クラウドコンピューティング時代のホスティングサービスを解説する連載の第2回目は、クラウドのIaaSと比較した専用サーバのメリット・デメリットを紹介します。最近は専用サーバに運用機能を付加したマネージドサーバの人気も上昇しているので、あわせて解説します。
専用サーバとそのメリット
専用サーバとは、1台の物理サーバをユーザが独占的に使えるサービスです。サーバにインストールしたOS、ソフトウェアがすべて自由に使えるので、ユーザの利用形態にあわせて柔軟な運用ができます。複数のユーザで1台の物理サーバを利用する共用サーバのように、同居している別のサイトの影響を受けてパフォーマンスが低下したり、障害に巻き込まれてサービスが停止したりする心配がありません。たとえば、共用サーバでWebサービスを運用していると、他のユーザのアクセス次第で自社サイトのパフォーマンスが低下する恐れがありますが、専用サーバならこのようなトラブルとも無縁です。
専用サーバのメリットの1つは、自由度の高さです。ユーザには管理者権限(root権限)が与えられるため、OSの設定やサーバソフトの設定、独自CGIやデータベースソフト、アプリケーションソフトなどもユーザ側で無制限にインストールできます。また、サーバのリソースが丸ごと利用できることから、高性能の専用サーバほど高いパフォーマンスが得られたり、より多くのアプリケーションがインストールできたりします。
また、サーバをすべて自社で管理できるため、サーバの負荷状態を自社でモニタリングできる点もメリットです。運用過程でユーザ数やアクセス数の増加などによって負荷が高くなっていると思ったら、サーバ台数を追加したり、ハードディスクを増設したりして、サーバスペックを強化することができます。
メールマガジンの配信や口コミなどでサイトに急なアクセスが想定される場合、サーバの負荷を分散させる必要があります。専用サーバなら複数台構成にしてサーバ間の同期を取ることで集中するアクセスを分散させることも可能です。
セキュリティに関しても、不要なサービスを停止したり、新たなセキュリティ対策を施したりできるので、自社のセキュリティポリシに準拠した環境を構築することが可能です。
マネージドサーバとそのメリット
マネージドサーバとは、サーバの運用管理と障害対応を含めた対応を事業者が丸ごと提供する専用サーバのことです。専用サーバは、サーバの設定やソフトウェアのインストールなどが自由にできる反面、運用はユーザ自身で行う必要があります。とくに重要なのがセキュリティ対策と障害対応です。セキュリティパッチの適用、不正アクセス対策、障害対応など、手間のかかる作業が発生します。自社内にサーバの管理・運用ができる技術者がいなければ、新たに雇用したり、既存社員を育成したりすることも考えなければなりません。しかし、少ない人数で管理している中小企業の場合、そのためだけに社員を雇用するのは決して現実的ではありません。
その点、マネージドサーバならセキュリティパッチの適用や不正アクセス対策などをホスティング事業者に任せることができます。24時間365日の監視体制で運用し、障害発生時の一次対応、サーバの再起動、OSの再インストール等もすべて代行してもらえます。ハードディスクが故障してメインのディスクが稼働しなくなった場合でも、バックアップディスクから復旧することで、業務を止めずに再開させることもできます。
これらの作業はサーバを熟知したプロの技術者が担当するので、トラブルに対しても迅速な対処が可能です。マネージドサーバには専用サーバのオプションという形で、必要なサービスだけを選べるものと、コンサルティングから、設計、運用、構築、保守まですべてのサービスを提供するものまであり、用途にあわせて選ぶことができます。
IaaSと専用サーバとの違いとは?
IaaSは、仮想化技術を利用してサーバやストレージなどのインフラ環境をインターネット経由で提供するクラウドサービスです。IaaSと専用サーバの最大の違いは、CPUやメモリ容量などのリソースが柔軟に変更できるかできないかです。IaaSは、サーバへのアクセスが急増してサーバに大きな負荷がかかった場合、他のサーバからCPUやメモリを調達することで短時間に増強できます。一時的にスペックアップしておけば、利用者が少なくなってから元に戻すことも可能です。
一方の専用サーバは、サーバを丸ごと追加したり、メモリやハードディスクを増設したり、新たに別のプランに乗り換えたりしなければなりません。そのために追加コストが大きくかかります。さらに、アクセス量にあわせて柔軟に増減できないので、一時的にリソースを強化するといったことも不得手です。
コストについても、導入費用ほとんどかからないIaaSと比べて高い初期費用がかかります。導入後のコストもIaaSは使った分だけ払う従量制が中心であるのに対し、専用サーバは月額費用制で、マネージドサーバはさらに運用コストが上乗せされています。
一方でセキュリティや運用面では、専用サーバに大きく分があります。IaaSは内部のリソース環境が見えにくく、万一サーバがダウンした時に復旧時間がかかる可能性もあります。運用サーバが海外に置かれているサービスの場合、サポート体制にも不安が残ります。
その点専用サーバやマネージドサーバは、国内の耐震強度が高く、セキュリティ体制も万全なデータセンタに配置されているので安心です。マネージドサーバならセキュリティ対策も十分で、障害時の復旧作業も速やかに実行することができます。
専用サーバに適しているサイト、サービス/適していないサイト、サービス
適しているサイト、サービス
専用サーバの持つ高い自由度、マネージドサーバの持つ安全性・安定性などを考慮すると、高い機能と可用性、安全性が要求される企業のファイルサーバやFTPサーバ、高度なセキュリティ環境が求められる大型ECサイトやキャンペーンサイト、大容量の動画コンテンツを配信するメディア系サイトなどが適しています。とくにWebサービスを主力としている企業は、サーバダウンは命取りになるので、自由度の高い専用サーバでポリシを固めて運用するか、運用管理体制が万全のマネージドサーバを利用するのがお勧めです。
また、root権限を使ってデータベースサーバを構築したり、開発用のテストサイトとしてさまざまなアプリケーションをインストールして検証するといった高度な使い方にも適しています。ネットワークの負荷が心配なら、ホスティング事業者が提供している帯域保証型の回線プランなどを選ぶことで、パフォーマンスの低下を抑えることができます。
専用サーバの中には、サーバリソースを又貸しする「再販」を許可している事業者やサービスもあります。自社用に導入し専用サーバがオーバースペックでハードディスク容量、メモリ、CPUパワーが余っているなら再販して収益を上げ、サーバの管理費に回してみるのもよいでしょう。または再販ビジネス専用に専用サーバを調達することも可能です。
適していないサイト、サービス
コストの観点から、テキスト中心のWebサイト(企業サイト、PRサイトなど)、小規模なサービスサイト、少人数で利用するメールサーバなどの用途には向きません。高度なサービスレベルを求めないなら、共用サーバやVPSサーバを利用するとよいでしょう。
また、VPSと同様に特定の曜日や時間帯だけアクセスが集中するサービスサイトなど、システムの拡張や縮小を自由に行いたい場合は、IaaSを利用するのが最適です。ホスティングサービスの中では最もハイレベルな専用サーバ。用途にあわせて賢く選んでください。