いよいよ新年度がスタートします。
学生たちが新たな社会人として、最初の一歩を踏み出す時期です。
今回のゲストは、4月からサイバーエージェントで働く紫竹佑騎氏と、Webサービス企業でのインターン経験を持ち、4月から大学4年、Web業界を目指す片山育美氏の両名です。
レギュラーメンバーの3氏から、Web業界を目指す若者たちへのメッセージが送られました。
紫竹 佑騎(しちく ゆうき)
工学院大学大学院工学研究科情報学専攻修士課程2年 大学院では医療・福祉分野における社会システムデザインの研究を行い、社会システムデザインプロジェクト(セコム科学技術財団特別助成)に所属。製品化された“一人暮らしあんしん電話”システムの研究開発に参加。その後地域医療関係者に向けた電話を利用した地域間あんしんシステム構築等を担当。2010年4月より、株式会社サイバーエージェントにWebエンジニアとして入社予定。
片山 育美(かたやま いくみ)
1988年香川県生まれのクリエイター見習い。Webサービスの制作やワークショップ運営に興味があり、2009年に行われたmixi open IDコンテストでは最優秀賞を受賞。現在はお絵かきワークショップの運営や、着ぐるみの制作などの活動を行っている。2009年度上期未踏ユース。
阿部 淳也(あべ じゅんや)
1PAC. INC.代表取締役 クリエイティブディレクター
自動車メーカにて電装部品のユーザインターフェース設計を8年間手がけた後、IT事業部異動。約4年間Webデザイン、Flashオーサリングなどを手がけるとともに、営業支援システムや化学物質管理システムなどのテクニカルディレクターを経験。2004年よりCosmo Interactive Inc.に参加。多くのWebサイト立ち上げにプロデューサ、クリエイティブディレクターとして携わる。2008年にワンパクとして独立。
長谷川 敦士(はせがわ あつし)
株式会社コンセント 代表取締役社長/インフォメーションアーキテクト
1973年山形県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(Ph.D)。ネットイヤーグループ株式会社を経て、2002年株式会社コンセントを設立。情報アーキテクチャの観点からWebサイト、情報端末の設計など幅広く活動を行っている。著書に『IA100 ユーザーエクスペリエンスデザインのための情報アーキテクチャ設計』、監訳に『デザ
イニング・ウェブナビゲーション』などがある。情報アーキテクチャアソシエーション(IAAJ)主宰。NPO法人人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事、米Information Architecture Institute、ACM SIGCHI、日本デザイン学会会員。
森田 雄(もりた ゆう)
読書家
2000年に株式会社ビジネス・アーキテクツの設立に参画し、2005年より取締役。ディレクター、プロジェクトマネジャー、インフォメーションアーキテクトとして多数のプロジェクトに携わる。2009年8月に同社を退職、現在は読書家と称して充電中。HTMLやCSSなどのフロントエンド技術、アクセシビリティ、ユーザビリティのスペシャリスト。CG-ARTS協会委員。広告電通賞審議会選考委員。IA Institute会員。アクセス解析イニシアチブ会員。アックゼロヨン・アワードグランプリおよび内閣総理大臣賞、グッドデザイン賞、Webby Awards、New York Festivals など受賞多数。
Webを生業として
長谷川:最初に自己紹介から始めましょう。私は、コンセントという会社の代表を務めています。8年前に会社を設立して以来、自分たちのことをWeb制作会社ではなくWeb時代の設計事務所と呼んで仕事をしてきました。あくまで問題解決を行うデザイン会社でありたい、という意図です。会社としては、Webサイトの構築や戦略立案に加えて、情報端末などまで含めたUI設計なども行っています。
私個人は、代表という立場ではありますが、もともと情報設計と人の情報処理に興味があったこともあり、経営だけでなくインフォメーションアーキテクトとしても活動しています。具体的なサイトの設計以外に、その前段階として、クライアント一緒にワークショップを実施しながら、シナリオをつくったり、情報を整理したりといったことをやっています。
森田:現在は読書家ですが、ってそれはいいとして、僕はWebの黎明期からこの界隈にいます。今から10年以上前ですね。当時は、旧来の業界構造では考えられなかった業態を担うという雰囲気があり、ワクワクしていました。また、設立に参画したビジネス・アーキテクツはいわゆるベンチャー企業ですが、界隈では当時有名なデザイナーたちが多数在籍していた反面、なんというかそれで一般社会に対して影響力があるかというとそうではないわけで、しかしそういう状況下で「社会をデザインで変える企業」を大きな目標にしていました。
