とすると、僕たちがクライアント担当者の味方になるっていうことが大事だと思うんです。

たとえば、プロジェクトによっては、担当者、担当部署が断行しちゃうことがあります。第三者が入るというのは効果的でもあるので、その結果、bAさんと取り組みましょう、根本からコミュニケーションを作り直しましょう、ということになったとします。

こうなったときに、予算取りなど、決裁権のあるクライアントの上層部に通すのは大変だったりしますよね。味方になるというのは、その説得材料を作ったりすることも含むわけです。

ただ、クライアントが一番やりたいことは社内調整ではなくて、当然僕らも違います。それでも、プロジェクトを進めるにあたってはクリアにする必要があります。だからこそ、クライアントの社内調整というのは非常に重要なんですよね。

この、クライアントの社内調整というのは、かなり高度なスキルが求めらると思います。新卒はもちろん、Webの制作管理、ディレクションを2、3年やってきても、いろいろ困る局面が多いのではないでしょうか。bAでは、こうした業務を担当する人間をアカウントエグゼクティブと呼んでいますが、Web制作とはまた違う能力が必要で、いわゆるクライアントサービスの経験が必要になっているのでしょうね。いわゆるディレクター、責任者になって、しかもそれは影の責任者ではなくて、表に出ていちばんのコンタクトポイントになる人なので、それができる人に担ってもらわないと困るんです。

そういう風になるのはどうすれば良いのかというと、単にコミュニケーションがあれば良いわけではなく、クライアント側の社内調整をやるという前提で、自分たちもかなり腹をくくって、全力を傾ける姿勢はすごく理解してもらうことが求められる。それを裏付ける実績やさまざまなドキュメントを作って、しかも、それを週に2時間実施する定例の中で実感してもらえるようにしていく……、といったように、本当に高度なスキルが必要だなと感じています。

長谷川:

ええ、⁠こういう動きをするとこういうリスクがありますよ」⁠再検討がいりますよ」といったある意味コンサルティングみたいなことまで必要ですね。少なくともWebとかWebマーケティングに伴う社内リソースがどうなるか、といったところまでこちらは見通す必要が出てきます。

本来にそれはプロジェクトを作る仕事だから、アカウントエグゼクティブとかプロデューサーが仕切る話ですが、Webの場合、まだまだ世の中全体としてクライアント担当者の知識やクライアント企業内のWebの認識は低いです。

なので、ディレクターという、本来的には既にプロジェクトのお膳立てされていてそれを遂行する職能である人にも、まだはっきりと案件化できていないもの、つまり不定形なリスクへの対処とかが要求されているのかな、と思うんですよ。

プロジェクトレベルでのリスク管理

森田:

プロジェクトレベルでのリスク管理、リスクの把握から、どこにプライオリティを置くかっていうのはある程度のディレクターであれば誰でもできるかもしれません。でも、それをクライアント側におけるリスクまで含めて社内調整してあげられるのか、とか。

自分の会社においては、そういう状況下においてもまだ更に人をコミットさせていくのか、とか。そういうところまで含めたリスクの管理とか、そういったものが必要なのかな、と思います。

ただ、僕が言うディレクターって、すごい高レベルのディレクターしか認めてないじゃないか、なんて人に言われちゃうこともありますけど。

それでも、1つのプロジェクトをディレクションするなんて、ビジネスを経験してきている人間であればわりと誰でもできるんじゃないかと思っています。

阿部:

すると、何本もまわしてはじめてディレクター、と?

森田:

ええ。でも、そこまでできるためには純粋ディレクターである必要がありますよね。僕自身、純粋ディレクターだから10個ぐらい同時にできているのかなという感じです。

けど、もしAD(アートディレクター)とD(デザイナー)の兼任をしていたらそれはできないと思います。デザインやりながらで、10本なんてできるわけないし、やってはだめですよね。

それでも、プロジェクトで遂行すべきことやその時間調整に専念し、クライアントの体制作りまで意識する、というのを何個もやったほうが、⁠その人が在籍している)会社としても良い結果が生まれると思います。僕自身、そのほうが社会的にもっと良くなると思っています。

そのためには、やっぱり純粋ディレクター(※Web Site Expert #14を参照)を作らなければ、と。またそこに話は戻るんですけどね。

実際にWebディレクターという肩書きはあるのか?

