仮想化、クラウドサービスが一般化してきたことで、多くの企業はこれらの対応に大きな決断を迫られています。そうした中で、サービスの多様化が進むホスティングサービスはどのように変わっていくのでしょうか。今回は、クラウドサービスへの移行で見えてきた現状と課題に迫ります。
「クラウドへの移行」が明確に
クラウドサービスの充実にともない、企業による導入が本格化しつつあります。最近の市場調査においても、クラウド導入に興味を示す割合が高い比率を占めており、実際に導入している企業も増えてきました。その中でもとくに顕著だったのが、従来ホスティングサービスでWebやメールシステムをアウトソースしていた企業のクラウド環境への移行です。
この背景には、サーバやシステムをアウトソースすることで、初期導入にかかる選定の手間やイニシャルコストが削減できる点、さらに異なるベンダや機種、OSなどによる管理・運用の負荷を軽減できる点があります。また、クラウドサービスへの移行は、柔軟性や拡張性を飛躍的に向上させることができるため、他のシステムとの連携といった今までできなかったことが可能になる点も大きなポイントといえます。
今春の大震災を受けて多くの企業がBCP(事業継続性)対策に本腰を入れていますが、関東のデータセンタに構築しているシステムを、大阪のデータセンタにも構築して冗長化を図るというDR(ディザスタリカバリ)にもクラウドサービスは積極的に活用されています。サービスレベルを落とせない企業にとって、BCP対策ができるクラウドサービスは、まさに最適なソリューションといえるでしょう。
ミッションクリティカルな領域での利用も
最近では、Webサービスや社内のメールシステムなどに限定されていたクラウドサービスを、基幹系などミッションクリティカルなところでも利用したいというニーズが高まっています。米国では、すでに多くの企業でミッションクリティカルな領域でクラウド利用が一般化しつつあります。その中でもグローバル企業の導入率が高く、関連企業や委託先企業も対応が求められることから波及効果は非常に大きいといえます。日本国内においてもグローバル企業を皮切りに、大規模企業、中堅規模企業へとその波は広がっていきそうな勢いです。
この要因は、グローバル企業のシステムそのものが複雑化し、管理・運用がより難しくなっていることが挙げられます。新興勢力の台頭、ユーザニーズの多様化など企業を取り巻く環境が激変する中で、リードタイムの短縮、タイムリーなサービスの提供など、さまざまな要求を満たすためには柔軟なシステムが必要不可欠となっています。しかし、高度化する要求性能に応えるためには、ハードウェア、ソフトウェアの両面からアップデートしていく必要があり、そのつど検証も必要になります。また、拠点単位、部署単位で独自のシステムを構築するケースも少なくなく、企業の中央システムや拠点、他部署のシステムとの連携が難しくなっています。こうした課題を解決するシステムとして、クラウドサービスが注目されています。
さらに、システム担当者の負荷を減らすため、自社で仮想化やプライベートクラウドを導入する場合も、仮想化やクラウドといったミドルウェアに近い技術には独特のものがあり、対応できる技術者が少ないという現実があります。こういった側面からも、企業のクラウドサービス利用は加速していくとみられ、しばらくはプライベートクラウドとパブリッククラウドを使いわける「ハイブリッドクラウド」が増加していくと思われます。
2年後、3年後には完全にクラウドサービスに移行する?
クラウド移行のニーズを受けて、ホスティングサービス事業者側もクラウドサービスの提供を加速しており、メニュー構成もより企業のニーズに合った内容のものが用意されるようになってきました。また、最新のハードウェアやソフトウェアの導入も進み、サーバ機器の高性能化、集積率が向上しています。
ここ数年のハードウェアやソフトウェアの進歩は目覚ましいものがあり、高性能化によるサーバの集約と仮想化技術によって、物理的なスペースを従来の数十分の一程度にすることも可能です。スペース効率を最適化することで、さらにサービス品質の向上が可能になります。
しかし、多くのメリットを享受できる一方で、デメリットも発生しています。たとえば、従来のホスティングはサーバラック単位の「一棟貸し」が基本でした。ハードウェアの容積が数十分の一になることでラックに大きなスペースが生まれたとしても、そこに別のサーバを設置して他のユーザに提供することは、IPのセグメントの問題などから難しいといえます。また、仮想化によるハードウェアの統合、縮小を実現することも手間とコストがかかります。
もちろん、この問題はユーザが利用するクラウドサービスに直接影響を与えるものではありません。今後、想定されるクラウドサービス利用の増加に対して、ホスティング事業者側もそれを見越した効率的なシステム増強が必要になり、そこで「新しい技術を実施するリスクと手間」と「現状の技術を実施するリスクと手間」との選択が迫られることになります。
仮想化とクラウドサービスに移行しつつある現在、ホスティング事業者側も大きな岐路を迎えているといえそうです。
求められるのは「専用サーバ」
もうひとつ、仮想化が進むことで、物理サーバのホスティングはどうなっていくのでしょうか。
物理サーバは長年のノウハウの蓄積と、物理サーバ環境を支える技術が「枯れた」技術であることから、成熟し安定した環境であるといえます。また、プロビジョニングを含む運用ノウハウを有していること、スケールメリットを見込めることも特徴となっています。その信頼性の高さから、金融系や勘定系といったミッションクリティカルな領域をはじめ、多くの企業で今も活用されています。
しかし、企業は必ずしも物理サーバを求めているわけではありません。重きを置いているのは、自由度が高く、高いパフォーマンスを維持しながらセキュアかつ堅牢なサービスを提供できる「専用サーバ」です。重要なデータのやりとりが円滑に行え、多くのユーザがアクセスしてもストレスを感じない、提供するサービスを安全かつ安心して利用できることが求められているのです。
現在、仮想化やホスティングサービスが急速に普及していることから、ミッションクリティカルな領域でもクラウドサービスの活用が進むと考えられます。また、導入が増えていくことでノウハウも蓄積され、信頼性も高まっていくでしょう。そうなれば、2年後、3年後には仮想サーバによる専用サーバが一般的になっている可能性は非常に高いといえます。
ホスティングサービス事業者も、仮想化やクラウドサービスに限らず、最新の技術や業界の動向をつねに把握しています。そして、ユーザに最適なサービスを提供するために必要な環境について検証し、早期なサービス提供を実現しようとしています。
クラウドサービスへの移行という大きな転換期を迎えた現在、導入を検討している企業は、まずホスティングサービス事業者に相談してみてはいかがでしょうか。そのアクションが有効な解決策を得る糸口になることでしょう。
また、クラウドコンピューティングそのものの技術も目覚ましい速度で進化しており、数年後のクラウドサービスを予測することが難しいといった課題もあります。このため、企業の中には長期の事業計画に組み入れることに頭を悩ませているケースも少なくないともいわれています。しかし、今後はクラウドサービスにもSLA(サービスレベル)が求められる時代になっていきます。
また、パブリックやプライベートなど複数のクラウドサービスを利用するケースが一般的になることで、クラウドとクラウドを結びつける「インタークラウド技術」の確立が進んでいくと思われます。そこにもSLAが求められていきます。
このように数年後には、クラウドサービスがミッションクリティカルな領域での利用に耐えうる信頼性を獲得することは想像に難くありません。そのときには可用性の高さやコストの最適化、運用・管理の容易性、省電力化といったメリットを最大化できるでしょう。