Webの進化に伴い、複雑化、多様化する時代のニーズに合致する、HTMLの最新バージョン「HTML5.0(以降、HTML5)」のリリースがいよいよ近づいてきました。すでにGoogleやAppleをはじめ、各社では対応を進めています。ここでは、2回にわたってHTML5の本質に迫りながら、Web関係者が押さえておくべきポイントについて紹介します。
マークアップの今昔HTML5が登場することで、10年にわたって止まっていた歴史が再び動き出します。そこで、HTMLのこれまでの動きを振り返りながら、登場の経緯や意義を見ていくことにしましょう。
HTMLは、ホームページを記述するために開発された最もポピュラーなマークアップ言語です。もともと文書の構造やデザインを記述する言語として登場したメタ言語「SGML(Standard Generalized Markup Language)」の一部を使用し、Webサイト用に作成されました。
1993年に誕生したHTMLはインターネットの追い風にも乗って、機能拡張を繰り返しながら進化を遂げました。1997年にはInternet Explorerで実装されたタグを取り込んだHTML4.0が標準化団体「W3C」に勧告され、1999年にはHTML4.1が登場しました。このHTML4.0の登場を機に、スタイルシートを活用したデザインの更新性やHTMLの簡潔な記述が可能になりました。
しかし、それをはるかにしのぐスピードでWebは進化を遂げ、HTMLの能力以上のことを要求する動きが出てきました。そこで、拡張可能なマークアップ言語「XML(Extensible MarkupLanguage)」を使用し、HTMLを再現した「XHTML」が2000年に登場しました。XHTMLは、HTMLの拡張版としてだけではなく、データベース化に適しているのも大きな特徴です。これにより、多様化、高度化するWebのニーズに応えることが可能になりました。また、XHTML以外にも周辺技術が進化し、ホームページの体裁やスタイルを定義する「CSS」の登場によって、多彩な表現力を手に入れることが可能になりました。こうしてXHTMLへと主導権が変わり、Webを取り巻く環境や、HTMLの周辺技術は今も発展を続けています。
この流れを再び本流のHTMLに戻す動きが出てきました。それが11年もの年月を経てバージョンアップする「HTML5」です。
HTML5とは?
それでは、時代のニーズに応えるために、バージョンアップを図ったHTML5とはどのようなものなのでしょうか。
HTML4.1から大きく変わった点は、サイトの標準化、マルチメディア対応、Webアプリケーション開発向けの機能などです。
サイトの標準化
たとえば、TABLEタグやDIVタグなどでレイアウトしていた不自由さを解決するため、HTML5では<header>、<footer>、<nav>など、レイアウト専用のタグが新設されました。これらのタグを配置することで、よりシンプルに、効率よくサイトを標準化することが可能です。また、HTML5では文章を構造化するためのタグも新たに用意されています。こうした新たな機能を活用することで、検索エンジンの認識率も高まり、SEOにも大きく貢献します。
その一方で、体裁を整える<center>や<font>、<u>などのタグや、フレーム処理に利用されるタグ、互換性や混同を避けるために、<img>と<a>で使用される<name>などの属性がHTML5では姿を消しています。
マルチメディア対応
また、最近のサイトでは音声や画像を利用した動的なマルチメディアコンテンツが増えていますが、HTML5ではマルチメディア関連のタグを追加することで、標準的な機能としてコンテンツを公開することができます。
Webアプリケーション開発機能の強化
さらに、HTML5は、高度化するWebアプリケーションの開発を容易にする要素や、多くのAPIが用意されました。たとえば、3次元グラフィックや動画再生など、従来FlashやAjaxで実現してきたことも、HTML5とJavaScript APIで再現可能です。
このように、今までプラグインなどのHTML以外の技術を併用しないと実現できなかった機能が、標準のHTMLやJavaScriptでシンプルに実現できるようになります。
ほかにも、JavaScriptの実装で実現してきた入力フォームを、HTML5では属性値を加えるだけで使いやすい入力フォームが作成できます。これにより、ユーザはスムーズな入力が可能になることから、入力途中の離脱を抑止する効果も期待できます。
サイトの標準化やマルチメディア対応、Webアプリケーション開発機能の強化など、HTML5は時代が求める機能を取り入れ、進化したHTMLと言えます。
HTML5で動いているサイト
リリースが目前に迫ったHTML5ですが、実用に向けて環境も徐々に整備されています。
たとえば、GoogleはWebブラウザ「GoogleChrome」の新バージョンでHTML5について、ジオロケーションAPIやアプリケーションキャッシュ、Webソケット、ファイルのドラッグ&ドロップに対応することを発表しました。また、アップルも2010年6月にリリースした最新版「Safari5」では、多数のHTML5の新機能がサポートされました。ビデオのクローズドキャプションをはじめ、AJAX履歴やdraggable属性、フォーム検証など、マルチメディア機能を中心に実装する動きが活発化しています。
米国オンライン広告配信企業の調査によると、同社のサイトを利用する約46%のユーザがHTML5対応のWebブラウザを利用していると回答。Google ChromeやSafariに加え、FirefoxやOperaなどが利用されており、今後リリースが予定されているInternet Explorer 9が登場すれば、利用は60%以上になるという予測もあります。
また、HTML5対応を掲げるサイトもここ最近急激に増えてきました。アップルはHTML5ビデオプレーヤーで最新のニュース映像などが見られる「iPad Ready」というページを公開。CNNやニューヨークタイムズなどのメディア、ホワイトハウスなどの政府関連サイト、Vimeoなどの動画サイトをリスト化し、メディアサイトではiPad向けにHTML5のvideoタグを使ったプレイヤーで映像コンテンツを提供するなど積極的な取り組みを見せています。日本でも、iPadに対応した動きが始まっており、ニコニコ動画はHTML5で動画再生に対応する予定を発表しました。これにより、iPadでニコニコ動画の再生やコメント投稿が可能になるなど、iPhoneやiPadでHTML5対応プレイヤーを起動させて、動画を再生するといった動きが広まりつつあります。
GoogleもHTML5に関する文書やチュートリアルをまとめた「HTML5Rocks」を公開し、HTML5を使ったコンテンツ開発を推進しています。米国ではYouTubeがモバイル向けウェブサイトを刷新し、Googleのブラウザを介してHTML5互換を実現。高速なナビゲーションや高画質が可能になることから、動画ユーザの獲得に期待が高まっています。このように、HTML5で動くサイトは着実に増えている状況です。まだ一部の機能しか実装していないため、ブラウザに依存する部分もありますが、HTML5の登場は新たなビジネスチャンスとなるでしょう。
XHTMLとCSSによるコーディングが定着しつつある中で、HTML5への対応は、制作会社や運用会社にとって大きな転機となることは間違いありません。サイトの標準化やマルチメディア対応といったニーズに応えるサイト作りに最適なHTML5について、次回はHTML5でできること、できないこと、HTML5化するメリットなどを掘り下げていきます。