先日、コムエクスポジアム・ジャパンが主催するad:tech tokyo 2015で、WPPグループCDOのスコット・スピリット氏と、資生堂ジャパンCMOの音部大輔氏を交えて、デジタルがブランドマネジメントにもたらす影響についてディスカッションを行いました。今回はその内容を紹介します。
データやテクノロジーはマーケティングの大きなアドバンテージになります。欧米ではもはやマーケティングにデジタルテクノロジーは欠かせないものとなり、世界最大の広告複合企業であるWPPでは、収益の4割をデジタルメディアが占めています。積極的な投資を怠れば、どんなブランドも競合の脅威に晒されることは明らかです。アメリカでは様々な業種にディスラプター(破壊的なイノベーションを起こす企業)が現れ、多くの企業が真剣なデジタルへの取り組みを余儀なくされました。結果、デジタルメディアへの支出は大きく成長し、2014年には広告費全体の28%を占め、2018年にはテレビを超えると言われています。
デジタルメディアは日本でも二桁成長をしているものの、その割合は未だ17%に留まり、多くのブランドが重要性を理解していながらも、今一歩踏み出せずにいます。音部氏はこの背景に競争環境の乏しさを指摘します。業界全体がデジタルに消極的であれば、競合の脅威を感じることはなく、イノベーションも求められません。このような環境下では日本企業が世界に対する競争力を失ってしまうことになるでしょう。
日本人のメディア接触時間の44%はデジタルです。これはアメリカの47%に並ぶ高水準であり、広告費と大きなギャップがあることは明らかです。さらに、大半の企業が未だデジタル活用に消極的であり、デジタルに成熟した企業にとって大きな機会のある市場と言えるでしょう。では企業はがデジタルに対する成熟度を高めるためにはどうすればよいのでしょうか?
スコット氏は海外に目を向けろと言います。特に、イギリスのブランドやエージェンシーのスキル向上はeコマースに起因しているそうです。確かにeコマースの場合、直接的に効果が測定できるため、高頻度な仮説の検証が可能になります。広告の巨人と呼ばれたデイビッド・オグルヴィも「すべてのコピーライターはダイレクトマーケティングを学ぶべき」と著書に記しています。マーケティング実務者が自らの手でシミュレーションや効果測定を行うことでマーケティング活動の定量的理解が深まるのです。
音部氏はさらに、目的を問い正すことの重要性を指摘します。データやテクノロジーに対する技術的な知識だけではなく、目的を明確にし、その達成に向けて限られた資源を有効に割り当てる戦略的思考が必要であると言います。従来の仕事のやり方を変えてしまうデジタルに、苦手意識を持つマーケターは少なくありません。「デジタルでも何かやらなければならない」という消極的なスタンスでは、必ず手段が目的化してします。この施策の本当の目的は何か?ということをしっかりと理解できなければデータやテクノロジーを使いこなすことはできないのです。
これからのマーケターには前提として、テクノロジーへの知識と、定量的に物事を捉える力が必要になります。また、戦略的思考を持ち、海外の情報を得るための語学力も必要になるでしょう。このような特殊な人材を育成することは決して容易ではありません。スコット氏はさらに、特定の専門分野に深い知識を持つ、スペシャリスト・エージェンシーの重要性を強調します。マーケターは本質的な戦略にフォーカスし、手法は専門家に任せるのです。従来の総合的な広告代理店では、デジタルの様々な分野に関する深い知識を提供することができません。マーケターはデジタルの知識と戦略的思考に加え、無数のエージェンシーを管理する能力を必要としているのかもしれません。