2010年は電子書籍のリーダが相次いで登場し、出版社や印刷会社などの関連サイトもオープンしました。さらに、2011年4月には電子書籍統一規格の利用が開始され、それにともなってタブレット端末の登場、ソフトウェア会社による電子書籍化への対応が強化されています。今回はそうした電子書籍に対するホスティングの現状に迫ってみました。
企業に広がる「電子書籍」
書籍をデータ化し、パソコンや専用端末、携帯端末などで読める「電子書籍」は、2010年、アップルの「iPad」発売を機に日本市場でも一気にブレイクしました。2011年にはGoogl eBooksを標準搭載したAndroid3.0搭載タブレット端末が、NTTドコモ「Optimus Pad」やMOTOROLA「XOOM Wi-Fi」などから発売され、ソニー、KDDI、朝日新聞社、凸版印刷によるジョイントベンチャー「ブックリスタ」、シャープとカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)による「TSUTAYA GARAPAGOS」、角川グループによる「BOOK ☆WALKER」など、出版社を中心としたサイトが数多く登場し、最近では電子書籍販売サイトも増加しています。
電子書籍は、一部の先進的なユーザによって広がりを見せ、書籍や雑誌を裁断機で切断し、スキャナを使ってデジタルデータに変換する「自炊」が注目されています。しかし、電子書籍の流れは着実に企業にも普及しつつあります。その背景には「PDFファイル」や「サイトの検索性」などの課題があげられます。たとえば、多くの企業では資料やカタログをPDFファイルでダウンロードしてもらう方法をとっていますが、PDFはダウンロード型のため、ページ数が多い資料の場合、読み込んでから表示するまでに時間がかかり、動作が重くなることも少なくありません。また、商品ラインナップの多い企業では、検索キーワードがわからないユーザが離脱することも大きな課題となっています。
電子書籍は、ストリーミング形式のため表示スピードが速く、調べたい部分が本のように読める、検索や文字の拡大ができるなどのメリットがあります。ほかにも、ページごとにログを解析し、顧客マーケティングに活用することや自社のロゴマークを入れるといった広告的な利用、TwitterやFacebookなどのソーシャルネットワークとの連携など、電子書籍はWebツールとして、かつ戦略ツールとして優れた機能を備えています。
ホスティングサービスが拡充
ホスティングにおいても、一部のサービス提供会社がオンライン上へPDFファイルのデータをアップロードするだけで自動的にiPad/iPhoneやPCなどそれぞれの端末で閲覧できる電子ブック形式への変換、公開支援サービスの提供を開始しています。電子書籍は、読むためのリーダに最適化している必要があり専用のツールが必要でしたが、こうした手軽なサービスが利用できるのは、ホスティングの選定にも大きなアドバンテージになると思われます。
また、電子書籍をはじめ、動画配信などに対応できるよう、仮想サーバの追加やメモリの増減などができる構成変更機能やサーバへのトラフィックの負荷を分散するロードバランサー機能など、すでに提供しているサービスの強化も進んでいます。電子書籍は多くの人に見てもらうことを想定しているため、認証やアクセス制限など、セキュリティを強化するサービスも整備されつつあります。
ストリーミング対応やモバイル対応に続く新たなサービスの1つとして、電子書籍への対応は今後注目です。
期待高まる3つのキーワード
電子書籍が普及するためには、まだ重要なポイントが残っています。
作成ツール、サービスとの連携
電子書籍は、紙面イメージをスキャンしPDF化したものや、Webで提供しているコンテンツをベースに電子書籍を作成するものまで多種多様です。静的なものであればPDFでかまいませんが、文字情報を検索する場合は、ページイメージのPDFと見出しなどを表すHTMLのタグをつけたテキストによってコンテンツを作成する必要があります。よりリッチなコンテンツにする場合は、専用のオーサリングツールを使用して、アプリ化を図らなければなりません。
前述したように、ホスティングサービスのメニューとして機能強化を進める一方、電子書籍の作成から公開、活用の提案までワンストップで提供する電子書籍作成サービスではレンタルサーバを含むケースも増えています。今後は、サービス提供企業との連携を図るホスティングサービスの動向も気になるところです。
電子書籍の規格化
電子書籍のファイル形式には、PDFのほか、米国の標準化団体IDPFが策定した電子書籍の標準フォーマット「EPUB」、Amazon Kindle用の独自フォーマット「AZW」、シャープが提唱している電子書籍のフォーマット「XMDF」、ボイジャーが2000年に発表した電子書籍のフォーマット「.Book」などがあります。
日本国内でもファイル形式が統一されていないため、総務省、文部科学省、経済産業省が、電子書籍の規格統一に向け、中間(交換)フォーマット統一規格に対する提案「日本語対応の実績に基づく統一規格の創出」として、日本語(縦書き)で実績のあるボイジャーの.BookやXMDFなどから抽出した「日本語ミニマムセット」とミニマムセット以外を拡張セットとして融合したXML記述フォーマットを策定するとしています。また、統一規格は「IEC62448のメンテナンス(改訂)」として国際基準化を進めています。
そうした中、最も注目されている「EPUB3.0」では、縦組やルビなど日本語組版への対応が盛り込まれています。
WebのCSS3でもEPUBと並行して縦組の協議が進むなど、Web、電子書籍の双方で日本語が利用できる環境が整いつつあります。現在、段組みや複雑なレイアウトのページはタブレット側の自動調整機能が効かないため、調整が必要になる場合もありますが、こうした日本語対応やレイアウトへの対応などにも期待したいところです。
SNSを含むクロスメディア
電子書籍は、印刷物やWebサイトのコンテンツなど、すでにあるものをベースにしているケースが少なくありません。今後作成する制作物に関しても、アドビが発表した電子コンテンツ作成ツール「Digital Publishing Platform」をつかえば、レイアウトツール「InDesign CS5」で作成したデータをiPad用に容易に変換することができます。Quarkも新バージョン「QuarkXPress 9」では、誌面レイアウトから電子書籍への書き出しまでをQuarkXPress上で行うことができる点を特長にうたっています。印刷物と電子書籍の連携、Webとの連携が進み、クロスメディア戦略も多様化するのは必至です。
さらに、Webでも注目を集めているTwitterやFacebookなどソーシャルメディアとの連携も、効果的なマーケティング手法やコミュニケーションの円滑化、スピード化を進展させるのは間違いありません。電子書籍では、ハイライトした部分で、簡単なキー操作によりコメントできる機能があるため、電子マニュアルのヘルプサービスとしての活用も期待できます。
すでに、Web業界では、SNSとの連携は大きなテーマとなっていますが、ホスティングサービスにおいてもさまざまなメディアを融合できる構成、プランなどが求められるのは間違いありません。
電子書籍は、提供するコンテンツによって、著作権保護も重要になります。サービスごとに付与された「DRM(著作権管理情報)」は、閲覧環境を制限し、管理を複雑化してしまいます。電子化したデータの他人への譲渡や貸与、電子書籍化代行サービスをめぐる違法性、グレーゾーンの解釈など、市場が大きくなるためのルール化は欠かすことはできないでしょう。くわえて、電子書籍の課金やiPhone/iPad向け電子書籍への参入の敷居の高さ(表現や本棚アプリなど)など、本格化するにはまだ周辺の整備も必要です。
これまで何度か盛り上がりを見せた電子書籍。そのバックボーンを支えるホスティングサービスの今後の対応に注目です。