3社の状況

長谷川敦士さん

長谷川敦士さん

森田:

うちはWebディレクターという肩書きはないですね。プロジェクトリーダーが該当しますね。

阿部:

うちは単にディレクターと呼んでいますね。

長谷川:

うちは、呼び方は分かれて、プロジェクトリーダーとかプロジェクトディレクターと呼んでいます。

組織としてのディレクター

森田:

僕の名刺の肩書きは、Quality Improvement Directorと、ディレクターが付いているんですが、うちの会社の中では、ディレクターは階級、クラスを示す言葉にもなっています。たとえばアシスタント、スペシャリスト、マネージャー、ディレクターのように。ディレクターは役員相当になります。

長谷川:

うちも近いですね。アソシエイト、アシスタントディレクター、ディレクターとなっていて、ディレクターレベルは役員会に出席します。会社の中で組織のディレクターを意味しています。

森田:

組織的な意味での使っているパターンが多くて、⁠Webディレクターという意味では)プロジェクトマネージャーという名詞に近いですね。ただ、プロジェクトリーダーと表記すると、たとえば、プロジェクトリーダーが2人いるのはおかしい、なんてことにもなりますね。

長谷川:

ええ、ディレクターを名刺の肩書きにするとおかしなことが出てきちゃうな、という気はしますね。

森田:

複数の人がマネージするというのは、ままありますね。ただ、ディレクターって監修者だと思います。だからこそ、ディレクターって付けたほうがわかりやすいこともあって。

でも、Webディレクターとなったときにどうなるか? 阿部さんの会社でも単に「ディレクター」となっているのは、きっとWebだけに特化していないからだと思うんですよ。

それで、案外Webディレクターって、ディレクターとはぜんぜん違う仕事なのかもしれないね、って今更ながら思ったりもして(笑⁠⁠。仮にWebのことしかわからへん、みたいになると、すごく小さくなってしまう。そうなれば、今まで言ってきたように、大きな、全体視点を持ってディレクションしなければならない、というレベルはそもそもいらないかもしれないんですよね。

阿部:

ええ、それはありますね。Webと付くと制限が出てしまう、というか。最初(※Web Site Expert #14を参照)に森田さんが言っていたように、突如わからなくなる。

長谷川:

うちもそこは意識していますね。会社として扱うのは、Webだけではなく情報プロダクト全般だと思っています。Webも主要な、コンセントの売上から言えば九割以上ではありますが、それ以外のデバイス・メディアももっと扱えるようにしていきたいな、と思っています。

森田:

アートディレクターとかテクニカルディレクターより、Webディレクターってポジショニングとして下流に見られがちなのは、やっぱりWebってついているからだと思うんですよね。Webアートディレクターとかっていわないじゃないですか。プロデューサーとWebプロデューサーも別だったりしますよね。Webの予算の営業に行くのがWebプロデューサーだったりとか。

長谷川:

言葉の意味合いをいえば、デザインしているものがWebであれば、本来的にはディレクターもWebデザイナーだと思うんですよ。正しい意味では。

ただ一般にデザイナーという言葉を使ったときに、それはビジュアルを作る人を指すと、クライアントだったりとかこの業界の外の人は受け止めることが多く、誤解を招きやすい。誤解を招くのは我々の本位ではないし、肩書きなんて我々の自己主張ではなく、理解してもらえば良いので、本来的にはWebデザイナーだとしても、全員がそう名乗るということは避けていますね。

コミュニケーションはWebだけではない

Webがすべてではない

阿部:

自分も含め、皆さんの会社は売上げの大半がWebで、Webを生業にはしている一方で、Webを仕事にしている人って、Webは手段、コミュニケーションをするうえでのツールだということも認識していると思います。そして、最終的にはリアルに落とすとか、何かにつなげていかなければいけないとわかっている。長谷川さんが先ほど情報プロダクト全般っておっしゃっていたのは、そういう意味ではないかと。

長谷川:

ええ。そうですね。

森田:

うちは実際、Webサイト以外の売上もあります。ただ、本来僕らがやらなければいけないコミュニケーションの構築という意味では、最後にはWebサイトが出てきます。でも、大きなプロジェクトの中では、それはごく一部ですよね。

