新年明けましておめでとうございます。私はTokyoDemoFestというイベントのオーガナイザーをさせていただいていますqといいます。
本稿では、最近に巷で話題になりつつある"Demoscene"についての説明を交えながら、昨年流行ったこと、日本のDemosceneについて紹介させていただきます。   
ようこそDemosceneへ 
次の動画を見たことはありますか?
Elevated by RGBA & TBC 
 
この動画は3年ほど前にとても話題になったプログラム作品で、日本の一般向けのニュースサイトなどでも大々的に取り上げられました。確かに、秀麗なグラフィックと荘厳な音楽で素晴らしいですが、なぜ普通のニュースサイトにも取り上げられたのでしょうか。   
なんとこのプログラムは4Kバイト(4096バイト)以下の実行ファイルのみから構成されているのです。ネットワークから動画ファイルをダウンロードして再生しているわけではありません。映像、音楽、カメラワークすべてがプログラムにより実行ファイルから生成され再生されているのです。    
ファイルサイズがどのくらい小さいものか、わからない方は手元にあるPCに入っている.exeのファイルサイズを見てください。もしくはWindowsのプログラミング環境が手元にある方はHelloWorldを作成してみてください。何バイトになりましたか? 
これがDemoなのです。
Demoとは 
Demoとは、このようにプログラムから作成される映像作品を呼称します(実は後述するように映像プログラミング以外のカテゴリーもあるのですが、大まかにはそう思っていただいて構いません) 。   
さらに、このような人たちが作ったコミュニティ全体をDemosceneと呼びます。 
Demoは主に次のことを主眼に置いています。
技術的な挑戦 
芸術性の追求 
 
この主眼についてわかりやすい例を取り上げてみましょう。
numb res(Carillon & Cyberiad & Fairlight)  
次の動画は、今年の4月に開催されたThe Gathering 2011 で発表されおそらく2011年にもっとも話題をさらった作品"numb res"です。 
numb res by Carillon & Cyberiad & Fairlight 
 
膨大な量の粒子(パーティクル)をリアルタイムで描画し、流体シミュレーションに基づいて制御していることからもたいへん高い技術力がうかがえます。何よりも単純なグレースケールの絵の中で数字を唱えているだけだというのにここまで美しいものができあがってしまうことがとても衝撃的です。   
新しいグラフィックカードを買ったらまずこの作品を走らせたりする人がいたり、ずっと数字を唱えているだけのツイッターBot があるなど、単体の作品としてはあまり例を見ない盛り上がりを見せています。  
Spin(Andromeda Software Development)  
もう一つの衝撃的な例としては、Assembly 2011 Summer で発表されたAndromeda Software Development(ASD)のSpinでしょう。  
Spin by ASD 
 
ASDは私がもっとも好きなデモグループの一つで、単なる技術的追求ももちろんですが、映像作品としてのまとめかた、そして内容の濃さという点で大きく突出しています。   
グラフィックスのプログラミングをしている方は、全体を通して行われるプラズマボールのようなエフェクトや、流行りのパーティクル表現などに目がいってしまいますが、何も知らない人が見ても、その凄さがなんとなく伝わってしまうのがASDの素晴らしい点だと思います。    
Demoparty 
このような凄いデモを見たら、
「自分も何か作りたい!」 
「それをいろんな人に見てもらいたい!」 
 
と思いますよね。
Demosceneが発達している欧州圏では、そのための催しが毎週末のようにどこかで行われており、Demopartyと呼ばれています。  
Demopartyでは自分の作った作品を見せ合い、最後に投票を行い競争をしあったり、Demoを作る人同士が交流を深めたりします。規模もさまざまで、自宅の庭でBBQを楽しみながら行われるようなものから、体育館などの施設を丸ごと貸しきり、数日にわたり開催されるRevision やAssembly のような大規模なものまであります。     
私も昨年、本場ヨーロッパのDemopartyを体験しようと一念発起し、ドイツはケルンで毎年夏に開催されているEvoke というDemopartyに参加しました。参加している人の数や会場に並んでいるPCの数や大音量の音響や、大きなスクリーンに圧倒されたのを覚えています。   
Demopartyに関する情報はdemoparty.net  で知ることができます。欧州圏ほど数はありませんが、北米、南米、そして日本でもDemopartyが開かれています。日本に住む私たちでも発表する場があるのです。   
ネットが発達した現代では、ブログや動画投稿サイトで発表すれば世の中に公開ができてしまい、オフラインで会う意義が薄れたと感じる人もいると思います。  
しかし、Demopartyに行けば、凄い技術を持った人と直接話すことができます。凄まじいモチベーションが得られます。また、自分に対するレスポンスが得られます。( 万事上手くいけば)満面のドヤ顔をすることだってできます。    
私は、もっといろんな地域でもっと多くのDemopartyが開かれてもいいと考えています。 
興味が湧いたらDemoを作ってみましょう。そしてDemopartyに行きましょう。海外まで行かなくても、日本でもDemopartyは開かれています。それがTokyoDemoFest です。 
Demopartyで開催されるCompo 
TokyoDemoFest の話は最後に取り上げることにして、まずはDemoを発表するときに知っておきたい、そのカテゴリーを知りましょう。  
DemopartyではDemoのカテゴリーごとに競争が行われるわけですが、その競技枠のことはCompetition、略してCompoと呼ばれます。ここでは簡単にCompoのカテゴリーを紹介します。  
Intro 
"Intro"では、限られた実行ファイルサイズの中でプログラム映像を競います。 
Chaos Theory by Conspiracy 
 
