7月19日、パソナグループ本社においてセミナー「Find your ability ! for クリエイター~Webサービス/アプリ業界で『目立つ!』ために知っておくべきことゼンブ~」が開催されました。本セミナーは、エンジニア、クリエイターへ最新技術や業界動向、キャリアのヒントをシェアし、新しい働き方を模索する「Find your ability」キャンペーンの第一弾となるもので、クリエイターへ向けてWebサービス/アプリ業界動向を展望するとともに、クリエイターとして活躍するために把握しておくべき知識や現場感覚をシェアするというもの。アンティーファクトリーの中川直樹氏による「クリエイターが作る次の10年」と、バイドゥの矢野りん氏による「求められるクリエイターの条件」の2つのセッションが行われました。
「Find your ability」キャンペーンとは?
市場が拡大し続けているWeb業界では、企画、開発、デザイン、運営のすべてのセクションでWeb企業の求人が急増しており、フリーランスや個人事業主と連携するケースも増えています。エンジニア・クリエイターにとっては、個人の才能を新しいフィールドへ広げる絶好のチャンスが到来したといえるでしょう。
そこでパソナテックは7月~9月までの期間、「 Find your ability」キャンペーンを展開しています。このキャンペーンは、エンジニアやクリエイターが新しいチャンスを逃さないために、最新技術だけでなく業界動向や現場のスタンダードをシェアするセミナーや、注目Web企業の求人企画を実施するものです。
『Find your ability !』キャンペーンサイトはこちら
URL:http://www.pasonatech.co.jp/ca/ability/
「時代のキーワード」を把握して次の10年を作って行こう
セミナー1本目のセッションは、アンティーファクトリーの中川直樹氏による「クリエイターが作る次の10年」でした。中川氏は、ニューヨーク州立大学 Fashion Institute of Technology(F.I.T)広告デザイン学科を卒業し、ニューヨークにてWebデザイン、グラフィックデザインに従事しました。帰国後、1997年にアンティー・デザインを設立。2009年度からは社団法人JWDA会長も勤めています。
中川氏は、F.I.T広告デザイン学科を卒業し、しばらく米国で仕事をした後、日本に戻り起業しました
中川氏が起業した当時はクリエイターがいない時代で、仕事は多かったといいます。さらに仕事の幅はネットの高速化やパソコンの普及とともに広がっていきました。最近ではモバイル環境の進化が顕著で、特にスマートフォンが急速に普及しています。とはいえ、スマートフォンの普及率は日本全体で20%程度。16%を超えると爆発的に普及するといいますが、まだ全国的な普及まで2年はかかるとみられるため、ヒットするアプリに挑戦するのも、まだまだ間に合うと中川氏は言います。
サービスにおいても、現在日本で利用されているSNSの中心になりつつある「Facebook」は登場して7年で、その前はmixiが主流でした。こういったサービスの変遷はまだまだ続き、今後、別のサービスが台頭する可能性も十分にあります。では今後、何が必要なのでしょうか。中川氏は、「 小汚いラーメン屋でいい。うまいラーメンが作れればいい」ことだとたとえます。
インターフェースデザインの進化論
渋谷は109を境にお店がコロコロと変わりますが、有名ファーストフード店や老舗料理店などは変わらずに残っています。それは、商売の本質が「価値のあるもの、変わらないもの」を提供していくことだからです。その本質はWebにおいても変わりはなく、「 Webは、たかがツール、されどツール」 。その基本はコミュニケーションにあるといいます。クリエイターの仕事も「アイデアありき」という点では10年前から変わってなく、技術を追うことよりもクライアントの依頼を正確に捉えてしっかり提示するというコミュニケーション能力が大切であるとしました。加えて、この先10年で必要な要素として「インタフェース」を挙げました。
