ブランドサイトにはオンライン販売での売上やセールスリードの獲得など、わかりやすいゴールが存在しない場合が往々にしてあります。ブランド訴求やエンゲージメントなど、明確なゴール設定が困難であるからこそ、正しい制作プロセスが無ければ途中での変更や作り直しが多く発生してしまいます。その結果、予算・工期・品質が圧迫され、リニューアルが成功する可能性は劇的に低下します。ブランドサイトのリニューアルに取り掛かる前に、いくつかのポイントを正しく理解し、制作に関わる全員の合意を得る必要があります。
今回紹介するブランドサイトリニューアルチェックリストは制作者向けの技術的なものではありません。ブランドサイトの目的やコミュニケーションを明確にし、クライアントとエージェンシー側双方でプロジェクトの成功に必要なコンセンサスを得るためのものです。もちろん、すべてを任せられるようなエージェンシーが代行をしてくれれば理想的ですが、現実にはそのようなエージェンシーはあまり存在しません。
現状を把握する
ブランドサイトのリニューアルは機能の改善を目的とするため、現状のパフォーマンスや、リニューアル後もアセットとして活用できる箇所を把握する必要があります。具体的なゴールやコンバージョンが設定されているとすれば、どの程度達成できているのか、アクセス解析から必ずその現状を把握しましょう。また、数値のベンチマークや、アセットとなるページだけでなく、ユーザーの動向からブランドに対するニーズを知ることもできます。
- 訪問数/訪問者数
- 直帰率
- 流入キーワード
- 重要キーワードでの検索順位
- コンバージョン数/率
- 最も検索エンジンからアクセスされているページ
- 最も高いコンバージョンを達成しているページ
- 離脱率が最も高いページ
- 直帰率が最も高いページ
- など…
このような情報が無ければ、リニューアルを検討する前にGoogle Analyticsなどのツールを導入することを強くお勧めします。また、DoubleClick Ad Plannerを使えば訪問数だけでなく訪問者のデモグラフィックなどがわかります。競合サイトとの比較などにも活用できる情報なので、必ず参照しましょう。
ターゲットユーザーを設定する
ブランドサイトのコミュニケーションはブランド中心であってはなりません。ブランドとの関わりを求めるユーザーに目的のアクションを行ってもらうためには、ユーザーとユーザーのニーズがコミュニケーションの中心であるべきです。ターゲットユーザーをデモグラフィックや、サイコグラフィック、購買行動などから詳細に設定することで、効果的なコミュニケーションを立案することができます。
- 年齢
- 地域
- 性別
- 就業状況
- 家族構成
- 価値観
- 趣味/ライフスタイル
- 日常の行動
- 購入ブランド
- 購入頻度
- 購入理由
- など…
ブランドサイトにはコンテンツ毎に個別の動線を設けることができるため、複数のターゲットに対して適切なコミュニケーションを行うことが可能です。ターゲットの特性に応じてページのカテゴリーなどを分け、サイトの設計を行います。
競合を分析する
深い競合の分析を行う必要はありませんが、少なくとも競合ブランドサイトのコミュニケーションなどは把握しておきましょう。ブランドの独自性を見出すためには競合が何を強みとしており、市場にどのように伝えているかを把握する必要があります。競合のコミュニケーションを十分に理解した上で、戦略を立案しましょう。また、各種ツールを使い、自社のブランドサイトと競合を数値的に比較することができます。
競合との比較を行った後に、自社のブランドが優位性を確立する上で必要となるアクションをリスト化し、実施しましょう。
UVP(ユニークバリュープロポジション)を明確にする
コンテンツを作り始める前に、ブランドのユニークバリュープロポジション(UVP:独自の価値提案)を明確にします。競合と最も異なる特性から、ユーザーにどのような価値を提供することができるのか? ユーザーはブランドを体験することで何を得ることができるのか? これが明確にならなければ、ユーザーは購入はおろか、ブランドサイトのコンテンツを読み続けてくれさえしません。直帰率を抑えるために、ユーザーが具体的に何を得ることができて、競合にはそれが提供できないことを伝えなければなりません。
ブランドのUVPが分からないということは、マーケティング活動にとって致命的です。ブランドに様々な特性があり、どの価値を伝えるべきかわからなければ、Twitterなどのソーシャルメディアで自社のブランドや競合ブランドについて検索をしてみると良いでしょう。認知度の高いブランドであれば、様々なつぶやきから特定ブランドの購買理由が見えてきます。競合に無い意見が自社ブランドについてのつぶやきにあれば、それはUVPに関連している可能性が高いと考えられます。
