適切に運用されてこそ
連載第9回目となる今回は、「運用・更新」がテーマです。クライアントに納品されるWebサイトのコンテンツを適切に管理していくため、制作者が押さえておくべきノウハウについて考えていきたいと思います。これまで8回にわたって本連載でお話ししてきた制作のフェーズを経て、フルフラッシュサイトはひと通りの形を整えたと言えるでしょう。しかし、Webサイト本来の目的を達成できる価値あるフルフラッシュサイトとは、クライアントが望む形で継続的に運用・更新されることによってはじめて完成を見るものです。今回はクライアントによって自立的に管理されるプロジェクトも想定しながら、主に制作の段階から対策を施しておくべきフルフラッシュサイトの運用・更新手法について、いくつか言及してみたいと思います。
運用・更新の主体を考えながら
一般的に、コーポレートサイトやECサイトのようにhtmlで制作されることの多いWebサイトに比べると、フルフラッシュサイトでコンテンツに変更が発生する機会は少ないかもしれません。しかし、ニュースや各種トピックの表示など、多かれ少なかれ更新の必要性はほぼあらゆるWebサイトで発生しますし、それに対しては誰かが対応しなければなりません。そのような作業は制作者が請け負う場合もあれば、コンテンツを管理できるシステムを提供したうえで、クライアントに任せる場合もあります。
そのような運用・更新作業の主体を含めたコンテンツ管理スキームの見極めにあたっては、更新者のリテラシー、管理コスト、さらには更新の頻度や難易度といったさまざまな状況を加味する必要があります。たとえば更新する量が(当該Webサイトの公開期間すべてにわたって)少ないだけでなく、更新の頻度が不定期であったり更新箇所が特定されていないような場合は、制作者が更新作業をするほうが、コスト上でも有利になる可能性が高いと言えます。
その一方で、ニュースリリースなど頻繁に、または即時に更新・公開すべき内容を含む作業であれば、クライアントが自ら更新できる管理手法が望まれるケースもあります。
CMSやXMLで柔軟な更新手法を実現
クライアントやエージェンシーが自立的にコンテンツを管理できるようにする場合は、プロジェクトに見合ったコンテンツ管理システム(以下、CMS:Content Management System)を提供するのが適切でしょう。具体的には、Six Apart KKの「Movable Type」をはじめとする汎用的なブログ更新ツールをそのまま、あるいはカスタマイズして提供する方法や、制作者が新たな専用CMSパッケージを開発するといった方法があります。
このどちらの方法も、主にブラウザで入力した更新内容をXMLファイルとして外部出力するという点では共通しています。また、出力されたXMLファイルをFlashのプログラムが参照することでWebサイトのコンテンツが更新されていくという点でも共通しています。
このようなCMSを利用するフルフラッシュサイトでは、Action Script(以下、AS)の記述自体がやや複雑になるものの、flashファイルをさわることなく制作者以外の人でも容易に更新作業を行えるというメリットがあります。もちろん、ある程度マークアップ言語の記述に理解のある担当者であれば、直接XMLで記述された当該箇所の内容を書き換えることで更新を行うことも可能です。
CMS、ひいてはXMLを活用する運用・更新手法は、更新の頻度が高ければ高いほどコストメリットを発揮できることに加えて、更新したい内容を即時にWebサイトへ反映させることができるという点で、大きなメリットがあると言えます。
- CMSツール
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ログ解析も細かく行える
また、コンテンツ管理という点では補足事項になりますが、運用・更新とともに、もうひとつのキーワードになるのがログ解析です。現実的にはフルフラッシュサイトにおけるログ解析がコンテンツ管理に有効活用されているケースはまだ少ないと言えます。しかし、特に長期間公開されるWebサイトの運用・更新では、クライアントやエージェンシーの要望によって細かいログ解析が求められるケースも珍しくありません。
ユーザーのアクセス状況やサイト滞留時間といったログは、htmlベースのWebサイトと同様にフルフラッシュサイトでも事細かに解析できます。抽出されたログをGoogle, Inc.が提供する「Google Analytics」などのログ解析用フリーソフトでビジュアライズすれば、プロジェクト自体の運営という目的を考えればひとつの有効なツールになるのではないでしょうか。
- アクセス解析ソフト
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「作って終わり」ではなく
程度の差こそあれWebサイトに運用・更新はつきものですし、ログ解析も特にクライアントワークでは不可欠な要素のひとつと言えるでしょう。逆にどれほど初期費用を投入してクオリティの高いWebサイトを制作しても、適切な運用が継続的に行われなければWebサイト本来の目的は達成できないのではないでしょうか。ましてや運用・更新が行われず、たとえば数年前のニュースリリースなどがトップページに表示されたままであることなどが、Webサイトにとって大きなマイナス要因になることも考えられます。
ひと昔前までは、フルフラッシュサイトで運用・更新できるコンテンツの幅は狭いといった誤解も多かったのではないかと、著者は感じています。しかし今回述べたような各種ツールやシステムを活用することで、実際にはフルフラッシュサイトでも他のWebサイトと同様、効率的に運用・更新できるという点は、クライアントにとってもクリエイターの方々にとっても大きなプラス材料にできるのではないでしょうか。価値あるフルフラッシュサイトを"完成させる一手"として、常に運用・更新を視野にいれた制作を心がけることが、開発者の皆様には強く求められていると思っています。