具体的な実行ファイルサイズとしては4Kバイト, 64Kバイト, 256バイトなどがメジャーですが、128バイト, 1Kバイト, 96Kバイトなどの区分もあります。 
外部からのリソース読み込みも禁止されます。冒頭に紹介したElevated(4k)  ほか、heaven seven(64kバイト)  、Chaos Theory(64kバイト)  、tube(256バイト)  などが有名です。ファイルサイズの制限が厳しいため、一発ネタをいろんな角度から見せるような作品になる傾向がありますが、驚くほどさまざまな絵を見せてくれる作品もあります。  
特定環境にあるデフォルトでプリインストールされているリソースをこっそり利用するようなトリッキーな作品もあり、Texas(4kバイト)  ようなトリッキーな作品にはなかなか驚かされます。
しかしファイルサイズ制限の中で凄いことをするという方針から少し外れてしまうため、最近のCompoでは、ルールに禁止が明記してあったり、環境にプリインストールされているマルチメディア関連のファイルを意図的に削除したマシンで上映するなどの対策がされる傾向にあります。   
Demo 
"Demo"では、画像や音楽、3Dモデルのリソースの制限がないか、64Mバイト, 128Mバイト, 256Mバイトなど十分なサイズの中でプログラム映像を競います。   
Happiness is Around the Bend by ASD 
 
リソースがリッチな分、総力戦となりCompoの中でも最も盛り上がりをみせるカテゴリでもあります。 
有名な作品は紹介しきれないほどありますが、個人的には先にも出ましたASD の作品群 がとても好きです。"Happiness is Around the Bend "、"Rupture "、"Lifeforce "、"Spin "など、どれも一度は見るべき作品です。     
Procedual GFX 
Procedual GFXは静止画をプロシージャルに生成するカテゴリーです。実行ファイルサイズは4Kバイトの制限がついています。
Burj Babil by Loonies 
 
 
プロシージャルとは、本来ならば画像データなどをフォトショップなどで作成するものを、プログラム上で生成してしまうことをさします。  
有名なのは、Breakpoint10 でリリースされたBurj Babil です(上記画像を参照) 。4Kバイトという限られたサイズの中で何が表現できるか?ということに対してプログラミング技術をもって挑むため、端的にプログラミングの技量が分かるので個人的には好きなカテゴリーです。  
Music 
MP3やOGGなどの通常の音楽ファイルによって競うCompoと、ファイルサイズ制限が付けられた実行ファイルの中でソフトシンセサイザーをプログラミングし、実行ファイルから音楽を鳴らすExecutable Musicなどのカテゴリーもあります。  
Wild 
Windows、MacOS、Linuxなど通常のPCだけではなく、自作ハード作品(Led it be by Darklite )やATMを利用したDemo(Payback by Haujobb )もあります。これらはWildと呼ばれます。Live Actと呼ばれるDemoparty会場でのライブパフォーマンスもWildとして区分されます。       
Payback by Haujobb 
 
その他のCompo 
Demoはプログラム作品だけではありません。自作のアニメ作品を純粋な映像作品として競うAnimationや、写真を見せ合うPhoto、ドット絵やペイントソフトで書いたアート作品、AsciiArtのGraphicsなどのカテゴリーもあります。   
トレンド 
Demosceneで昨年流行ったものをざっくりとご紹介します。
WebGL 
昨年はWebGLの年であったと感じています。WebGLとは、OpenGLをウェブブラウザ上で動かす技術でブラウザが対応している必要がありましたが、IE以外の主要ブラウザが軒並み対応したことで、一気に人気になりました。WebGL縛りのCompoなどもいくつか開催されました。   
Frank 4k 
 
