とても急遽、告知された感のある第8回ですが、みなさんはびっくりされませんでしたか?自分、びっくりでした。
なんでも、今回、急な変更で開催も危ぶまれたとか。タナカさん曰く「助けてください!」って戸練直木さん(第5回インタラ塾に登場)にお願いしたら、いいよと。戸練さん、さすがにかっこいいです。
今回は、そんな戸練さんとよくチームを組んで広告を作っているという渡辺潤平さん。クリエイターと営業ってほんとのこと、どうなの?
広告クリエーターvs広告営業(渡辺潤平・戸練直木編)
渡辺潤平さんはコピーライターで「スカパーがやらなきゃ誰がやる」のコピーを考えた人だ。博報堂退社後、ground LLCに参加。コピーライターなのでいろんな人と交わったほうがいいと、その半年後にフリーランス活動開始。
最近では、ユニコーン再結成の新聞広告や千葉ロッテマリーンズ、青いボスのCMなどなど多数。自己紹介で関わった広告案件を解説してくれたので、特にってところを簡単に紹介。
ユニコーン再結成の新聞広告
見た人も多いかと思います。これは、新聞の号外という形での露出。中の記事まで、通常、編集とかライターがやるようなことまで関わったという。ユニコーンのファンなので、今までで一番緊張したかもと。でも、昨年夏から再結成の話を知っていて、当然箝口令で、誰にもいえずつらかったそうです。
東京ミッドタウンのプロモーション
去年の夏からプロモーションを担当。紹介してくれたのはサマーセールのプロモ。ミッドタウンなのでセールといっても…と、「来るとおもしろいことがあるよ」というのを出したいと、それで「MIDORI」「KAZE」「KUCHIBUE」を並べたという。芝生の緑や空の青がきれいな写真とシンプルな文字の印象的な配置。これは先に絵が浮かんだそうです。ちなみに、潤平さんの場合グラフィックアイデアも言葉と一緒に考え、出していくスタイル。ラフのつもりがそのまま使われたものもあるとか。
安全運転したくなるスマートメッセージ
首都高の流れをスムーズにしようとメッセージを広く公募し、入賞作品など30パターンくらいを横断幕にして、首都高各所に設置(一周すると全部見れる)。どういうものが横断幕になっているかというと、「恋愛も、運転も、初心忘るるべからず」「素敵な運転をありがとう」とか、ちょっとドキッとするメッセージだ。これは、もっとゆっくり走ろうよ的なことをうまく伝えられないかというところから考えたという。直接的な、いわゆる「スピード出すな」的なメッセージでは共感が得られない。つまり、受け止めてもらえない。それでは、人に伝わらないものでは、意味がない。「誰にも何も語っていないというのは、つまりインタラクティブではないってこと」だと潤平さん。
さて、いっぽうの戸練直木さんは、箭内道彦氏との出会いから大手広告代理店の営業部長の職を辞し、「風とバラッド」の設立に参加。現在、風とバラッドのアカウントプランナー、風グループのkazepro代表を勤める。Nuda(キリンビバレッジ)、アットホーム、マネックスグループなどテレビ CM、新聞広告から雑誌(『「旬」がまるごと』)、アイドルユニット「バニラ・ビーンズ」のプロデュースまで。潤平さんとはチームを組んで何度も仕事をしているそう。
そんな戸練さんの最近の案件。
gree.jp
男声コーラス(名称は「早稲田大学グリークラブ」)が、「グリーは無料です~」と歌うアレです。このときは、戸練さんの采配でも3チーム作って、プレゼン。潤平さんもそのうち1チームにいたけど、プレゼンで負けたそうです。
特命係長
アートディレクター寄藤文平/コピーライター渡辺潤平のユニット(理由は、名前が似てるから?)で。ドラマ「特命係長」のスペシャルで、潤平さんと組んでプレゼンに通った最初の仕事。ただ、予算を使い過ぎて、残ったギャラを分配すると3,000円だったとか(最終的には、戸練さんが交渉してもっと出たそうです)。
マネックス証券
これも潤平さんとタッグを組んでる案件。たとえば、「FX予報」の全面広告。この手書き文字は潤平さん自ら。FX予報の「役に立つ」という性質を表すのに「役に立つ広告を作ろう」ということから。商品の利益になることは言えないそう(金融商品取引法の制限?)で、あくまで企業広告ということで通したそう。
