ウェアラブル端末が与える新しいUX~UIデザイナーがAndroid Wearスマートウォッチを使ってみた

第1回「腕時計」生み出す新しい体験

2014年6月26日(日本時間)に開催されたGoogle I/Oにて、ウェアラブル端末向けOSAndroid Wearが発表されました。Android Wearの話自体は以前より公のものとして発表されていましたが、今回のAndroid Wearの発表と同時に2端末の一般発売も開始されたので、一番早く手に入れることができるLG社のLG G Watchをさっそく購入してみました。

ひとことで言ってしまえば、AndroidのPush通知を見ることができるだけの端末ではあるのですが、こういった端末はどんなに人から話を聞いても実際に使ってみないと得られる体験はわかりません。特に⁠腕時計⁠という端末自体を使ったことのない人はいないでしょうから、なおさらその経験から腕時計の延長のようなものを想像してしまいがちです。しかしAndroid Wearは⁠腕時計⁠ではなく⁠腕時計型⁠の新しいジャンルの端末です。実際に使ってみて初めて感じることができる体験について、数回に分けてご紹介していきたいと思います。

LG G Watch
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Android Wearが与えてくれる体験

これまで、携帯電話は人の半径30cm以内の端末であり、人からの距離が一番近いメディア発信源であると言われてきました。しかし、携帯電話が半径30cm以内のメディアならば、常に身につけている腕時計は半径0cmの、さらに人に近い場所にあるメディアであると言えるでしょう。

今の時代、誰もが携帯電話を持っているにも関わらず、⁠今、何時?」と人に聞いたり聞かれたりしたことはありませんか? それはカバンやポケットから携帯電話を取り出すという動作が面倒だからなのです。

スマホをチェックする回数は、多い人で1日150回以上であると言われています(もちろん机の上に出しっぱなしの時なども含めてではありますが⁠⁠。つまり、携帯電話を取り出すという面倒くさい動作を、それだけ繰り返しているのです。自発的にスマホを確認することもあれば、スマホからの通知によってチェックすることもたくさんありますよね。しかし、その中で本当に必要な通知は何回あるでしょうか?

  • 今は出なくても良い電話
  • 今読まなくていいメール
  • 今読まなくていいニュース

こんな通知でスマホをチェックすることが、実は大半ではありませんか? しかし、ポケットの中でバイブレーションが震えただけではその通知の優劣はわかりません。打ち合わせ中に「すみません」と断りを入れて電話を取り出したのにも関わらず、全く急ぎの連絡ではなかったことはありませんか?

スマホの代わりではない、その延長線上にある新しいデバイス

Android Wearは、単体では通信機能を持っていません。あくまでAndroidとBluetoothで通信をし、Androidを経由して様々な情報を入手したり伝達したりするものです。ですから、単純に考えるとスマートフォンのセカンドディスプレイのようなものです。しかしポケットにしまわずに常に身につけている端末がその役割を果たすことに大きな意味があります。

  1. 今必要な情報だけを表示する
  2. 今必要な情報かどうかを判断する
  3. 決められたアクションを実行する

大げさに言ってしまえば、この3つの機能だけのためにAndroid Wearは存在します。

実際にAndroid Wear上で見られる情報量は限られています。長い文章を読むのには当然向いていませんし、複雑な操作もできません。ただ、通知された情報を見て判断することはできます。簡単な通知であればその場で処理してしまえばいいですし、時間がかかる内容であればあとでスマホで見れば良いのです。感覚的にはスマホのメールクライアントとして有名なMAILBOXのメール処理ジェスチャーに似ているかもしれません[1]⁠。今できることと後ですることを、常に身につけている端末で処理することで、スマホを取り出さなければいけない機会が格段に減ることでしょう。

これはぜひ皆さんにも実際に体験して頂きたいです。普段スマホでこなしているなんでもない動作が、スマホを取り出さずにできるというのは想像以上に快適なものでした。

MAILBOXでのメール処理。アーカイブ/後で読む/削除をメールの一覧から処理することができる

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これから新たに生まれてくるであろうサービスのあり方

この記事を読まれている皆さんは、もちろんスマホを常に持ち歩いていることでしょう。しかし、スマホ以上に近い距離にある端末だからこそできることもたくさんあります。

一番初めに考えられるのは単純なスケジュールやToDoの通知です。スマホで管理されている予定を、その時間になったら通知するものです。ToDoであれば、その通知をそのまま処理済みにすることも可能です。1日に繰り返し起こる動作だからこそ、少しでもその動作が簡略化されることは大きなメリットと言えるでしょう。

次に、今注目を浴びている健康系の端末です。直接肌に触れているため生体データ[2]をより正確に取得することができますし、歩数の測定なども電話型よりずっと精度の高いものです。位置情報と連携した生活情報の配信なども考えられるでしょう。

さらに、家に帰る経路をワンボタンで教えてくれたり、ワンボタンで今いる場所にタクシーが呼べるようになるかもしれません[3]⁠。そこにクーポンなどの広告が配信されることも考えられるでしょう。

また、スマホと連携することでスマホのリモコンとして動作したりすることも可能です。家電のリモコンとして使うこともできるでしょう[4]⁠。

Android Wearに合ったコンテンツとは

ただ、なんでもかんでもAndroid Wearで使えるようになれば便利になるというわけではありません。基本的にAndroid Wearでは音声入力での文字入力はできますが、長文を正確に入力することは難しいですし、人前で腕時計に話しかけるのはちょっと気が引けませんか?(笑)

そうなると、メールの返信やTwitterなどのSNSへの投稿は難しいですし、あっても使わないかもしれませんね。適切な情報量と機能を限定して通知することが非常に大切な要素となってくるでしょう。そういった意味ではGoogle Nowのようにパーソナライズされた断片的な情報の伝え方は、Andoroid Wearに最適なものと言えるでしょう。その日の朝の天気の情報などは、その代表的なものです。

Android Wearが生み出す弊害

スマホのPush通知は、今まで非常に有用なものでした。微々たる動作とはいえ「ポケットからスマホを取り出す」という工数をわざわざかけて通知を見ているので、その障壁を超えたということがPush通知を開く動機にもなっていたでしょう。しかし、今まで以上に気楽にPush通知を見ることできるようになるおかげで、その分より気楽に通知を開かずに消してしまう可能性も増えてきます。Android Wearに対応したアプリが今後どんどん増えてくることを考えると、これまで以上に雑多な情報が増えてきてしまいますので、そういった意味でもよりパーソナライズされた場所と時間に適した情報を求められてくることは間違いありません。端末の性質を理解した上で最適な機能を提供することが求められるのです。

今回のお話はAndroidを身につけた上での体験と概念的なお話ばかりでしたが、次回以降では、実際のUXデザイン/UIデザインについてのお話と、ハードウェアの特性から考える使い方についても触れていきたいと思います。お楽しみに!

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