今回は、エンジニア視点からのモバゲーアプリの企画について紹介します。
「ポケットフレンズコンチ 」などモバイルとWebサービスの開発と運営に長いこと携わっていた経験を活かして、モバイルソーシャルアプリの企画から開発・運用を担当することになりました。
よく、モバイルの世界では人気のサービスが出ると似たようなサービスが次々と登場すると言われています。ソーシャルアプリの場合も同様で、非常に多くのゲームが存在していますがゲームシステムの種類(多様性)は少ないような気がします。
そのようなプラットフォームだからこそ、新しい技術や視点で、お!と思わせるようなゲームを作るとユーザーの皆様に喜んでいただけるだけでなく、開発も運用も楽しめるのではないでしょうか。
こうした状況や背景をふまえ、私が企画をするときには、他に類をみないもので、自分のスキルの中で実現することができるギリギリのものを作る、ということに主軸を置いて、まずは技術的なコンセプトを決め、それを実現するためのシステムを考案、そして最後にこの新しいシステムの面白さを引き出せるゲーム内容を決定するという手法で企画を立てました。
技術コンセプトを決める!リアルタイムでユーザー同士がバトル
実はモバイルのソーシャルアプリ作るということが決まった瞬間から、技術的なコンセプトは決まっていました。それはモバイルで実現するのは難しいと言われていた『“ リアルタイム” で複数のユーザー同士がバトルするゲーム』というコンセプトです。
いわゆる1方向の更新がリアルタイムに反映されるのではなく、双方向であることがポイントです。
ゲームセンターやPC上のネットゲームではよく見かける特徴ですが、モバイルとなるとあまり例がありません。私はエンジニアですので、珍しいものや新しいものを作るとなると燃えないわけがありません。
そこでこのコンセプトを先に決め、次にモバイルで実現するにはどのようにすれば良いかを洗い出し、最後に条件を満たしつつ窮屈にはならず逆に活かして面白くなるようなゲームを作るということに絞って企画を考えました。
コンセプト実現への近道!モバイルゆえの課題の整理
そもそも、なぜモバイルでは「リアルタイム対戦ゲーム」の事例があまりないのでしょうか?それは、モバイルの特性ゆえのいくつかの課題があるためです。
課題1:自動でバックエンド通信ができない
PC上のブラウザゲームの場合だと、Comet(サーバで発生したイベントをクライアントの許可なくクライアントに送信できる技術)やFlashのRTMP(Real Time Messaging Protocol)などの手法を用いて、リアルタイム対戦を実現することが一般的です。しかし、ほとんどのモバイル端末はユーザーのアクションなしにバックエンドの通信を行うことはできないため、これらの手法をとることはできません。
ではどうすれば良いかと考え、リロードのたびに新しい情報に更新することにより、リアルタイムに近い状態を作り出すことを目指しました。これには、ユーザーが自然とリロードを繰り返してしまうようなゲーム設計が必要となります。
課題2:モバイルゆえの課題。端末と通信環境に依存
モバイルは、場所や端末によって通信速度や性能に差が生じます。そこで、更新ペースを完全にユーザー主導にしてしまうと、地域や端末によって有利な状況と不利な状況が生まれてしまいます。そうなるとユーザーによって不公平感が出てきてしまい、ゲーム内のコミュニティが荒れてしまう可能性があります。その解決策として、どんな人でも同じような条件下に置くために、1分間にできる行動の回数を制限するという方法を検討しました。
課題3:プライベート性の高さがリアルタイム感と臨場感を低減
リアルタイムを実感するのはどのような時でしょうか? チャットなどをしていると、自分の発言に誰かからリアクションがすぐに返ってくるとリアルタイムであるとこがわかります。またテレビの生放送などでも、視聴者投票をリアルタイムに表示したりすることで緊張感が生まれます。
このように何かの行動をしたらすぐに反応が返ってくるということが重要だと考えました。自分の行動が自分の画面にすぐに反映されることも重要ですが、たとえ行動した自分にはわからなくても自分の行動によって他の誰かの画面にも反応があるようにすることも重要です。
ユーザーは他人の行動によって自分の画面に変化が起きることを知ることができるので、自分の行動が人の画面に影響を与えることが直感的にわかるので、ドキドキ感が増すわけです。
課題4:Flashゲームの結果がリアルタイムに反映されるという、モバイルゲームの常識
そして、最大の特徴がこれです。
最近のモバイルのゲームでは完全にHTMLだけのゲームというのはほとんど見ることがありません。どんなゲームでも、どこかにFlashによるミニゲームを取り入れています。そして通常の携帯ゲームだと、魚を釣ったり敵を倒したりしたFlashゲームの次の画面では必ず釣ったモノや倒した相手や点数が表示されます。しかし、複数のユーザーが対戦しているゲームでは、Flashゲームの結果をそのまま反映してしまうと、同時に行った他のユーザーの行動と矛盾が起きてしまいます。
そこで、ユーザー同士でリアルタイム対戦を実現させるためには、たとえFlashゲーム上で最高の結果が出ても、その後の結果が失敗になるような仕様である必要があります。
課題5:「みんなで閲覧」というシチュエーションが作り出せない
リアルタイムに関する特徴とは異なりますが、非常に重要な要件だったため紹介いたします。現在、人気のソーシャルゲームのほとんどは、何らかの形でユーザー同士が関係する仕掛けが用意されています。それはモバイルゆえにみんなで閲覧して楽しむというシチュエーションがないことを補完する仕掛けでもあります。
