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第12回研修の効果をどう測る?メンバーの能力を誰が評価する~株式会社アイ・エム・ジェイ川畑隆幸氏が赤裸々に語る!IMJ人材育成への挑戦②

前編に引き続き、IMJの人材育成への挑戦をレポート。2013年度からクリエイティブ職対象の全社的な研修を始動。何かを始めれば、新しい課題が立ちはだかります。上期を終えた今、この取り組みを牽引する川畑隆幸さんが直面している課題に迫りました。

株式会社アイ・エム・ジェイ川畑隆幸氏
株式会社アイ・エム・ジェイ川畑隆幸氏

社内の要求レベルは確実に上がっている

「やればやるほど新しい悩みが出てきて悩ましい」と苦笑する川畑さんですが、第一歩を踏み出したからこそ直面できた課題とも言えます。川畑さんの視線も、すでに次の課題に向けられています。

川畑さん「今までは、研修プログラムがなかったから、上期はそれを提供したことで私たちに対する満足度が上がっていました。今期中くらいまでは、提供することで満足度を得られると思っていたのですが、上期を終えた段階で、すでにあたりまえになってしまい(苦笑⁠⁠、⁠提供されるのは当然、こういうのを提供してください!⁠に変わっていきました。変わってもらわないとそれはそれで困るのですが、今は教育推進室のメンバーと一緒にいろいろ頭を悩ませています。

また、批判的な声がまったくないわけでもなく、研修よりも若手の育成という観点で、もっとプロジェクトにアサインする仕組みを考えた方がいい。という意見もあります。それは、本当にその通りで、改善しなければいけない点だと考えています。その一方で、プロジェクトという実践から離れるからこそ得られるスキルもあるのではと感じています」

ただ言われるままに講座数を増やせばいいわけでもないし、同じものを提供し続ければいいわけでもない。自分たちの軸をもって舵取りしていく必要がありますよね。参加者の声も吸収しながら、IMJに求められる要素と現状のギャップに立ち返って、いかに全員のレベルを引き上げるかが課題です。

研修ラインナップの最適化、レベルアップ講座の新設

まず挙げられたのが、上期のレビューを踏まえた研修ラインナップの見直し。

川畑さん「これまでスクール形式で実施した講座は、内容的に合っていなかったものは切り捨て、マッチしているものは、それをしっかりと⁠できる⁠レベルにステップアップさせるためにも、基本はワークショップ形式に変更するようパートナー企業に依頼をしています」

一度打ち立てた研修ラインナップの見直しとしては、次のような観点が考えられますね。レベルアップ講座の新設という点では、4点目が肝となります。

  • 上期の実地検証をもとに不要な講座を切り捨てる
  • おおもとのスキルマップをもとに不足する講座を追加
  • 上期の実地検証や、おおもとのスキルマップをもとに既存講座のチューニング
  • 「知った」ことを「できる」ようにするための実践プログラムの導入

話を聴かせるだけでは「できる」能力は身につかない

では、⁠できる」ようになるためにすべきことは。

川畑さん「上期は⁠ 知る⁠ところまででしたが、下期以降はそれが⁠理解 ⁠に変わっているか、業務にしっかり⁠転用⁠できているかがポイントになります。現在は、まだ⁠ 知る⁠というウェイトが重いとは思うのですが、さすがに下期いっぱいですね。その成果は、研修後のサーベイだけでなく、研修そのものの設計から行わないと測れません。そもそもこの研修は、業務にどのように活用することを想定しているのか?など、もう一度掘り返して全部やり直す必要があるとも思っています」

「知るための講座」「できるようになるための講座」では、講座のつくりが大きく異なりますから、目的やゴール設定に立ち返って見直すのは非常に大事なステップですね。

ある程度明確な「参加者の前提知識・スキル」「研修のゴール」を設定し、そのギャップを埋めるべく「実践に活かしやすい演習課題」を設計し、⁠有能な講師」を手配し、⁠本人にアウトプットさせる→個別にフィードバックする→フィードバックをもとに修正させる→一つの課題を完遂させる」といった過程を組み込み…と、⁠知るための講義」と比べてかなり講座設計の複雑さが増します。

実際には、割ける時間と予算、手配できる講師などの前提条件を踏まえて、実現可能な学習環境をいい按配で落とし込んでいく必要がありますが、少なくとも⁠話を聴かせるだけではスキルは身につかない⁠前提の設計が重要ですね。