「インタフェース」と「コンテンツ」の違いを正しく理解する
インタフェースは、たとえば美術館のWebサイトでいえば展示物のページにリンクしているボタンの部分、コンテンツはインタフェースの操作により表示される展示物の写真にたとえることができます。コンテンツは何百年も変わりませんが、インタフェースは操作環境や接触環境などによって変わっていきます。インタフェースはコンテンツを表示するための「手段」です。そこで重要なことは「ストレスを与えない」「 考えさせない」ことです。たとえば、水を飲むときに人は意識せず蛇口をひねりますが、目的はあくまで水を飲むことです。蛇口がインタフェース、水を飲むことがコンテンツと言い換えることができます。
インタフェースをデザインする際に、「 マネは嫌」とよく言われます。しかし、それではいけません。ECサイトならAmazonと同じに作りにすべきです。利用者はAmazonのインターフェースに慣れていますから、操作で悩むことはありません。あくまで目的は買い物をしてもらうことなのです。またインタフェースが操作環境によって変わるということは、たとえば、PCサイトではページ左側にメニューボタンが並んでいますが、スマートフォンでは右側にメニューボタンが置き換わっている場合があります。これは、マウスの操作と指の操作のそれぞれに合わせて、より使いやすいインタフェースを採用しているわけです。
「次に必要なアクションは何か」を考えそのアイデアを「形にしていく」
今の子供は生まれたときからiPhoneやiPadが周囲にあります。子供の頃からタッチ操作でエンターテインメントやゲームのコンテンツを楽しんでいるため、タッチ操作に慣れています。または、究極のインタフェースは「Siri」と言われるように、今後はデバイスからボタンが消えていくでしょう。しかし、そこまでに5年はかかります。ベストなインタフェースはまだまだ追求できると中川氏は言います。続いて、マイクロソフトの「FutureVision」をデモムービーとして流しました。このムービーにはたくさんのヒントが隠されているので、このムービーを参考に「次に必要なアクションは何か」を考え、そのアイデアを「形にしていく」ことが今後10年のポイントになるとしました。
また、時代のキーワードを読むことも重要であるとして、「 SoLoMo」が2012、2013年のキーワードであるとしました。SoLoMoは「自分情報+位置情報+支払いアカウント+ソーシャル」の意味で、スマートデバイスによりすでに実現できることです。また「スマート」も2012年のキーワードになるであろうと予測します。デザインについては、「 ヒューマン・センタード・デザイン」が重要になるとし、たとえば未来のショップでは鏡がディスプレイになって画像合成により試着ができ、さらには隣にドレスアップした異性を映すようになるかも知れない。そこにはデジタルサイネージの要素も入ってくるとしました。
Always break a general idea ! 新技術や手法をもって社会貢献できるアイデアを作っていきましょう
最後に中川氏は、「 Web(モバイル)業界で次の10年を生き抜くための心得5か条」として、「 クラウドコンピューティングがもたらす可能性を熟考するべし!」「 時代のキーワードを拾え!」「 コンテンツは変わらない。変わるのはUIと接触環境だ!」「 コモディティではなくスペシャリティである事」「 Always break a general idea!」を挙げました。
これからのクリエイターに求められる条件とは?