対戦ゲームの場合“ リアルタイム” にユーザー同士が戦うのでそれだけでもユーザー間の関わり合いはあるのですが、敵対するだけでなく助け合う要素をとりいれることで長く楽しんでもらえるのではないかと考えました。そこでせっかくのリアルタイム対戦なのでチームプレイをできるようなゲームであることが必須の要件だと考えました。
技術主導のコンテンツ企画
技術的な課題を解決するという挑戦ができ、かつ、企画としても面白い、かつ、モバゲーオープンプラットフォームという場にて、という3つの要件を満たしうるコンテンツを探しました。そこで思いついたのが、碁盤の目の形をしたフィールドを移動して旗(ゴール)を目指すボードゲームと単純なシューティングゲームを掛け合せた「サバイバルゲーム」でした。
「サバイバルゲーム(サバゲー) 」はエアガンと呼ばれるオモチャの銃を使って森の中などで撃ち合いをするゲームで、簡単に説明すると「戦争ごっこ」 と言えます。
サバイバルゲーム (Wikipediaより)
このゲームには、いつ撃たれるかわからない緊張感と仲間と協力しあえる高揚感があります。また、フィールド(森や倉庫など)の特徴を考えて戦略的に攻め落とす要素もあります。さらにエアガンと呼ばれる銃は非常に軽いプラスチック製の弾を飛ばすので、風などによって遠くの的などをうつとなかなか狙い通りには飛びません。
これらの条件がモバイルでリアルタイムゲームを実現するための要素とぴったりと一致したため、ゲームの題材として即決いたしました。
サバイバルゲームの世界観を利用してリアルタイムを難なく実現
自然とリロードしたくなる緊張感
「課題1 自動でバックエンド通信ができない」への解決策
サバゲーのプレイヤーは、いつ撃たれるか分からないという状況にあります。常時周りを確認し続ける必要があるため、リロードを繰り返さずにはいられません。自然に感情が赴き、リロードをしてくれます。
作戦勝負のフィールドゲームで待ち時間の体感を短縮
「課題2 モバイルゆえの課題。端末と通信環境に依存」への解決策
慣れてきてしまうと1分という時間は長く感じるかもしれませんが、作戦を考えたりしていると1分はあっという間に過ぎてしまいます。
図1 サバイバルゲームタウン
狙撃にはターゲットが必須!狙撃で臨場感をつくりだす
課題3「ライベート性の高さがリアルタイム感と臨場感を低減」への解決策
サバイバルゲームタウンでは、狙撃したユーザーがいたら狙撃されるユーザーもいます。誰かが狙撃したら、狙撃された相手の画面には狙撃される画面が表示されます。この他にも誰かが狙撃されてヒットしたら、リアルタイムにゲームに参加している全員の画面に反映されます。このように誰かのアクションに対応するアクションを見せることで遠く離れていても同じ場に居合わせているかのうような臨場感が生まれます。
どんな名狙撃手でも100発100中はあり得ない。
課題4 「Flashゲームの結果がリアルタイムに反映されるというモバイルゲームの常識」への解決策
エアガンはどんなに上手くサイト(照準をあわせる装置)を合わせて狙撃しても必ず命中するとは限りません。逆に必ずあたっては不自然です。なので、Flashゲームの結果と本当の結果が違っていてもまったく不自然ではありません。逆に、Flashゲームの結果を50%くらいに抑えて武器や自分のレベルの要素を結果に盛り込むことでゲーム性も増しました。
図2 あたるかどうかを含め、現実的な部分を意識
図3 勝ったときの嬉しさを表現
サバゲーの基本ゲームでチームプレイを実現
課題5 「みんなで閲覧」というシチュエーションが作り出せない」への解決策
フラッグアタックというゲームを用意いたしました。
これは仲間と協力して相手チームの旗を奪うサバゲーの基本中の基本のゲームです。フラッグを奪うには味方同士の協力が不可欠ですので自然とチームプレイをすることができるようになります。世界観の中で自然とチーム戦をおこなうことになるのです。
このように技術的な興味からゲームの企画を考えていったわけですが、条件に合う題材さえ見つかればあっという間に企画はできあがります。今回、リアルタイム対戦ゲームとサバイバルゲームが結びついてから企画の骨子が完成するまでにかかった時間はひと晩。もちろんこの後、ゲームの世界観を練っていくのに時間をかける必要もありますが、ゲームシステムとアピールポイント、そして題材がしっかりと固まっていたため、自分たちが楽しみながら作れるテーマさえ決めてしまえばあっという間に世界観も固まっていきました。
図4 男の世界観を表現。しかし、女性の参加も大歓迎です!
ちなみに今回は「男による男のための男のゲーム」というテーマを勝手に決めて世界観を決めてみました。もちろん女性も大歓迎です。
サバイバルゲームタウンの今後
さて、ここまで技術から企画への落とし込みについて解説してきましたが、本題の「サバイバルゲームタウン」ですが、皆さんはご存知でしょうか?おそらくモバゲータウンで普段から遊んでいらっしゃる方の中でも知らない方が多いのではないでしょうか?
というのも、「 サバイバルゲームタウン」は3月1日にモバゲーオープンプラットフォームにてリリースいたしましたが、3月4日以降、一部ユーザーにのみ限定公開しています。
限定公開の期間中のデータとユーザーの皆様からいただいたご意見を取り入れながら、ゲーム自体はかなり進化してパワーアップしました。そこで4月19日に、一般公開リリースを予定しています。
さらに、一人でも楽しめるような要素も取り入れるために新しいミニゲームも制作を初めていますので、今後の展開には十分に期待してください!