ポリシーを柔軟に変えて評価制度連動の体制づくり

そして今後は必修プログラムも導入していく予定とか。

川畑さん「上期は、研修の参加に強制力は一切もたせないポリシーでしたが、今後は、全社員に共通の⁠必ず受けてください⁠プログラムも用意した方がいいのか、少し悩んでいます。悩んでいるのは、必修にすると自分が受けないかもしれないから……(笑)

しかし、この研修は皆が受けているという共通言語が存在することも必要かもしれません。その研修を受けることで自分の弱点が明らかになり、 ⁠その弱点を補うためにはこの研修があります⁠など、セットで提供する形に少しずつ変えていこうと思っています」

こうした考えの背景には、研修の成果を人事評価制度に組み込みたいという意向もあってのことだそう。

川畑さん「今は、ゆるやかに連動しているぐらいですが、後々はスキルが向上したことを評価制度に組み込むことも必要かと思っています。一方で、設計を間違うと評価を上げるために研修に取り組むことにもなりかねず、⁠本100冊読んだから評価が高くなる⁠などは、本末転倒です(笑⁠⁠。

そもそも、本人に不足しているスキルについていかに客観性をもって突きつけられるかが、必要だと思っています。ただ、課題としては、かなりハードルが高いですね」

研修と評価の連動を取り入れるだけでなく、この人たちはもう飛び級でいいんじゃないの?みたいな制度の設定まで、今個別に全部を見直している最中とのこと。あくまで本来の目的に根ざしつつ、先々の運用も見据えて柔軟に運用方針を変えていきます。

何をもってスキルが向上したと言えるのか

さて、何かを始めれば必ず費用対効果を問われるのが企業の宿命。

川畑さん「コストをかけている以上、研修を受けてスキルが向上し、それが最終的にIMJのバリューに変化していることを、何かしらの形で証明することは、ひとつの義務だと思っています。しかし、なかなか適切な測り方が見つからず、数ヶ月が経過してしまいました。逆に言うと、答えはないのかもしれません」

社内の現場はもちろん、同業他社にも、いろんな研修会社にも聞いてみたそうですが……

川畑さん「どのようにスキルの向上を測定しているのかヒアリングしても、納得できる答えが返ってきたことはないですね」

たとえば、どんな答えが返ってくるのでしょう。

川畑さん「⁠⁠アンケートの結果で測る⁠が一番多いですね。受講者がスキルを得られましたと回答しているかどうか。得たスキルが業務にどう活かされたかを測れているところはほとんどありません。他には、テストを作るというもの、IMJでも取り入れようと検討している、研修を受け、現場に戻った2~3か月後に、現業務での役立ち度合いを再度アンケートで測るとかですね」

いかに研修の実施効果を測るか

効果の測り方は研修のゴール設定によっても変わりますよね。上期でやった「知る」までをゴールとする研修だと、⁠興味をもったか」⁠継続的な学習の必要を感じたか」をアンケートで測るか、効果は「記憶しているか」⁠理解したか」を筆記テストで測るか。あるいは、もう一歩踏み込んで「知ったことを現場でどう思い出し、どう活用したか」直接話を聴いてみるか。

ただ、⁠知る」までをゴールとした研修は予算も時間も限られていることが多いし、現場での行動変化も直接的でないことが多いので、プラスアルファのコストをかけて事後テストを作成するなど、数ヶ月後の再調査を行うことは少ないのが実際。たとえば事後テストを24講座全部作るとなると、それこそ費用対効果に見合うのかという問題が出てきてしまう。

この辺の現実的なさじ加減がなかなか難しいところで、結果的に効果測定がうやむやにもなりやすいのですが、IMJではこの辺の事後調査をかなり丁寧に行っている印象を受けました。

川畑さん「研修内容を活かせる対象となるプロジェクトが多種多様すぎて、一律にサーベイできない問題があります。同じ環境で同じものを作っているのであれば、⁠5分短縮した⁠というように定量的な測定が可能ですが、 身につけた知識を、このクライアント、このプロジェクトにどのように応用し、適用しているかは、じっくりと個別に聴いていくしかありません。その結果、現在は、研修に参加した人に対し、個別ヒアリングやグループインタビューを実施し、そこにできるだけ時間をかけるようにしています。定量的なアンケートはもちろん大事なのですが、私たちが本当に大事にすべきものは、定性的な声をいかに集めることができるかです」

