キーパーソンが見るWeb業界

第5回広がりが具現化してきた2008→2009のWeb(前編)

2009年最初の「キーパーソンが見るWeb業界⁠⁠。今回のゲストはイメージソースでさまざまな広告やプロモーションを手掛ける小泉望聖氏。

座談会は2008年の年末に実施し、2008年の振り返りから2009年の展望・動向予測についてお話しいただきました。

小泉望聖(KOIZUMI Moses)
株式会社イメージソース/ノングリッド取締役

10代のころより海外を渡り歩き、自由奔放に過ごしたのちイメージソースの創業に加わる。国内外の企業ブランディングやキャンペーンなどに携わる傍ら、エコイベントの企画やオリジナルコンテンツの開発など幅広い活動を行う。

長谷川敦士(HASEGAWA Atsushi, Ph.D)
株式会社コンセント 代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト

1973年山形県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修了。ネットイヤーグループ株式会社を経て、2002年に株式会社コンセントを設立。インフォメーションアーキテクトとして大規模サイトの設計やプロデュースに携わるかたわら、人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事を務めるなど、IA(情報アーキテクチャ)研究や啓蒙活動を牽引している。

森田 雄(MORITA Yuu)
株式会社ビジネス・アーキテクツ取締役、Quality Improvement Director

東芝EMI、マイクロソフトなどを経て、ビジネス・アーキテクツの設立に参画、2005年より取締役。XHTMLやCSSなどのフロントエンド技術、アクセシビリティ、ユーザビリティのスペシャリスト。 CG-ARTS協会委員。文部科学省ホームページリニューアルアドバイザー委員。広告電通賞審議会選考委員。著書(共著)『Webデザイン -コミュニケーションデザインの実践-』など。2009年は広報担当役員の職務に注力するも、もちろん現場の最前線にも立つとのこと

阿部淳也(Abe Junya)
1PAC. INC.代表取締役 クリエイティブディレクター

自動車メーカにて電装部品のユーザインターフェース設計を8年間手がけた後、IT事業部異動。約4年間Webデザイン、Flashオーサリングなどを手がけるとともに、営業支援システムや化学物質管理システムなどのテクニカルディレクターを経験。2004年よりCosmo Interactive Inc.に参加。多くのWebサイト立ち上げにプロデューサ、クリエイティブディレクターとして携わる。2008年にワンパクとして独立。

激動の2009年が始まった

2009年、多くの業界で変革期を迎えることが予想されます。その要因には、技術の進歩、市場の変化といったポジティブな面だけではなく、2008年に深刻化したアメリカ発の金融ショックに起因する諸問題というネガティブな面が大きく関係しています。そこで、今回はこういう世の中において、

という切り口で、座談会を進めていただきました。

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今回の座談会収録は、レギュラーメンバーの一人でもある阿部淳也氏が所属する、株式会社ワンパクの会議室で行われました。阿部さん、ワンパクの皆さん、ありがとうございました。

イメージソースという企業

――まずはじめに、今回のゲストである小泉氏から、⁠イメージソース」とはどのような企業なのか教えていただきます。

小泉氏:おそらくWeb制作・デザイン会社という括りで見ると、森田さんのビジネス・アーキテクツと同じく、かなり古株に属する企業だと思います。1998年に設立しています。扱う業務範囲はかなり広くて、デザインからシステム構築まで担当します。

案件についてもWebに留まらず、店舗設計など多様化しており、最近は、インスタレーションなど、専門のスタッフが増えてきました。

現在はグループ会社4社で50名、約1割が外国の方です。

森田氏:イメージソースさんはデザインだけでなく、システムにも強いイメージがありますね。

小泉氏:はい。たしかにシステム構築などほとんど内製で行っています。それから、FreeBSDコミュニティで活躍した花井浩之が在籍しているなど、OSからインフラ周辺まで扱える人間がいるのも強みの1つですね。

阿部氏:私が審査員で参加したAdobe AIRコンテスト2008で特別賞を受賞した「web plamo 飛行艇版 デスクトップジオラマアプリケーション」は、CGのパーツをサーバサイドでリアルタイムでレンダリングするなど、技術面でもすばらしかったですよね。

森田氏:小泉さんご自身の役割は?

