電力不足が大きな社会問題となる中、電力消費量の増える夏場は、つねに冷却が必要なサーバにも厳しい季節になります。ホスティングサービス事業者は以前から省エネに取り組んでおり、今回も節電の有効な解決策として大きな期待を集めています。
最低限必要な需要抑制率は、東京電力でマイナス10.3%
原子力発電所の被災により電力不足が指摘される中、電力消費量の増える夏場を迎えるにあたり、節電に不安を抱えている会社も多いのではないでしょうか。ITは電力で成り立っている部分も大きいため、IT化が進んでいるほど不安も大きくなると思われます。
経済産業省は5月13日、原子力発電所の稼働停止の影響による供給電力の低下から、今夏の供給力の見通しは東京電力で5,380万kW(7月末)、東北電力で1,370万kW(8月末)と見ており、最低限必要な需要抑制率は東京電力でマイナス10.3%、東北電力でマイナス7.4%と発表しました。さらに、東京電力エリアは2011年7月1日から9月22日までの平日の9時から20時において需要抑制率をマイナス15%を目標とするとしています。計画停電は「不実施が原則」ですが、昨年並みの猛暑になると東京電力エリアで約620万kWの電力が不足すると言います。
会社の電力消費は照明、空調、コンセントが占める
経済産業省では電力の需要抑制のため、契約電力500kW未満の事業者に対して「具体的な抑制目標と、それぞれの事業形態に適合する形での具体的取り組みに関する自主的な計画を策定・公表するとともに、実施を図る」としています。政府も消費電力抑制のためのツール「節電行動計画の標準フォーマット」を用意しており、そこには具体的な節電のメニュー例(照明、空調、OA機器、他各種設備の節電や使用ピークのシフト等)が提示されています。
実際に会社が消費する電力の内訳はどうなっているのでしょうか。一般的なオフィスビルにおいてテナント企業が消費しているエネルギーの割合は約60%であり、その内訳は空調が28%、照明が40%、コンセントが32%といわれています。特に、サーバを社内に設置している会社は頭を悩ませているのではないでしょうか。サーバは膨大な熱を発生する反面、つねに冷やしておく必要があります。サーバが発生する熱は電源の出力に比例するので、機器が多いほど熱量も増え、冷却のために電力を消費してしまいます。
一般的に、サーバルームの室温は20度前後が最適とされています。停電対策にUPS(無停電電源装置)を設置している会社も多いと思いますが、UPSのバッテリ寿命は室内の気温が20度以下なら5年、しかし気温が30度になると2年半と半減してしまいます。また、気温が30度になるとサーバの内部は40度から50度になることもあり、この温度では処理速度が低下したり熱暴走を引き起こす可能性もあります。
単純にサーバルームを冷やすためには、そこにあるサーバ機器の電源出力の合計以上の出力を持つ冷却装置が必要になるため、サーバルームにおける消費電力は倍以上になってしまうわけです。これでは消費電力の抑制は遠くなってしまいます。かと言って、土日などの休日にサーバを停止するようにすれば電力消費量は大幅に抑制できますが、Webサービスを提供している場合などは、サーバの停止は販売機会をなくすことを意味します。
消費電力抑制の観点でホスティングサービスを利用する
震災の発生以降、ホスティングサービスが脚光を浴びています。サーバを丸ごとアウトソーシングすることは災害対策としても有効ですし、消費電力の大きなサーバと冷却システムも社内から切り離すことが可能になるためです。ホスティングサービス事業者も震災の影響を考慮し、業務支援として節電対策ソリューションを提供するケースが増えています。これには在宅勤務に対応するためのソフトウェアや業務アプリなどといったソリューションも含まれています。
また、ホスティングサービスの活用によって物理的なサーバを仮想化するケースも急増しています。仮想化することで消費電力そのものを削減できます。とくに、サーバの移設が比較的簡単なシステムや、事業継続上必要なシステムのみを移設するだけでも大きな節電効果が得られるとされています。多くのサービスで初期費用が不要であったり、最短1週間程度で仮想環境に移行できるためコスト的にも有効であると言えるでしょう。さらに仮想環境では、サーバやネットワークのリソースをオンデマンドで増減できることも大きな魅力と言えます。