マネックス証券ではもう1点。新聞広告ですが、通常の広告欄ではない場所(記事と記事の間)に「今日の株価より、10年後のあなたがどうであるか。」というメッセージが入っている。これは、証券市場に対してのマネックス証券のメッセージだと。これは記事の間に配置というのも含めてのディレクション。通常の広告枠ではないが、戸練さんがそこは交渉したという。
こういう話を聞くと、二人の役割がきちんと分かれていて、おのおのが自分のするべきことを果たしているというのがわかります。当たり前ですが、プロですね。
そんな潤平さんと戸練さんの出会いは、戸練さんからのいきなりの電話だったという。戸練さんは、潤平さんのことを「若くてイキのいいコピーライターがいるよ。扱いにくいけど」そんなふうに博報堂の人から紹介されて。潤平さんは、ちょうどフリーになって1人で仕事を始めて、ちょっと不安だなという時期。
広告業界は刹那的で、わりを連続して仕事をすることは少ないそうですが、潤平さんと戸練さん、よく組んで仕事をするようになって2年くらい。「こんなに続くのは不思議」(戸練さん)。
キーワードトーク
さて今回は、画面に表示されたものから任意に選んでいくキーワードでトーク。タナカさんが司会進行。
クライアント
戸練さんは、「広告はクライアントからお金をあずかっている仕事、その一番近くにいるのが営業」とズバリ。いつも、クライアントの意向を100%聞こうという姿勢だという。しかしクリエイティブ側にそういう営業の姿勢がどう見えているかが重要だと思う、と。ただ、いいなりじゃないという姿勢、そこに何か筋が必要なのだと思う。
そして潤平さんは、「いい仕事はクライアントとものすごくいい関係でやってたりする。いい関係性を築くのが大事だと思う」。
戸練さん曰く、クリエイティブの人間でも独立して活動しているとクライアントとの距離感が違ってくるのではないかと。大きな会社の中にいるとわからないかもしれない。でも、距離感が大事ということがわかってくる。クライアントとの距離が近ければ近いほどいい仕事になるはずだという。
なるほどですね~
これ、戸練さんがよくクライアントとの会話で使う言葉(正確には、「なぁるほどですね~」と、「な」と「る」の間に小さな「ぁ」が入る)だそうです。いまどき、こういう言葉使うのは戸練さんか不動産やくらいじゃないかと潤平さん。
戸練さんは反対に、チームの最年長であることがほとんどという立場。どう周りから遠慮をとるかが課題かなと。(潤平さんのように)ガツガツいってくれたほうがラクといいます。言わなければ言わないでもものごとは進んでいく。でも、言ってくれないと振り返って後悔することもあるという言葉が印象的。
遠慮
遠慮がないのと礼儀がなってないのは違う。としたうえで、遠慮について。チームに自分より年下がいないことが多い潤平さん。最初の頃は遠慮があった。でも、遠慮してもいいことがないと、遠慮はしないことにした。たとえばと。以前の仕事でADさんの指示でどんどんコピーが小さくなっていく。しまいにはなくなっちゃうんじゃないかと。「これって読めますかね…」と言った話を。
戸練さん的には、「理解しましたよということをなるべく優しく相手に伝えたい」と使っているという。そんな戸練さんは、クライアントとクリエイティブの緩衝剤になってくれてると潤平さんはいいます。二人のいい感じの関係性がわかる話です。
プライド
潤平さんは「エゴじゃなく、自分の仕事が世の中にとって意味があると思っている。意味があるというのは、コミュニケーションとして機能していることで。そういう意味でプライドを持っている」と。一方の戸練さんは、「プライドがないのもダメだが、高すぎるのも…」と。要は、どの加減でプライドを持つかが重要、その持ち方次第。
ちなみに、タナカさんは以前はプライドが高過ぎたけど、いまは逆にプライドなさ過ぎ、とのこと。
西麻布
広告業界というと、とても派手なきらびやかなセカイな感じですが。戸練さん、毎晩のようにいるとか。西麻布の交差点でガードレールに足をかけてメールを打っている戸練さんの姿は本当によく目撃されてるそうです。そんな戸練さんが見たいと思った女子は、西麻布に行ってみよう。
何もメールを打つのにガードレールに足をかけてなくても…。といいながら、そうして戸練さんは仕事がうまくいくような環境作りをしてくれてるんですと、潤平さん。
ここで時間が来てしまい、Q&Aに。メールおよび会場からの質問に。
- Q:「Buono!」のCDジャケットについて、それまでの広告の仕事との違いはあったか?