小泉氏:元々キノトロープという会社に在籍していて、その後々、イメージソース立ち上げに参画しました。現在は、おもにディレクター/プロデューサーに近い部分を担当します。たまに裏側に回ることもありますね。

2008年の振り返り

――それでは、まず2008年について、どのような1年だったか、各人の印象をふまえてお話しいただきました。

小泉氏:私自身は、デザインの質が上がった1年だったと感じています。Webを見ると、全体的なクオリティは上がっています。ただ、一方で突き抜けたもの、たとえば話題性があるものやたくさんの人を巻き込むものがあまりなかった1年じゃないかと思いました。

それから、たくさんの情報が出てきて、追い切れなくなってきた年だったとも思っています。

森田氏:僕の会社でいうと、大規模のコーポレートサイト案件は少なくなってきた1年でしたね。というのも、多くの企業においてCMSの導入や整備が終わりつつあり、運用やメンテナンスのフェーズに入ってきたからでしょう。

CMSは、うちの場合、得意としているのはいわゆる大規模系のエンタープライズCMS、一方ではブログタイプのCMSなのですが、最近は、オープンソース系のCMSが提案の選択肢として入ってくるようになりました。

これは経済の情勢といった背景もあるからですが、オープン系のCMSですと、イニシャルコストを抑えられるというメリットがわかりやすいからです。

阿部氏:今のお話で言えば、おっしゃるとおりコーポレートサイトなどの新規構築案件が減っているように感じます。一方で、メンテナンスあるいは運用に対して、企業側が意識し始めてきている状況に移ってきているのでしょうね。結果として、保守・運用に対して対価が発生してきています。

長谷川氏:そうですね、コーポレートサイトの場合、これまでデザイン会社主導だったのが、企業主導になってきている傾向があります。コンセントで接する企業でも、 Web担当部門が強化され、リテラシーも高くなっています。もちろんそれは、我々にとってもより高いレベルの付加価値や、サービスを提供できる土壌となるなど、良い状況になっている言えますね。

阿部氏:単純なオペレーション部分の更新業務を外部発注するのか、あるいはコミュニケーション戦略や施策の企画から入り、構築を含めパートナーとして発注するのか、という2つの方向に明確に分ける企業が増えているように思います。

森田氏:そういった点で、せっかく(Web投資に対する)機運が高まってきたところに、サブプライム問題に端を発する金融危機が起きてしまいました。起きた以上は仕方ありませんが、正直、2009年からは厳しい状況になるでしょうね。それでも、2008年という括りでいえば、Web業界は全体的に良かったと思います。

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技術的に広がった2008年

――2008年単体で見ると、業界の質が上がるなど良い1年だったと言えるようです。このあたりについて、技術的な視点から掘り下げてお話しいただきました。

阿部氏:2009 年の話に行く前に、2008年をもう少し掘り下げてみましょう。私が感じたのは、技術的に大きく進化した1年だったと思っています。その理由の1つは Webサービス企業によるAPI公開ではないでしょうか。昨年開催された「Mashup Awards 4」では、37の企業・組織がAPI提供側として参加し、結果として259もの作品が集まりました。このように、Web上でやれることが増えた年でもありましたよね。

長谷川氏:デバイスも増えましたね。その1つがiPhone 3Gです。iPhone SDKが公開されるなど、デバイス側からの進化も進んでいます。

森田氏:ええ、iPhoneやスマートフォンのほかにも、 WiiやPS3、さらに2008年後半に出たNintendo DSiなど、ネットにつながるデバイスが本当に増えましたね。いろんな人が、気軽にいつでもネットを楽しめる環境が整ってきました。

小泉氏:サービス、デバイスの進化により、その上のコンテンツも変わりました。とくに2008年は「ニコニコ動画」が大ブレイクしたと感じています。

阿部氏:こうした状況によって、マーケティングとブランディングという観点でWeb業界が活性したのではないでしょうか。

森田氏:その一方で、私たち制作側が意識しておきたいのが、セキュリティと権利関係だと思います。ユーザとして見れば、遊べるツール、楽しめるサービスが増えることはとても良いと思いますが、生活に密着していくことにより、そのサービスやツールを提供する側が注意すべき点が増えていきます。私たちのように、⁠提供側として)是正できる立場の人間は、⁠セキュリティ」⁠権利関係」についてもっと意識していく必要があるでしょうね。

長谷川氏:利用者側の観点で言えば、Gmailなどのネットサービスもその1つと言えます。Googleの一連のサービスに限らず、最近は外部にデータを保存して利用できるWebサービスが増えてきているだけではなく、日常的に利用されています。その裏側にある、データやコンテンツを預けている意識を持っておかなければいけませんね。

森田氏:Webサービスの怖いところは、ついついサービスの質、サービスの善し悪しだけで判断しがちなところです。実際は、そのサービスを今利用して良いのかなど、利用規約や提供している企業自体の動向も見ておかなければいけません。


(後編(2009年2月2日公開)へ続く)

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