これまでを振り返ってみると、業界としてのビジネスモデルが確立されていなかったのでたくさんの企業が生まれ消えていきましたが、その中で僕は大きな目標の実現に燃えていて、あるべき論で新しいデザインの提案をしてきました。
阿部:僕は、クリエイティブファームやデザインハウスと呼ばれるような、クリエイティブ全般を手掛けるプロダクション「ワンパク」の代表です。インタラクティブ領域と呼ばれる部分を仕事にしています。以前の広告は、4マス(TV、新聞、雑誌、ラジオ)とそれ以外という分け方をされていたのが、時代の流れとともにその境界がなくなりシームレスになってきました。僕たちの会社は、広告領域でのクリエイティブを(マスの垣根を越えて)一気通貫に形にしていくことを目指しています。
森田:これまで広告代理店はインターネットをインタラクティブ領域としてきていましたが、阿部さんの会社は、広告領域の中でインターネットをプラットフォームとして扱っているところが、その領域で特徴的ですよね。
阿部:たしかに。これまでのように情報を発信し続けているだけではだめで、メディアバイイング以外に求められることが大きくなってきています。
僕たちの自己紹介はこのくらいで(笑)。ゲストのお2人にもお聞きしましょう。
片山:私は多摩美術大学で情報デザインを専攻しています。デザインやプログラムに興味があり、大学ではサービスデザインやコミュニケーションデザインを学んでいます。まだこれを専門にしたいというものはありません。
趣味は写真を撮ったりブログを書いたりすることで、Web上に存在する個人のライフログ的な情報の表現に興味があります。ブログ記事やフォトなどユーザが「とりあえず」で投稿した情報に対して後から編集行為を行うことで、何かメッセージ性のあるコンテンツをつくることができるのではないかと思い、ライフログ情報をWebマガジン形式に再構成するWeb上アプリケーションの開発に取り組んでいます。
紫竹:私は現在、工学院大学大学院にて情報学を専攻している修士2年の学生です。この4月からサイバーエージェントにて、Webエンジニアとして働きます。
研究している内容は、電話を使った地域間安心システムの構築です。現在、産学協同の取り組みとして行われていて、ただつくるだけではなく、実際に使用されるものを前提に企画から行うことができていることが楽しく思っています。
Webエンジニアを目指した理由は、コミュニケーションツールが増えていく中で、自分の手で何かを新しいコミュニケーションツールをつくってみたいという気持ちがあったからです。
先日、4月から新社会人としてWeb業界で働く学生だけの懇親会を開催したのですが、そこに参加した学生も皆、私と同様に「自分で何かをつくりたい」という考えを持っている人が多いと感じました。中には、プログラマーだけではなく、プロデューサーやディレクターになりたいと考えていて、現在は自分でコーディングをしていない人もいましたが、皆「自分から社会を変えていきたい」という気持ちが強かったのが印象的です。
私自身も、世界に向けて日本発のサービスをつくってみたいと思っています。
市民権を得たWeb
阿部:今の2人のお話を聞いてみて、(テレビや雑誌などの報道にあるような)「いまどきの若者はネガティブだ」という面が見えないことに驚きました。今は景気も悪いですし、座談会を始める前は、もっとマイナス思考かと思っていたんです(笑)。
ただ、夢はもちろんのこと、実際にWeb業界で働くということがどういうことか、今日はそのあたりをうまく伝えていきたいと思っています。
森田:2人の観点は、どちらかというとWebの中でもWebサービス側の観点ですよね。先ほどの世界に向けてということで言えば、Webデザインの領域では、たとえば“中村勇吾”さんのような世界に誇れる日本人のデザイナーがいて、勇吾さんに続け的な感じでWebデザインを始めた人たちもたくさんいるわけですけど、世界に向けて発信していきたいという気持ちを持つのは素晴らしいと思います。
サービスにせよデザインにせよ、Webというのは自己表現をするために手っ取り早い場所であったわけですが、今は自己表現の場だというよりは、人と人が繋がるための場になってきているんですよね。しかも、世界中の人と繋がれるという点においてコストがかからないという大きなメリットがありますから、その気持ちを実現する場としてのWebというのは、とてもしっくりくると感じます。
長谷川:私はこれまで仕事をしてきて、この10年で、Webというメディア/ツールそのものが、だいぶ市民権を得たと感じています。10年前であれば、Webに取り組むこと自体が実験的と思われることも多く、商業クオリティとして必要な基準もありませんでした。私たちはそのマーケットをつくってきたと思っています。今ではあたりまえのようにWebをつくりたい、使いたいというニーズがあるわけですが、当時はまだおまけ扱いでしたからね。
阿部:たしかにそれは感じますね。2人の世代だと、いわゆるデジタルネイティブになっているわけですよね。ちなみにいつからインターネットに触れていますか?