セミナーの2本目のセッションは、バイドゥの矢野りん氏による「求められるクリエイターの条件」でした。矢野氏は、10年近くフリーランスのデザイナーとして活躍し、メーカのWebコンテンツなど豊富なデザイン経験があります。2011年12月からバイドゥに入社。自社プロダクトの「Simeji」や「BaiduIME」のUX/UIのデザインやプロモーション企画・デザインを担当しています。Android女子部を主催するなど、国内におけるAndroid普及にも努めています。
矢野氏はフリーランスのデザイナーとして10年近く活躍し、現在ではバイドゥでデザインやプロモーション企画などを担当しています
矢野氏は、これからのクリエイターに求められるものとして「アイデア」「 自分で作れるか」「 仲間がいるか」の3点を挙げ、それぞれの具体的な要素を以下のように挙げました。
「アイデア」
問題に対する解決案が出せる
表現の方向性を提案できる
非常識なことでも平気で提案できる
「自分で作れるか」
デザイナーならフロントエンドの実装、開発者ならレイアウトのように専門外の領域に及ぶ技術があるか
見えるもの、動くものが作れるか
技術上の問題点、実現の可能性を判断できるか
「仲間がいるか」
専門外の部分を担当してくれる仲間がいるか
共通の専門分野で異なる視点から意見をくれる仲間がいるか
生活を共にする相手、あるいは家族の存在を意識しているか」
これからのクリエイターに求められるものとして「アイデア」「 自分で作れるか」「 仲間がいるか」の3点を挙げました
「アイデア」に必要な要素
「問題に対する解決案が出せる」では、問題が発生した際に課題を明らかにできるか、また解決策を具体化できるかがポイントとしました。「 表現の方向性を提案できる」では、アイデアを形や色まで表現できるか、またそのアイデアを絵で描けるか、その場で描けるかがポイント。「 非常識なことでも平気で提案できる」では、文句を言われそうで言いづらいことでも、たとえ相手に何かを言われても、言えるかどうかということ。これには度胸が必要ですが、思いついたことはすべて言える人は少ないので、ぜひズバズバと言えるようになって欲しいとしました。
「自分で作れるか」に必要な要素
「自分で作れるか」では、たとえ専門外のことであっても自分の中で完成形をイメージできることが重要。また「見えるもの、動くものが作れるか」では、プロトタイプを自分で、しかも早く作れるかということが重要。「 技術上の問題点、実現の可能性を判断できるか」は、よくないことが起こる可能性を想定できることで、「 やってみなくてもわかる」ことは非常に重要だといいます。
「仲間がいるか」に必要な要素
「仲間がいるか」では、別の部署にも仲間が必要であること、コワーキングスペースなどで同じ専門分野でも異なる視点でみれる人がいれば便利であることを強調しました。また、特にフリーランスや個人事業主では、家族など一緒に生活している仲間がいることは非常に重要です。それは、ひとりで仕事をしていると体への負荷が大きくなってきます。そこで、お互いを気遣える仲間を作って生活することで体調などを維持することができます。長く働いていくためにも健康は重要であるとしました。
ここで矢野氏は質疑応答の時間に切り替え、会場から質問を受け付けました。
「クリエイターに求められる能力は何か」という質問に、「 クリエイターをもとめて方向付けていく能力は求められていると思う」と答えました。マネージメントなど人を束ねる能力は必要で、作る人間ばかりではめちゃくちゃになってしまい、用件やスケジュールにも影響が出るとしました。また「アイデアを出せる」ことも大事な能力で、たとえば、いいアプリを作ろうとするとき、既存のアプリの悪い部分を探して解決しようとしますが、これは違います。物事の悪いところは見つけやすく、無限に出てくるもの。逆に、いいところを見つけるのは難しいので、いいところを見つけてそれを超える設定をすべきとしました。
「フリーと会社員のいいところ、悪いところは?」という質問には、「 フリーランスは時間を自分で区切って使える、コントロールできるというメリットがあります。一方で、プロジェクトの一部分しか見えない。効果も見えないというデメリットもあります。会社員の場合は、まずは目標設定があり、それを達成するためにどうするかを話し合うことになります。そのため、いろんな仕事がわかるようになるというメリットがあります。その代わり、自分の生活は縛られることはデメリットかも知れません」と答えました。
「企業から見たフリーランスに必要な資質は?」という質問では、「 先ほどもありましたが、クリエイター側からアイデアを出せること、提案してもらえることは重要です。また、相手に言われたものに沿うものを作ることも大事です。なぜ外注してるのか。それは、自分たちでは作れないからです。企業は常にアイデアめいたものが欲しいのが現実です」と答えました。