検索ニーズを知る
ブランドサイトへの最も重要な流入経路は検索エンジンです。ユーザーが検索しているキーワードにコンテンツをマッチさせることができなければ、リーチすることはできません。Googleキーワードツールから、検索されているキーワードのバリエーションや、おおよその検索ボリュームを知ることができます。ユーザーは直接ブランド名を含む「ブランド検索」、商品カテゴリーを検索する「カテゴリー検索」、自身が抱える問題を検索する「ニーズ検索」の3種類の検索を行なっています。
検索ニーズを知ることで、ブランドがアプローチすべきユーザー層や、ブランドサイトが提供すべきコミュニケーションが明確になります。また、最も顧客化の可能性が高いユーザーにリーチすることができるようになります。
ブランド検索だけでなく、カテゴリー検索やニーズ検索をカバーすることで、ブランドサイトは潜在顧客を獲得し、ビジネスの拡大に貢献することができるようになります。
ゴールを明確にする
リニューアルを正しく行うためには明確な目的が必要です。単に「イメージを変えたい」というだけでは、十分な理由にはなりません。リニューアルはブランドサイトの見た目を変えるだけでなく、機能を変えるものです。プロジェクトを開始する前に、何をゴールとするか、その数値目標は何か、どのように測定するかを明確にします。そして、必ずチーム全員やエージェンシーとゴールについて合意をします。
- ブランドムービーの再生回数
- 顧客データベースの登録者数
- コメントの投稿回数
- キャンペーンへの応募数
- ダウンロード数
- 問い合わせ数
- など…
ブランドサイト上ではユーザーの様々な行動を数値で測定することができます。しかし、ゴールが明確でなければ何を測定すべきかがわからず、不要な数値まで解析することになります。解析は基本的に非生産的な活動であり、事前に測定すべき数値を正しく理解しておかなければリソースを大きく圧迫します。ゴールを考える上で、最も重要なポイントが「クリティカルさ」です。ターゲットユーザーがブランドサイト上で行うアクションの中で、ビジネスに最も大きな影響を与えるものは何か?そのアクションこそがゴールであるべきです。
コールトゥアクションを増やす
コールトゥアクションはブランドサイトの訪問者をゴールへと導くものです。ゴールに向けたアクションを促すコピーやボタンなどが無い限り、ユーザーはゴールをたどり着くことができません。適切なコールトゥアクションが設置されおらず、ユーザーを具体的なゴールへと誘導できていないブランドサイトは多く存在します。ゴールが何であるかが決まったら、それに導くコールトゥアクションを十分に設置する事を考えましょう。ブランドサイトのパフォーマンスを最大化するためには、必要なすべてのページの、スクロールなどのアクションなしで見える位置に、目立つよう設置する必要があります。
ブランドイメージを明確にする
ブランドサイトのデザインやコンテンツ制作を行う上で表現すべきブランドイメージが明確でなければクリエイティブな判断は個人的な好みなどから、主観的に下されてしまいます。ブランドイメージを強化し、差別化に貢献するためには明確なブランドイメージと共に、客観的な評価方法が必要となります。まずはブランドイメージを明確にするため、ブランドに対するドキュメントや広告事例、素材データなどをエージェンシーに提供しましょう。また、トーン&マナーを守るために、ブランドパーソナリティをキーワードで定義し、双方で合意を行います。
- ブランドブック
- アイデンティティマニュアル
- ブランドコンセプトテキスト
- 印刷広告
- 店頭広告/パッケージ
- テレビCM
- ロゴデータ
- フォント
- イメージ画像
ブランドサイトにはテキストコンテンツ、画像/映像コンテンツ、レイアウト、カラー、グラフィックデザイン(共通ページ要素、インフォメーショングラフィック、インタラクティブ要素)など、様々なクリエイティブ要素が存在します。正しくブランドを訴求するためには、これらのクリエイティブ要素すべてがブランドイメージに適しており、他チャネルのクリエイティブと一貫性を保ち、競合との差別化に貢献し、ブランドの品質知覚を向上させるよう制作を行う必要があります。クリエイティブを主観的に判断せず、ブランドを正しく伝えるために、できるだけ多くの情報やデータを用意しましょう。
ブランドサイトの成功にはブランド側の理解と参加が不可欠です。リニューアルを考える前に、上記のポイントを十分に考慮しましょう。目的やコミュニケーション、クリエイティブの方向性を事前にしっかりと定めることで、構築的な制作プロセスを実現し、ブランドサイトの品質を大きく改善することができます。