これは、ポニーキャニオンさんから話が来て、それで潤平さんに持っていったという。広告の仕事との違いについては、「まったく違わない。自分が作るものはコミュニケーションの道具なので。CDジャケットでも広告として考える」と潤平さん。戸練さんは、「お金を出す側との一体感が全然違う」と。
- Q:いい広告とは?
「ものが売れないといい広告とはいえない。とはいえ、消費者の心を打つとか、文化的なものも必要。ただ刹那的なものばかりだと気持ちがガサガサしてくるよね」と、戸練さん。結局、結論は、「わからない」でした。
潤平さんは「知られていること。」それが悪い印象であっても、知ってもらうことが重要。それと、クライアントの担当者が喜んでくれるかどうか、だという。作り手も広告主がいい仕事を共有できるか、それが大事なのではないか、と。
- Q:(さっきの話しを受けて)ADがコピーを小さくしていくのに対し自分の意見を言ったのとは逆に、説得されて納得したことはあるか?
「ゼロハリバートン」の広告ではコピーがない。これは、撮影した写真を並べてみたら、確かにこれはコピーがいらないねと納得したという。要は、ADがそういう写真を撮影した、その中からディレクションしデザインしたということ。それに納得してコピーなしでいきましょうと言ったそうです。それを決めるのもコピーライターの仕事だと。
最後に、お二人からひと言ずつ。
戸練さん。「広告業界はクリエイターと営業の中が悪い。しかし、うまいことコミュニケションをとっていくのが営業の仕事だと思う。」だからといって、へりくだるのではなく大事なのは距離感。そして、コンセンサスをどうとるかだという。「まっすぐで遠慮がない潤平は仕事がしやすい」
潤平さん「自分の知っていることはほんの一部。クライアント以上にクライアント(商品)のことを知っているはずもないし、営業以上にクライアント(商品)のことを知っているはずもない」。
そういう人に向かって、「わかってないなあ」と言えるのか? と。潤平さんは、謙虚さがものを作る前に大事だと考えている。ここで注意して欲しいのは、謙虚であることと自信がないことは違う。自信のなさというのは、ときに人を傷つける刃になるということ。
以前は、潤平さんも怒ること、ダメだしがカッコいいと思っていたそうだ。でも、それは間違いだった。戸練さんとの出会いで、憑きものが落ちてラクになったと。「ものを作るということは、自分の一部を取り上げて表に出すこと。それを否定されるのはこわいけど、もっとこわいのは、否定されないままそれが世の中に出ていってしまうことだ」。これは本当に、広告のみならず、何かを作っている、表現している人には考えてもらいたい言葉だと思う。
ともあれ、今回の「クリエイターと営業ってほんとのこと、どうなの?」だが、戸練さんと潤平さんの場合、お互いが信頼でき、遠慮のない姿勢で仕事をしているというのがとてもよくわかったインタラ塾でした。
第8回の「ファイブミニッツプレゼン」の模様は、「月刊インタラ塾」のサイトをご覧ください。