では、ホスティングサービス事業者側の節電対策はどうなっているのでしょう。多くの会社がホスティングサービスに移行することで、全体的な電力消費量が増えるようでは意味がありません。
しかし、ホスティングサービスは、はるか以前から省電力対策に注力しているのです。そのためデータセンターそのものから作りが違います。まず、データセンターの立地は地盤が固く地震に強い場所が厳選されています。これは都心型も郊外型も同様です。建物そのものも耐震あるいは免震構造となっており、もちろん巨大地震に関連して発生する火災などの災害への対策も考慮されています。これは、インターネット回線など「データセンターのライフライン」においても同様で、利用者の事業継続性を最優先した施設となっているのです。なお、データセンターの施設内に利用者向けの作業スペースを設けているケースも多く、緊急時に利用者がデータセンター内で作業できるようになっています。
熱の冷却については、空調効率を高めるためにデータセンターの施設全体が空気の流れを考慮したものとなっており、エアコンからの冷風がすべてのラックに効率よく流れていくように設計されています。とくに、データセンターでは熱がたまってしまう「ホットスポット」ができやすいとされていますが、床下や天井にも空気を通すようにして全体の温度をなるべく均一にするよう注力しています。
ラックそのものも、サーバを設置する際にすき間が空くようになっていたり、冷気を導入するためのダクトが連結されていたりします。ラックの設置密度を上げられる「水冷式」ラックの導入や、各所にセンサを設置して温度を監視しながら最適な空調を実施する高効率の集中制御システムを導入しているケースも珍しくありません。
また、複数の電源を使用する「ハイブリッド」や「トライブリッド」の利用も研究や検証が進んでいます。これは、太陽電池や風力発電を併用してデータセンターの電源をまかなうというもので、フィールドトライアルの結果、年間でCO2排出量および電力コストが最大40%削減できることが確認されています。
同様に、ここ数年で注目されているのが「グリーン・エネルギー」です。これは水素電池や太陽エネルギー、風力発電などにより電力を調達するもので、CO2排出量と電力コストの削減を実現するものとされています。グリーン・エネルギーは「グリーン電力証書」を購入することで、安定した電力供給を維持しつつ、より環境に配慮したクリーンな電力を使用することができます。購入代金は再生可能エネルギーの発電事業者に支払われるシステムとなっています。これは将来的なスマートグリッドにもつながっていくと言われています。
その一方で、温度や湿度が安定した地下にデータセンターを設置するという試みも進行しています。これは「地底空間トラステッド・エコ・データセンター」と呼ばれるもので、地下100メートルの岩盤に消費電力が小さくコンパクトなサーバを設置します。地下では年間を通じて15度前後と温度が安定しており、また地下水を活用した水冷方式によって空調の消費電力を大幅に削減、電力効率を高められる上にCO2も削減できるとして注目されています。
ホスティングサービスでは、消費電力を抑えることが経費に直結するため、はるか以前からの命題となっており、研究され続けている分野でもあるのです。さらに、ここ1~2年のクラウドサービスの盛り上がりは、ホスティングサービスにおいて追い風になっていると言えます。サーバやストレージといったハードウェアをはじめ、ソフトウェアやネットワークインフラにいたるまで仮想化できるクラウドサービスは利用者側のメリットも大きいですが、ホスティングサービス事業者にとっても最適な投資費用対効果が得られます。このため、今後ますますサービスが充実していくと考えられます。
また震災以降、外資系を中心に日本の本拠地を関西方面に移転するケースも目立ちました。この傾向に対応し、関西中心あるいは全国展開するホスティングサービス事業者の内容充実にも期待できそうです。災害対策や管理、運用の手間、コスト削減で注目されるホスティングサービスですが、消費電力抑制や停電対策の面においても有効なソリューションとなるのです。