阿部:

代理店さんも最近は変わってきています。一昔前であれば、ただカタログサイトを作ってくれ、といったレベルだったんですが、最近はその前段の、戦略とかかかわることが増えてきています。

決してWebだけではないシーンにも参加しているんですよ。そこから、本来Webでやるべきかどうか、みたいな議論の中で、僕らからも「いや、これはWebじゃないほうが良い」とか「これはリアルのほうが良いですよ」とかっていう意見も出てくるというか。

長谷川:

まさにこの部分、代理店とのブレストができるレベルって重要ですね。ディレクションもやりつつ、プロデューサーも担当できるという。今なら僕たち3人が呼ばれていけば大丈夫でも、これからは、そこに呼ばれて気の利いた話をできる人をどのように育成するかが求められますね。

森田:

そうそう、それがディレクターですね。

長谷川:

社内でWebのディレクションをやるという人は、代理店の人がWebもマーケディングの一手段だと考えている中で、その話の内容を全部理解したうえで、⁠Webではこういうことができますよ」と言えるようでなければならない。そういう人が本来的なディレクターだと思います。

でも、今はおそらく、世の中のWebディレクターといわれている職能イメージとしては、そこまでキャッチアップができなくても、その場の仕事をこなせるだけでディレクターとして成立することが多いのでしょう。もう少し興味を広げるところにいかないと、その人の価値も上がんないよ、と、そういう話じゃないか、と。

阿部:

⁠その場の仕事をこなすだけでは)そもそも仕事自体がつまらないですね。

長谷川:

ええ、決められたことをするだけになってしまいます。

阿部:

それをくつがえしたくて、今僕たちはがんばっているわけですから。

森田:

ええ、つまり、オペレーターというより、デザイナー寄りの仕事になっているわけですから。ただ、そのブレストの場面とかこうしましょうという場面のとき、実は、一番始めはWebの話すらいらなくて。まず、ビジネス視点とか世の中の情勢はこうですよねという話がボンボン出てきて、それを話しているうちに、ストーリーをハンドリングしていって、結論として「じゃあ、Webサイトは?」となるようにもっていけるかが重要なんだろうなと。

阿部:

ああ、なるほど。

コンセプトから作り込む

長谷川:

でも、それはもう高等技術に入ると思う。たぶん、そのぐらいの抽象段階から呼ばれるのは、若干レアケース、あるいはよっぽど買われているからだと思います。一般的なシーンでは、Webも含めてプロモーションプランがあるところに、ディレクターが呼ばれていったときには、そのプロモーション全体でやりたいことの中で、Webではここではをやるべきですよ、とか、他の分野と連動を考えたりとか。

森田:

そうですね。

長谷川:

うちでは商品設計まで扱うのですが、その中で、Webを使ってどういうコミュニケーションがとれるかというのを考えています。サービスをやっているところであれば、それがどういうプライシングが成り立つかとか、うちはユーザ調査もやるのでどういう人がどう来るかとか、いくらで売れば成り立つかも関わってきます。実際、そこは不定形度合いがかなり強いです。

阿部:

代理店さんも最近はあまり言わなくなりましたが、⁠続きはWebで」をやろうといわれたら、それにいかにして対抗して「いや、続きはTVでいいじゃないですか」と言えるか、と。

長谷川:

その話を逆から言えば、WebのディレクターというとどうしてもWebサイトを作るという話になるけど、⁠いや、この仕事はWebの中身に1,000万、2,000万かけるより、まずはプロモーションしないと誰で来ませんよ」と、そのWebにちゃんと人が来るかとか。⁠今この予算でこれを作ってもあなたの会社では運用はちゃんとできないのでは」とか。

対談の様子(1⁠

対談の様子(1)

ビジネス感覚を身に付ける

森田:

ディレクターにとって、金銭的な感覚は大事ですね。Webで何かをするとき、どこまで何をしようかと話をしているときに「これ、いくら、かかるの?」と聞かれることがあります。

阿部:

その場できちんと答えられないと。そのための情報だったり、経験だったりをどう身に付けるか、ですね。

長谷川:

