あけましておめでとうございます。株式会社ミツエーリンクス の黒澤剛志です。本稿では、昨年 に引き続いて、2015年のWebアクセシビリティの短期的な予測を寄稿させていただきます。
HTML5がW3C勧告に
2014年10月、HTML5仕様 がW3C勧告として公開されました。
W3C勧告として公開されることは、その仕様はブラウザーなどに既に実装されていることを意味しています。Webアクセシビリティの観点からは、HTMLのセマンティクスがユーザーに伝わるかどうか、という点も重要です。この点に関しては、2014年を通して多くのブラウザーが改善に取り組みました。特に、これまで対応が弱かったGoogle Chromeでの取り組みが目立ちました。HTML5 Accessibility のスコアを見ると、Goolge Chrome(Windows版)は、2014年3月 には47でしたが、2014年11月 には83.5と大きく改善しています[1] 。
2015年もこの取り組みが続くことが期待でき、HTMLに記述したセマンティクスが支援技術に伝わらない(ユーザーに伝わらない)ということは減るでしょう。また、time要素やmark要素などの、これまで支援技術にセマンティクスを提供する方法が定義されてこなかった要素についても、仕様の検討および実装が進められています[2] 。2015年はWebコンテンツ制作側が、支援技術向けの特別な対応をしなくても、適切な要素を使うことによって、より多くのセマンティクスをユーザーに提供できるようになるでしょう。
WAI-ARIA 1.1の進展
2014年、WAI-ARIA 1.0 もW3C勧告となりました。WAI-ARIA 1.0は既に多くのブラウザーや支援技術でサポートされており、W3Cでは次期バージョンであるWAI-ARIA 1.1 の標準化が進んでいます。WAI-ARIA 1.1ではロールやプロパティの追加が検討されており、いくつかはブラウザーの実装が進んでいます。現在はWAI-ARIA 1.1はまだ標準化の途上ですが、今後の標準化動向に注意する必要があるでしょう。
また、WAI-ARIA 1.1では、本体となる仕様(WAI-ARIA 1.1)に加えて、関連するいくつかの仕様から構成される見込みです。それらのほとんどは、ブラウザーなどが、コンテンツに記述されたセマンティクスを支援技術に提供する方法を定めたものです[3] 。ブラウザーなどがこれらの仕様に対応することで、コンテンツに記述されたセマンティクスが、よりユーザーに伝わるようになるでしょう。
[3] WAI-ARIAの標準化を行っているProtocols and Formats Working Groupのページ にはCore Accessibility API Mappings 1.1(WAI-ARIAのセマンティクスを支援技術に提供する方法) 、HTML Accessibility API Mappings 1.1(HTMLのセマンティクスを支援技術に提供する方法) 、SVG Accessibility API Mappings 1.1(SVGのセマンティクスを支援技術に提供する方法)などが挙げられています。
ズーム禁止を設定しなくても
スマートフォンなどのモバイルブラウザーはビューポートを指定するmeta要素(viewport meta)の指定内容によって挙動が変わります。そのため以下のような挙動の変化が、ユーザーによるズーム禁止を指定する根拠とされる場合がありました。
ズームを禁止することで、ユーザーがタップしてからclickイベントが発生するまでの300ミリ秒(0.3秒)の遅延がなくなる
しかし、2014年には遅延が発生する条件にズーム禁止設定が関係しない環境が増えました。例えば、Android版Google ChromeやAndroid版Mozilla Firefoxでは、viewport metaにwidth="device-width"などを指定するだけで遅延がなくなります[4] 。また、iOS 8のMobile Safariでは、ユーザーがタップしてから離すまでに一定時間(125ミリ秒前後)以上かかる場合、遅延が発生しなくなりました[5] 。
Webコンテンツ制作側がアクセシビリティに影響のあるハック的な方法を使わなくても、パフォーマンスの高いコンテンツを提供できるようになりつつあります。2015年もこの流れが加速することに期待しています。
JIS X 8341-3改正と障害者差別解消法
JIS X 8341-3(高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ)は、2015年度の改正に向けた動きが進んでいます。現在のJIS X 8341-3は2010年に改正されたもの(JIS X 8341-3:2010)で、達成基準はW3CのWCAG (Web Content Accessibility Guidelines 2.0) 2.0 と同一です。
2010年のJIS X 8341-3改正後、WCAG 2.0は2012年のISO/IEC国際規格となりました(ISO/IEC 40500:2012 ) 。今回のJIS X 8341-3の改正では、JIS X 8341-3をISO/IEC規格(WCAG 2.0)と一致させることが主な柱となる見込みです。そのため、JIS X 8341-3:2010にはあって、WCAG 2.0にはない内容を規格そのものから外すことが検討されています。
現在のJIS X 8341-3:2010とWCAG 2.0の達成基準はすでに同一であるため、このJIS改正による影響は比較的小さいと思いますが、改正内容には注意を払う必要があるでしょう。
また、今年は、2013年に国会で成立した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」( 通称、障害者差別解消法)に関する動向に特に注意が必要でしょう。障害者差別解消法は行政機関などだけではなく、民間の事業者も障害を理由とする差別の解消にむけて「必要かつ合理的な配慮をするように努め」ること、としています。この法律は2016年4月1日に施行される予定で、具体的な対象分野や指針は2015年に公開される見通しです。この対象分野にはWebも含まれると見られており、具体的な内容を確認する必要があるでしょう。
2015年はWebアクセシビリティにとって重要な年になるでしょう。2015年を上手く使って、Webがより一層アクセシブルになることを期待しています。