The Analytics──誰のためのWebアクセス解析か?

第2回解析ツールを選ぶ前に

昨日の矢島のアドバイスは助かった。大学卒業後、なんとなくで仕事をしていた自分とは違い、それなりのプロフェッショナルな感じもあった。まったく差をつけられたものである。とりあえず、出社後にお礼のメールを書いておいた。

さて、とりあえず昨日の矢島の話で、Web解析ツールが必要だということがわかった。まずは現状入れているのかを調べておく必要があるだろう。佐伯さんに聞いてみることにした。

「Web解析ツール?そんなものは入れてないと思うわよ。あっ、でも以前はよく部長のところに営業の電話が掛かってきてたわよ。」

なるほど、とりあえず入れていないようである。ただ、部長が営業の電話を受けていたというのであれば、部長にも聞いておいた方が良いだろう。

「あ、なんかたまに営業の電話がかかってくるなぁ。でも言っていることがよくわからなかったから、適当に断ってちゃってたよ。」

ある意味予想はついていた返答だった。逆にその予想通りの答えにびっくりなぐらいだ。ということで、とりあえず自分のやるべきことは決まった。まずはWeb解析ツールの導入準備である。

まず検索して出てきた最初の数社に電話をかけて、説明を聞かせてもらうことにした。

選定する条件の整理

いくつか話を聞いたところ、導入にあたっては何点か項目を整理しておいた方が良いことがわかった。

  • サイト規模はどのくらいか?(ページビュー数?)
  • サイトの目的は何か?
  • 何を計測するのか?
  • システム的な制約はあるか?
  • 予算はどのくらいか?

大きくはこのあたりを整理しておけば良いだろう。まずはサイトの規模である。ツールによってはページビュー単位で加算されるものもあるようで、規模を知っておくことは重要なようである。

ツールをすでに入れていればすぐにわかるものの、そこまでするほどのことでもない。さて、どうするか……。

佐伯さんに相談すると、システム担当の人間を紹介してくれた。システムの人間であれば、サーバの保守運用を行っているので、おおよその規模は知っているだろうとのことだ。

連絡をとってみたところ、調べてメールで連絡しますとのことだった。実際にものの10分程度で返答があった。普段はなんだか横文字ばかり並べて喋るので取っ付きにくいところもあるが、こういった対応の速さは見習いたいものである。

さて、おおよその規模はわかったので、次はサイトの目的である。うちのサイトの場合、これは非常に簡単である。サイトでの売り上げ向上だ。サイトの種類によっては、もっと複雑になる場合もあるようだ。

何を計測したいのか?これは非常に難しい問題である。数社聞いた中でも、この部分を確認してくる会社が多かったが、そもそも「何が計測できるのかがわからない」のである。ということで一旦置いておくことにした。

次にシステム的な制約である。これもよくわからなかったので、先ほどのシステムの人間に確認をとってみることにした。

⁠あ、最近ちょっとサーバが増えてしまっているんで、社内で管理するタイプはちょっと…。」

どうもASPサービスのものを利用してもらいたいとのことだった。ただ、他の要件との兼ね合いもあるだろうということで、次のベンダとの打ち合わせに呼んでくれれば出席してくるとのことだった。

これもどうにかクリアである。

ツールを導入するメリット

さて、最後に予算である。実はこれが一番面倒なものである。とりあえず部長に確認をとってみた。

⁠Web解析ツールの予算なんてとってないよ。そんなの考えてなかったし。ただ、事業部での予算にまだ余裕があったみたいだから、各部署の承認がとれれば確保はできると思うよ。」

なんと、社内調整が必要だとのことだ。これを行うためにはWeb解析ツールの重要性を各部署の部長に理解してもらわなければならないということだ。なんとも面倒な話である。

矢島に相談のメールを送ったところ、ちょうど資料があるということで送ってくれた。簡単に整理をすると以下の3点であった。

  • Webサイトの数字を可視化することによる適切なサイト評価を行える
  • ツールを利用してサイトを最適化することにるROIの向上
  • サイトの行動データを利用したマーケティングアプローチの確立

矢島にもらった資料を手直しし、資料をもって各部署を回ったところ、ある部長から質問が1つ出た。

無料と有料の差

「最近は無料のツールがあると聞いたけど、有料を導入するのは何故だい?」

これをクリアできれば承認をくれるとのことだ。しかし難題である。矢島にもらった資料を再度見直したが、さすがにこれについては資料にもなかった。矢島に連絡すると、今日の夜にいつもの飲み屋で会おうとの連絡だった。結局、ビールなのである。

少し送れて到着した矢島だが、この整理で送れたとビールを飲み干しながら言い訳をしていた。

⁠あんまり考えたこと無かったんだよね。でも、整理すると1つかな。データの再利用について。いろいろ考えたけどこれがすべてだと思う。」

なんでも現在、無料で提供されている解析ツールは有料に引けを取らず、非常に優秀なツールが提供されているとのこと。しかし、それらは集計した解析データは見ることができるものの、そのデータの所有権はツールベンダにあることが多いそうだ。

有料のツールの場合、そのデータの所有権は利用している企業側にあるのが普通なのだそうだ。そこでの違いは、Web解析ツールを利用した評価という部分はどちらでもできるものの、アクセス情報をもとにマーケティングに応用していくことが無料の場合はできないとのことだ。

たとえば会員がアクセスしてきている際に、その情報を解析ツール側で取得できるようにしておき、後でメールを送信するといったことも、有料ツールならできるとのことだ。確かにこれは大きな違いかもしれない。

また矢島によると、Web解析データは今後、企業の資産として非常に重要なデータとなってくるだろうとのことだった。企業側にこの権利がないとなると、社内的にも確かに後でやっかいなことになるかもしれない。

次の日、矢島の話を整理して疑問を投げかけた部長に確認をしに行った。この内容で納得していただけたようで、承認を得ることができ、予算も確保できるとの約束がとれた。

これで、ほぼほぼ事前に整理しておくことは大丈夫だろう。後はどの方式を利用するかが問題である。これは矢島の資料(表1)にも載っていたのでこれを参考にし、いくつかのベンダと話をしながら決定することにした。

表1
  ログ型 パケットキャプチャ型 タグ型
提供形態 ソフトウェア
(自社でサーバを用意)
ソフトウェア
(自社でサーバを用意)
ソフトウェア
(自社でサーバを用意)
ASP
ログ保存期間 サーバ容量による サーバ容量による サーバ容量による サービスによる
(通常2年程度)
料金 ライセンス料+サーバ費 ライセンス料+サーバ費 ライセンス料+サーバ費 PVカウント
備考 大規模なサイトの場合、解析するログ容量が多かったり、サーバが分割されてしまっていることで解析に時間がかかってしまうことがある。 Webサーバへのアクセスを集計するため、外部のコンテンツキャッシュサービスを利用している場合、その部分の計測ができない。 JavaScriptを利用したデータの送信となるため、携帯やPDAなどJavaScriptが利用できない端末では解析できない。最近ではRIAや動画の計測もできるものが出てきている。

取得する項目についてはよくわからなかったので、各ベンダに相談をしながら進めていこう。あとは明日からベンダと話をして選定をしていくだけである。

つづく

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