最終成果に貢献する「材料」
引き続き人工知能のビジネス、中でも主にマーケティングへの活用について見てみます。
今回は人工知能による最終成果よりも、最終成果に貢献する「材料」、という視点に着目してみます。
最終成果というとつまりコンバージョンですが、コンバージョンそのものの向上への人工知能の貢献は、そこまでこの人工知能ブームの前後で変わっていません。貢献がない、ということではなく、以前からありブームになってもそれはそこまで変化していない、ということです。
とはいえ、人工知能が貢献できるのは最終成果だけではありません。最終成果の元となる材料に対しての貢献もあり、最近はむしろ貢献の観点のほうが成果を挙げています。
人工知能が活用しやすいのはインプット部分
筆者は以前から「人工知能がマーケティングにおいてまず活用されるのは、マッチングではなくインプットの改善」という話をしてきたのですが、それが実際に数字となって現れつつあると言えます。
セグメンテーションにおける人工知能の役割
材料といってもさまざまですが、代表的なものの1つに「セグメンテーション」が挙げられます。たとえばDMの送付先を効果の高そうな一部の顧客にセグメンテーションするなどです。これを一歩進めると、全顧客をセグメンテーションして、それぞれに最適なDMを送付するという形になります。
おや?これって以前からあるメルマガのパーソナライズと一緒ですね。この点については詳しく後述します。
セグメンテーションを実現するソリューションには次のようなものがあります。
- Gilt Group(SAS Analytics Pro活用事例)
- http://www.sas.com/ja_jp/customers/gilt.html
(需要)予測における人工知能の役割
セグメンテーション以外のケースとしては、(需要)予測の活用があります。最終成果も予測の範疇に入るので、ここではコンバージョン予測以外についてですが。
マッチングではない需要予測を行うことで、プライシングの最適化を行うことが可能になります。「誰がそれをコンバージョンするか」はさておき、「誰かにそれがコンバージョンされる」予測も有用ということです。
とくにこれは、宿泊予約などのような回転する商品に対して貢献します。売れたらまた生産するような商品でも、最適価格を予測することで売上の最大化をすることは有用ですが、ある期間における在庫が限られているような商品(だいたい予約系のもの)においてはより有用であると言えます。たとえば、観光地の宿はハイシーズンの晴れそうな週末は値段が高いですし、逆もまたしかりです。こういったケースで活用できます。
また生産するタイプの商品に対しても、需要予測を行うことで原材料の調達の最適化や生産の最適化を行うことが可能になります。調達や生産の最適化は、最終成果への貢献としては直結している度合いが低いですが、それによって事業(商品の売れ行きや利益率)が好調になれば良い循環を生むので、そういった意味では有用だといえるでしょう。
ただ、そうなるとあらゆる改善がその循環に貢献するため、マーケティングという範疇ではなくなっていってしまいますが。
調達が生産すなわちメーカではなく、仕入れすなわちリテールの場合には、需要予測はより最終成果に直結していると言えます。とくに中古売買の場合には「いくらで売れると思うからいくらで買う」、つまり仕入れはほぼ販売と同義なので、そのあたりはより顕著です。
DMのセグメンテーションとメルマガのパーソナライズの共通項
さて、冒頭のDMのセグメンテーションがメルマガのパーソナライズと一緒、という内容について考えてみます。
人工知能の取り組みの成果として、なぜDMのセグメンテーションが登場するのでしょうか。
これには2つの側面があります。
まず1つは、単にやっていなかっただけ、というものです。往々にしてITの活用というのはデジタルのほうが熱心です。そもそもデジタルというのはITのど真ん中ということもあるでしょうし、関わるスタッフの年齢というのもあるでしょうし、予算というのもあると思います。
それが、人工知能という一大ブームとして取り上げられたことによって、デジタルではない領域の人たちの琴線に触れたというものです。人工知能というキーワードはITに詳しくなくても知っている人は多いでしょうし、そもそも漢字のほうが非デジタル領域とはしっくりくるというのもあるでしょう。
いわゆる「カタカナ語」が嫌がられる風潮というのは、ある一定の年齢より上には間違いなくあるのです。なので「ディープラーニング」ではまた事情は違ったかもしれません(笑)
つまり、人工知能ブーム以前から、やればできたのにITに馴染みがないのでやっていなかった(から今さらでも成果が出た)というのが1つめの理由です。あまり褒められた理由ではありませんね。
もう1つは、人工知能の躍進によって扱えるデータの対象が増えたというものです。
東急エージェンシーのPLSA活用のセグメンテーションなどがその事例ですが、だいたい店舗におけるデータというのはスパースで単純な相関では扱いづらかったケースが多いのもまた事実です。
PLSAを文書モデルではなくマーケティングに活用しようというのは、まさに近年の取り組みで人工知能ブームによって目を向けられたものの1つですが、それによって店舗のデータも活用できるようになったというのは、大きな進歩であると言えます。
つまり、デジタルのデータのほうがデジタルの処理に向いていたため以前から活用されていたのが、非デジタルのデータも人工知能の成果によってデジタルの処理がしやすくなったため成果が出た、というのが2つめの理由です。こちらはかなり前向きというかまともな理由です。
筆者が思うに、今後もまだしばらく、画像の活用以外では人工知能のマーケティングへの活用はこうした最終コンバージョンではない材料への貢献として、成果が出てくるのではないかと思います。