たとえば、予算の額を聞いたときにその金額ではリニューアルは絶対できなかったとしても、まず、その中でできることを逆提案していく、そのぐらいでなければいけないですよ。

森田:

うん。それで業績的によくなれば、真のリニューアルをしましょう、という話にもつなげらたりしますからね。

長谷川:

今の話で思い出しましたけど、Webって、コーポレートサイトを作ったりとか、コンテンツを作ったりとか、サービスを作ったりとか、ほんとに何でもありの手段なんで、やることの自由度が高すぎるといえば高すぎる。その中で、どういうことをやるとどういうメリットがあって、コストはいくらかかって、費用対効果はどのぐらいあるかという話まで求められる。それって、自分が経験したことはなくても世の中にWebなんていっぱいあるのだから、調べることができるんです。

森田:

Webディレクターと呼ばれている人でも勉強不足の人は多い。クライアントのところに行くときに、たとえば上場企業だったら決算書ぐらい見てから行ってほしい。その会社規模に合わせた手段を考えなければいけないと思います。

長谷川:

それに、手段が正しいかどうかの前に、売上に対して販促費用はいくら、その中でWebに使う予算はいくら、と。そのぐらいのセンスを持っているようにしたいですね。

森田:

うん、必要だね。

長谷川:

最初のヒアリングのときに「ブログやりますか?」とかではなく、まず、相手の会社の事業を教えていただかないと話ははじまらない、と。

そのあたりをちゃんと読み解く感覚とか、情勢を見る感覚とか。それこそ1年で数千万しか売り上げないのに「1,000万かけましょう」みたいな話だったら、⁠それはなんかの間違いだ」と言う必要があります。

状況に合わせたセンスを磨く

阿部:

たしかに、クライアントの中にも目的と手段を取り違えている人はいて、さっきの「ブログ」とか、あるいは「CSSでレイアウトしたい」とか、それが先に来てしまう人がいる。でも、それってビジネス上、どうなんですか、と問いかけたくなる。

結局、クライアントのビジネスが何か、我々が手助けすることでそれがどう発展するのか、とか、そういうのをきちんと考えられないと。ブログでもCSSでも、CMSでもそうですよね。あくまで手段です。

森田:

ええ。何をするにしても、それぞれが必要なレイヤーで使いましょう、という話ですよね。ようはさっきも出ていたように、クライアントに対して、対外的にはアカウントエグゼグティブ的な能力が必要だし、さらに、プランニング的な能力が必要だと思います。

さっきの役職の話ではないですが、ディレクターって、いわゆる偉い人なんですよね。つまり、かなりの経験を積んできているはずだっていうことで、えらいことになってる人ともいいますが(笑⁠⁠。

で、今言った能力を身に付けるにはどうしてきたかというのを、たとえば自分で振り返ってみると、僕自身そのための勉強をしてきたわけじゃなくて、結局、経験値に行き着く、というのがあって。これが結論になってしまうのは、なんというか難しいですね。

長谷川:

そうですね。それと、さっき阿部さんが言っていたように、手段と目的を取り違えない、というのは、大事な着目点ですね。ブログとかCMSとか要素技術はいっぱいあるんだけど、それはあくまで手段です。

それぞれにメリット・デメリットがあり、それを組み合わせたときにどういうことが達成できるか、というのがある。クライアントがトータルなWebのコミュニケーションをやりたい、Webを使った何らかの表現をしたい、とかそういう目的があったときに、要素技術の組み合わせがどのように機能するのか、と。

提案書をうんうんうなって作るだけではなくて、直接話を聞いてみて「それはブログでやることじゃないですよ」と即答できるセンスを持つ必要がある。さらに、そういう問題が出たら持ち帰らずにその場で解決できるはずです。

森田:

こういうセンスみたいなものは、いきなり習得するのが難しくても、磨けるものだと思います。だから、ただ本を読んだりしているだけではなくて、僕たちと一緒に仕事をすることで、感覚的に身に付くところがある。それから徐々に磨かれていく、と。

阿部:

それから、経験値であればどのぐらい修羅場をどれだけ乗り越えたかというのもあるでしょうね。

対談の様子(2⁠

対談の様子(2)

見えてきたディレクター像

手本となれるように

森田:

