FMCG(Fast Moving Consumer Goods; 日用品)の分野では、多くの企業がデジタルマーケティングへの対応に遅れを感じています。その背景には費用対効果が評価できないために、積極的な投資に踏み切れないという理由があります。
オウンドやアーンドメディアに投資をしても、スーパーやドラッグストアの買い物のために消費者が積極的に情報収集をしてくれる訳ではありません。ペイドメディアでリーチをしても、店頭の売上を左右するほどのアウェアネスは期待できません。効率的にターゲットへリーチし、確実に店頭での購買へと誘導できたとしても、直接的な影響を計ることが難しいため、大きな投資を正当化することも困難です。さらに、大きなリターンが期待できなくても、デジタルマーケティングには膨大なワークロードが求められます。様々なタッチポイントを連携させ、セグメントごとのコミュニケーションを最適化し、細かい検証と軌道修正を繰り返しながら、新たなテクノロジーやトレンドを学び続ける必要があります。
このような状況では、FMCGのマーケターがデジタルマーケティングに対して消極的になってしまうのも無理はありません。
FMCGのデジタルマーケティングを推進するためには、その特性を活かし、デジタルの枠を超えて、マーケティング全体の最適化に貢献しなければいけません。デジタルマーケティングの特性の中でも、店頭とテレビが中心であるFMCGのマーケティングに影響するものとして、次の3つが考えられます。
- ダイレクトマーケティングのように、ユーザー毎にコミュニケーションを分け、それぞれの効果が測定できること
- 動画など、様々なメディア形式でのコミュニケーションが可能であること
- 認知からクチコミまで、購買行動全体をカバーできること
これらの特性をまとめると、FMCGにおけるデジタルマーケティングの目的は「Webなど、デジタルなチャネルで広い情報発信を可能にすること」ではなく、「購買行動全体の計測から、様々なマーケティング施策の改善を可能にすること」であると考えられます。
デジタルマーケティングの可能性を引き出す鍵は間違いなく購買データです。通販などのダイレクトレスポンスの分野では、購買など、最終的なコンバージョンのデータから施策を改善することは当たり前です。
例えば、動画広告の視聴データと購買データを結びつければ、動画が売上へ与えた効果を直接的に測定できます。複数のクリエイティブを同時に配信すれば、最も効果的なものを見つけることができますし、ユーザーセグメント毎に広告を配信すれば、反応率の高いターゲットや、特定のターゲットに最適なクリエイティブを見つけることも可能です。
他にも、Webサイト上の行動データなどを組み合わせれば、一人ひとりのユーザーがどのような情報を接触した結果、購入に至ったのかを調べることができます。無数の可能性の中から購買を軸にコミュニケーションの「正解」を逆引きすることができれば、FMCGのマーケティングはトライアルアンドエラーという手法から脱却し、正確かつ迅速に、システマチックな改善を行うことが可能になるはずです。
購買行動全体を計測可能にするためには、既存の様々なタッチポイントを活用する必要があります。購買データのソースはポイントカートやECサイトの購入履歴など、サードパーティのものには限られません。クローズド懸賞の応募者や、パッケージのみで告知したデジタルキャンペーンの訪問者は、ほぼ全員が購入者であると言えるでしょう。他にも、Webサイトから、Amazonの商品ページへのリンクをクリックしたユーザーには購買意欲があると言えます。デジタルマーケティングの担当者にとって、タッチポイントはデータの収集ポイントでもあります。先ずは購買行動全体の計測を可能にするために、既存のマーケティング施策を駆使し、様々なタッチポイントからデータを収集することにフォーカスすべきでしょう。
多くのFMCGのマーケターにとって、デジタルはいまだスケールが不十分で、大きな効果が期待できないものかもしれません。しかし、デジタルマーケティングがデジタルなチャネルに限らず、マーケティング全体の改善を可能にし、その投資対効果を大きく向上させるものだとすれば、もはやそれを代理店に委任することはできなくなります。戦略的なデータの収集と、データに基づいた様々なマーケティング施策の改善が求められ、業務の主軸は代理店から広告主側へと移るでしょう。
FMCGのマーケターがデジタルマーケティングの重要性に気づき、専門家と共にそのスキルやノウハウを社内に蓄積し始めた時こそ、競合他社に対する持続的な競争優位性を確立することができるのではないでしょうか。