ディスプレイで文章を読む時代
1995年の流行語大賞は「インターネット」であった。同年、マイクロソフト社のWindows 95がリリースされ、インターネット普及に大きな影響を与える。月刊誌「インターネットマガジン」(インプレス/1994年9月創刊)には、ISP(インターネットサービスプロバイダ)の広告が掲載され始め、ダイヤルアップによる接続が一気に広まる。1996年からはNTTのテレホーダイ(深夜定額制)がスタート。午後11時以降、トラフィックが増えて接続しづらくなるという状態が続いた。2000年以降は、ADSLやCATVインターネット、FTTHが身近なサービスになり、常時接続・高速通信のブロードバンド環境が普及する。2005年4月にはUSENの「完全無料パソコンテレビ GyaO」が登場し、PCでTV番組や映画などの映像を観るというユーザーが急増、現在の視聴登録数は1,000万人を超えている(ユニークユーザー数は387万8000人/ネットレイティングス調べ)。
インターネットが商用化されてから10年以上が経ち、あらゆる分野と結びつき様々なサービスが生まれた。私たちの日常の生活にも浸透し、PCだけではなく携帯電話やPDA、ゲーム機器、TV、カーナビゲーションなど、用途も拡大している。この10年で変わったことはたくさんあるが、特に取り上げておきたいのが「ディスプレイで文章を読む」機会が増えたことである。毎日使用するメールやWebが大半を占めるため、紙媒体よりもディスプレイを通して読む量の方が多いという人もいる。最近は映像コンテンツも増えているが、Webはやはりテキストベースである。情報閲覧は基本的に「文章を読む」ことだ。
ケータイで読む
10~20代の女性を中心とした活字マーケットで「ケータイ小説」が好調である。約70万タイトルを公開している「魔法の図書館」(株式会社魔法のiランド)では人気作品を次々と書籍化、ケータイ小説「恋空」は昨年の日販ベストセラーランキング(総合)12位にランクインしている。NTTドコモのiモードが登場した時(1999年2月よりサービス開始)、「あんな小さな液晶画面で文字は読めない」と感じたが、今では何の苦もなく一日に何度もケータイの画面で文章を読む。私はメールの送受信を始めとして、ネットニュースやブログ、ミクシィなどのアクセスなど、移動中やちょっとした空き時間に利用している(ミクシィは昨年の12月4日から携帯電話からのユーザ登録をスタート。登録者数はサービス開始から3日間で10万人を超えた)。解像度が高くなって視認性が向上したことも影響しているが、「ケータイで文字を読むことに慣れた」ことも大きい。
Webブラウザの可読性も向上
5年ぶりにバージョンアップしたマイクロソフト社のInternet Explorer 7は、セキュリティ機能の強化やタブインターフェイスの採用、RSSフィードのサポートなど数々の新機能が搭載されたが、「文章を読む」ためのブラウザとしても進化している。「ページズーム機能」と「ClearTypeフォントの採用」によって、可読性が向上し格段に読みやすくなったのだ。ページズームは、テキストだけではなくページ全体を拡大表示できるため、レイアウトを壊すことなく閲覧することができる。Opera(Opera Software ASA)以外のWebブラウザには、テキストズーム機能しか搭載されておらず、グラフィック文字や図版などは拡大表示できなかった。IE 7に搭載されたことで閲覧時のページズーム利用率は高くなるだろう。ClearTypeテキストレンダリングはオフにすることが可能だが、字幅などが変わることもなくレイアウトにも影響がないため、ほとんどのユーザーはデフォルトで問題ないはずだ。なお、Windows Vistaには新開発の日本語ClearTypeフォント「メイリオ」が標準搭載される。
デジタル化された書籍をWebで読んだり、Webの情報(ブログやSNSなどで公開された日記や小説など)が書籍化されたり、本とWebの融合が進行している。HTMLのコンテンツだけではなくFlashで作られたブックメタファのリッチコンテンツも増えており、「記事を読みながら、紹介されているアイテムをその場で買う」といったサービスも可能にしている。PCやモバイルの液晶画面で「読む」という行為は、違和感が薄れつつあり、新しいアプローチで展開する電子書籍などの動向も興味深い。次回からは、「読むWeb」という視点で最新のWebサイト(およびサービス)を紹介していきたいと思う。