紫竹:私は中学生のころからインターネットを使っていました。2ちゃんねるなども見ていましたし。
片山:私はテレビと同じように、気付いたときにはWebに触れられる環境にいました。
紫竹:インターネットが素晴らしいなと思ったのは、時間が経っても(物理的に距離が離れたとしても)相手と繋がっている感覚が得られる点です。高校時代の友達とは今もマイミクとして繋がっていて、実際には顔を合わせることは少ないですが、日記を見たりレビューを見たりすることで近況がわかって、緩く繋がっていられます。
長谷川:だとすると、私たちとは感覚が違うのでしょうか? ここまで話してみてギャップは感じないです。どうですか?
紫竹:同じく、まったくギャップを感じていません。失礼かもしれませんが、感覚が似ていると感じています。
森田:今の話はWebの利用者という視点での話だと思いますが、話を戻して、仕事という観点でWebを見たときに、長谷川さんがおっしゃっていたように、10年前はWebの商業クオリティの基準はなく、クオリティの善し悪しは属人的な部分に依存していたわけです。今は、基準として「このぐらい」というのは肌で感じられているようになってきていて、だからこそ利便性も享受できる世の中になっているのだろうと思います。
なぜWeb業界に?
阿部:Webに触れてきたと言うことですが、なぜこの業界で働こうと思ったのですか?
紫竹:私自身は何かWebサービスをつくりたいという気持ちが強く、それを実現するために今の会社を選びました。入社する会社は、インターネット広告代理事業とインターネットメディア事業の両方を併せ持っていて、なおかつ配属される部署はエンジニアなどの専門職が集まる部署になります。元々好きなWebに関して、仕事として開発に関われるということが一番の理由ですね。
片山:以前からWebは好きでしたが、具体的な行動を起こしたのは、大学2年時にWebサービスを企画する授業を受けてからでした。授業では企画までだったので、その後の実装やリリースをしてユーザに使ってもらうところまでどうしてもやりたくなって。その後すぐにインターンをさせてもらえるWeb企業を探し、mixiで1年間インターンとして働いて、Web業界で働きたい気持ちがさらに高まりました。4月からはクックパッドでアルバイトさせていただく予定です。
森田:僕はゲーム好きが高じてゲームクリエーターの専門学校へ行ったのですが、そのとき、ゲームは自分でつくるよりも人がつくったもので遊んだほうが絶対に面白いと思ってしまいました。それで、ゲームの世界には行けなかったのですが。
ところが2人の話を聞いてみて、Webは、(Web自体を)空気のように使ってきた人が仕事として選ぶとさらに詳しくなってもっと楽しめる、噛めば噛むほど味が出るようなものなのだな、と気付かされましたね。
阿部:2人ともWebサービスの企画・開発を目指しているとのことですが、制作側に行かかったのはなぜ?
片山:理由はいろいろあるのですが、理由の1つには、言われたことだけをしたくないいう気持ちがあったからです。
長谷川:その気持ちは働いてみると変わるかもしれませんね。制作サイドでも事業サイドでも、作業としての仕事と自分で問題解決をする仕事とがありますからね。
制作会社はさまざまなクライアントの問題解決に取り組むことで、より専門化を進めていくことができます。事業会社は、その事業の成功が目的となります。こういった観点が大きく異なります。
阿部:たしかに言われたことをやりたくないという気持ちもわかりますが、事業規模やWebサイトの規模が大きくなればなるほど、言われたことをこなす、オペレータの役割をする人の重要も大きくなります。これはWebサービス開発でもあり得る話です。そこは忘れないでほしいですね。
森田:2人とも実際に若いので言いますが(笑)、若いうちはなんでも吸収して思いっきり働くのがいいかなと。言われたことも、言われてないことも。経験を重ねて自分の仕事を考えていくことで、何をしたいかが変わるなり、もっとはっきりするなりすると思います。
阿部:それは言えますね。現在の日本のWeb業界の多くは、9時5時と言われるような定時での業務スタイルは一般的ではありません。ですから、身体的にも精神的にもいろいろな意味で負荷が大きくなることもあります。親心ではないですが、そこでつぶれないように気を付けてほしいです。
紫竹:今のお話を伺って、ますますWeb業界で働いてみたいと思いました。今は自分でつくるという気持ちが強いですが、働いてみて何かを感じられるような気がします。
(4月2日公開の後編に続く)