下期以降は「できる」レベルをゴールに設定するわけで、こうした調査がさらに意味をもってくるのでしょうね。ぜひ継続的に取材させていただきたい。

評価する側のマネジメント教育も大きな問題

また新たに立ちはだかるのが、スキルや成果を評価するマネジメント側の問題。

川畑さん「⁠⁠納期どおり、コストどおり納められた。しかし、クライアントの満足度が低い⁠というケースもありえるわけです。IMJとしては、何をもってスキルを評価し、良いプロジェクトだったと評価するのか、マネジメント側の意識統一も重要です」

意識統一に留まらず、川畑さん、この後思いっきり切り込みました。これってさまざまな組織で抱えている問題では……。

川畑さん「IMJに限らない問題だと思いますが、最近は現場で使われているテクノロジーに触れたことがないマネージャーに評価される状況になってきています。

極端な例でいうと、アプリを一度も作ったことのない人が、アプリのエンジニアを評価することが、全然珍しくありません。あるいは、レスポンシブWebデザイン(RWD)を制作したことがないマネージャーが、⁠今期RWD案件を何件やった⁠という人を評価するのですが、そのRWDの対応における評価ポイントを正しく掴みきれなくなってくるのでは。という問題があります。

合宿研修などで若手の話を聴くと、マネジメント評価に対する納得度が必ず問題になります。それは、この先ますます増えてくるでしょうし、もう限界に近いのかもしれません」

一方で評価する側から、この問題をとらえると、部下の評価すらできなくなってしまうから、なかなか現場仕事を離れられません。つまりどうしても、プレイングマネージャにならざるをえないのは、ここにも原因があるように感じます。その結果、組織的にスケールしづらいという問題もあります。

しかしまぁ、これだけ正面からマネジメント側の問題を指摘できる方が社内のマネジメント側にいるというのは、若手社員の皆さんにとってさぞ心強いのではないかと、逆に安心してしまいました……(笑⁠⁠。

マネジメント側の評価スキルアップより、仕組みで解決?

新しいテクノロジーをプレイヤーとして触れた経験がないマネージャーに、技術者の能力を評価させるスキルアップをしてもらうより、技術力の評価者を別に立てて仕組みを変えたほうが能率が良いかもしれませんね。

川畑さん「はい。360度評価ではありませんが、そのスキルを評価できる別軸の評価機関があり、その評価をとりまとめて会社にとってどれだけ価値ある人なのか評価する二軸がないと、厳しいと皆もうっすら気づいているはずです。しかし、それを実行するには、かなりの労力と覚悟が必要ですし、技術を評価するに十分なスキルとは何か、また、制度の設計や運用も問題になります。本当にハードルの高い話だと思いますが、避けては通れない道ですね」

技術者が非技術者にスキルの高さ、実現の難しさを伝えられるようなスキルの可視化支援ツールみたいなのもあるといいかもしれませんね。インターネット上でシェアして、みんなで育てていけるようなのとか。評価する側の仕組みづくりと合わせて、評価される側が自分の能力を可視化、言語化していく仕組みもあると能率が良さそうです。

川畑さん「そうですね。最初から⁠ 会社⁠という小さい単位で考えしまうと、デジタルマーケティング業界にいる、世の中で本当に求められる能力を見落とす危険もあります。この記事をきっかけに外部のいろいろな方とお話しする機会が増えたら嬉しいと思っています」

「手をつけて良かったなぁ」という気持ちは強い

「スキルを上げる」という課題に向かいあってみたら、⁠スキルを可視化する」⁠可視化されたスキルを評価する」と、新たな課題が続々と出てきた。しかし、⁠そうは言っても、手をつけて良かったなぁという気持ちは強い」と、さらなる挑戦に意欲をみせる川畑さん。

川畑さん「今は、IMJもいろんな意味でトライアルを積み重ねている段階です。問題は明らかになりましたが、取材していただくには、まだまだ走り始めです。新しい動きなどがあれば、継続的にご紹介できればと思います」

唯一の正解はないけれど、会社を超えた意見交換の場や、ノウハウ共有の場が作れれば、それぞれが自分たちの職場に持ち帰ってより良い環境づくりはできるかもしれません。この記事が、そんな交流の場を持つきっかけになれば幸いです。

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