そのあたりをまとめて、みんなのお手本になれる人であったほうが良いですね。クライアントに行く場合には、責任者としていくわけで、イコール会社なわけですよね。代表者として会社を背負っていくわけですから、そうしたらそう簡単には崩されない自信もほしいし、それを裏付ける能力もほしいし、単純にビジネスマナーも持っていてほしいし。

阿部:

それができて初めてディレクターと名乗れますね。

長谷川:

うちもその人がプロジェクトを進行して物を作り終わったときに、そのものがコンセントのものとして言えるかどうかというのが大きな基準で。Webの黎明期のころって、デザイナーとディレクターがペアでいっぱいサイトを作るというやり方で、会社としての質の担保が明示できていなかった。

森田:

ええ、ディレクターは、コストに合致した中で、いちばん高いクオリティを作り出すために重要なポジションでしょう。

ディレクターが会社を変える

阿部:

そういう意味で突き詰めていくと、ディレクターは会社を変えるのかもしれない。

森田:

もちろんそのくらいのものですよ。実際にお金を生み出す業務をしているわけですから。優れたディレクターであれば、高品質のものを出して、きちんとした利益が得られる。さらにクライアントの満足が高くて、もう1回クライアントが「お願いしたい、これからはずっとおたくで」とも言ってくれるかもしれない。

ということは年間に企業が売り上げていくお金の何パーセントはそいつによって生み出されるといっても過言ではないわけで。そのために、会社の体制を変えたり、ディレクターが育ちやすい環境を作ったりしていくことも必要ですね。

長谷川:

そこのポジションになると会社としては、きちんとプロジェクトを完了できる頭数というカウントができるので、給与も上げていけるように取り組んでいけるし。

森田:

ええ、それに会社が抱えられるプロジェクトの数は、いってしまえばディレクターの数に依存しますから。1人で抱えられるのは3、4個だとして、そういう人間が10人いればほとんどを担っているといってもいい。極端な話、スタッフは直接社内いなくても、内容に応じて集めることは可能だからね。

阿部:

そこも大きなポイントですね。計算できて、しかも質が高い、⁠仕事を集めた後に実現できる)そういう敏腕ディレクターはなかなかいない。

長谷川:

ええ、そこを押さえられる人材がいないというのは、結果としてボトルネックになります。

森田:

たしかに、外部取引先をうまくディレクションできる人間って本当に少ないと思います。外注先が1つならまだしも、複数と関係した場合、とても難しくなる。でも、ディレクターである以上、それができてほしい。

だから育てるという意味では、無理矢理キャパシティ以上の仕事与えて経験させてみる、というのも手かもしれない。はじめは1社でやってみて、次からは別途スポットで、ディレクションの範囲がはっきりしている外部のパートナー、たとえばカメラマンだけ入れてみるとか、さらにその次は2社にしてみるとか。

長谷川:

うちでも若手には、外部のデザイナーと一緒に仕事をしてもらったりしています。内部の人間同士では、ある程度理解が深まっていて、状況が読めると思います。そのやりとりではわからないこととか、外部とコミュニケーションして初めてわかりますから。そういうコミュニケーションをとって、その中で品質をどうやって担保するのか、とか。そのためにどのように説明するか、というのを考えるようになります。

阿部:

そうなってくれば、まず、ディレクターが方針を作り込んで、それをみんなに理解してもらえるように伝えなければいけない、というのがわかってきますしね。

長谷川:

僕たちは問題解決をすることをミッションにしているわけですから。ディレクターは、なかでも最も問題解決を実現できる人であるべきなんですよね。

まとめ

以上、⁠Web Site Expert』およびgihyo.jpにて、2回に分けてWebディレクターについてお話しいただきました。

ディレクター、とくに、Webディレクターという仕事がどういったものであるのか、現時点での一般的な認識、というところから、お三方の経験をふまえたWebディレクターとして持っているべきスキル、マインド、さらに、これからWebディレクターを目指す人に向けたメッセージ、その育成方法などについて、興味深い内容をお話しいただきました。

この座談会が、これからのWebディレクターのレベルアップ、さらにはWeb制作業界の全体の発展につながればと思います。

取材・文・構成=Web Site Expert編集部
写真=武田 康宏

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