実行ファイルをダウンロードする手間がないため心理的障壁が低く、URLをブラウザで開くだけでデモが再生されること、JavaScript経由でではありますがOpenGLを直接呼び出すためそれほど悪くないパフォーマンスで再生さることが流行した原因ではないでしょうか。  
これは一時的な流行ではなく、今年以降もWebGLのDemoが出続けると個人的には思っています。 
GLSL Sandbox 
WebGLを利用したツールの中で昨年最も成功したのはGLSL Sandbox ではないでしょうか。
GLSLと呼ばれる描画プログラムを用いて、ブラウザ上でリアルタイムでその描画結果を確認できるツールなのですが、OpenGLの機能がそのまま使えるわけではなく、x座標とy座標が指定されそのピクセルの色を計算し返すだけの機能しか提供されていません。   
非常に制限が強いのですが、ギャラリー を見てみると、そんな制限など全く感じさせない作品ばかりで度肝を抜かされます。中には明らかに日本人の仕業だと思われる作品もアップされていますので、ぜひ探してみてください。  
One liner music 
Experimental music from very short C programs というスレッドで紹介され、一時期とても話題になったC言語で一行だけのソースコードから音楽を生成するという技術です。 
 
"intro"などでは昔から音楽のソフトウェアレンダリングなどが行われていましたが、一行コードを書くだけという手軽さで話題を呼びました。 
解説記事の日本語訳 も出ていますので参照してみてください。
Unity 
今年になって話題にされることがとても増えたゲームエンジンのUnityは、Demosceneでも2つの意味で話題となりました。 
1つ目は、Unityを使ったデモをちらほらと見かけるようになったことです。 
技術的追求を一つのゴールとしている人にとっては、完成されたエンジン上で動かすデモをつまらないなと感じるかもしれませんが、Demosceneの裾野が広がるという意味では歓迎することだと考えています。  
一昔前のソフトウェアレンダリングなどそれなりに知識がないと難しかった部分が、DirectXなどのグラフィックス用APIがかなり賢くなったため、そこまで深い知識を持たなくともそれなりのものが作れるようになったのと同じような遷移の一つだとも思っています。  
2つ目は、数名の有名なDemoscenerがUnityに関わっていたり、関わるようになったということです。  
もともとDemosceneにはゲーム業界に関わっている方がとても多いのですが、時代がゲームエンジンの時代に向かっているのだと感じさせる出来事でした。 
Nyan Cat 
今年4月にYouTubeで投稿され瞬く間に拡散したNyan CatはもちろんDemosceneにも多大な影響を与え、尋常ではない数のプラットフォームで再現されました。 
Nyan Cat [platform: C16/116/plus4]    
Nyan Cat TO8 [platform: Thomson]  
NyanCatari [platform: Atari STe]  
NyanJag [platform: Atari Jaguar]  
Nyantari 2600 [platform: Atari VCS]  
Nyantro [platform: ZX Spectrum]  
 
1kバイトで再現したもの が特に驚きました。にゃーん。
demoscene.jpとTokyoDemoFestとこれから  
最後に、日本のDemosceneについて紹介します。 
日本では15年以上前からDemosceneが存在していました。昔のDemoscene作品などはpouetのscene.jp  やdemoscene.jp  に良くまとまっています。
Life on Air by SystemK 
 
しかしあまり興味を持っている人は多くはありません。
発表されるDemoを楽しみにしている日本人は2桁、実際に作っている人となると1桁位ではないでしょうか。これは日本にはデモ文化が根付いていると言える数ではありません。 
しかしDemosceneの土壌としてのポテンシャルはとても高いと考えています。例えば、ゲームを個人で製作する文化がかなり浸透していることや、動画投稿サイトでの「やってみた」系でプログラミング技術を披露する人がたくさんいること、Demosceneと関係が深いChiptune系の音楽が盛んなこと、創作系の人口が多いことなどです。      
このような人たちはおそらくDemosceneを楽しめるのではないでしょうか。
さて、最後に宣伝をさせていただきます。来る1月13日の19時から翌日14日の20時まで秋葉原にて日本で唯一のDemoparty「TokyoDemoFest2012 」を開催します。   
Tokyo Demo Fest 2012 Invitation by SystemK & eldorado 
 
第1回の昨年は1日だけの開催でしたが、今回は2日連続して行われます。本稿を読んで少しでも興味を持ったら、ぜひご来場ください。さらに強く興味を持ったら、ぜひDemoを作って持ってきてください!   
TokyoDemoFestオーガナイザー 一同、ご来場を楽しみにお待ちしております。では、1月13日にお会いしましょう!