2月15日(水) 、アップルストア銀座で隔月の無料イベント「SwapSkills FreeEvnet 」が開催されました。第8回となる今回は「ゲーミフィケーション」をテーマに、NHK出版編集部で『フリー』や『シェア』といった書籍の発行やWebプロモーション等を手がけた久保田大海(くぼた ひろみ)氏を講師とお迎えいたしました。
「ゲーミフィケーション」( gamification)とは、「 ゲーム化」とも訳され、一般的には「ゲームのプレーヤーを熱中させるノウハウをゲーム外の分野に応用すること」と解釈されています。Webにとってのゲーミフィケーションとはどんなものか、また最近ではWebプロモーションにゲーム的要素を盛り込んだ事例などが数多く見受けられますが、そうした事例とゲーミフィケーションにはどんな違いがあるのか、を解説していただきました。
ユーザーをエンゲージし、問題を解決するプロセス
「ゲーミフィケーション」という言葉の定義として、久保田氏は2011年9月にアメリカのニューヨークで開催されたイベント「Gamification Summit in NY」での講演を例に挙げました。講演者で同イベントの主催者であるGabeZichermann氏は、ゲーミフィケーションを、「 The process of game-thinking and game mechanics to engage users and solve problems.」( ゲームの考え方やメカニクスを、ユーザーとブランドの関係を強化するため、または、問題を解決するために用いるプロセス)と定義しています。
また、ゲーミフィケーションを取り巻く概況について、久保田氏は、ガートナー社が提唱した特定の技術やサービスの、市場での成熟度や社会への適用度などを示す曲線「ハイプ・サイクル」を示し、同サイクルにおける「流行期」の直前にあると解説しました。具体的には、「 ゲーミフィケーション市場は2011年の1億ドルから、2016年には28億ドルにまで成長するだろう」といった米国の市場予測を引用しました。
「繰り返し」「欲求を喚起する」のがゲーミフィケーション
久保田氏は、遊び心やゲーム的要素を備えた広告キャンペーンやWebプロモーション等の事例として以下のような例を挙げ、これらはすべて広義でのゲーミフィケーションに該当すると解説しました。
「Piano Stairs(ピアノ階段) 」( 「 楽しみながら」生活習慣を改善するというフォルクスワーゲン社のバイラル広告)
「スゴイ自販機 」( コカ・コーラ社によるオンライン上の仮想自動販売機)
「UNIQLO LUCKY MACHINE」( ユニクロ社によるFacebook連動型ゲームコンテンツ)
「ZOZOナンバー 」( 100万円分のポイントが当選するZOZOTOWNのTwitter連動キャンペーン)
「脳内メーカー 」( Twitter連動のWebサービス)
しかし、ゲーミフィケーションの本質は、上記の事例とは少し違うと久保田氏は指摘します。「 ゲーム」の本質は「繰り返し遊べる」構造に特徴があります。遊び心やゲーム的要素を備えたものであっても、「 1回きりで終わる」ものは「遊び」であり、「 繰り返し」行われるものが「ゲーム」であると言及しました。
たとえば、コカ・コーラ社による「ハピネスクエスト 」というキャンペーンがあります。これは、全国各地のコカ・コーラ自販機を「マイ自販機」として登録できたり、自販機にあるQRコードを読んで仮想通貨を貯めることができたりするコミュニケーションサービスです。ユーザーと、実際の自販機との関係を強化し、自販機での販売を活性化させようとする仕掛けですが、ポイントは「行動を伴ったループ構造が形成される」点にあります。
つまり、ゲーミフィケーションとは「認知を促す」ものではなく、「 欲求を喚起する 」ものだということです。夏休みのラジオ体操のスタンプカードなどは好例です。スタンプを集めたいという欲求が、毎日ラジオ体操に行くという繰り返しの行動に結びついているのです。
Webにとってのゲーミフィケーションとは?
では、なぜ「遊び」と「ゲーミフィケーション」が混同されるのでしょうか。久保田氏は、ユーザーの消費行動モデルである「AIDMA」やインターネットでの購買モデルである「AISAS」を例示しました。
久保田氏のスライドより抜粋
「AIDMA」であれ「AISAS」であれ、Attention=認知を喚起するものは「遊び」であると久保田氏は解説します。すなわち、Webサイトにおいては、ソーシャルメディア等からの流入を目的とした施策は「遊び」であると指摘しました。Webにとってのゲーミフィケーションとは、ブックマークやRSS登録といった「サイトへの直接流入を促すための施策」であると定義しました。
サイトへ何度も来訪したいという欲求を喚起する「直接流入施策」というのは意外と少ないものと思われます。ここに、Webサイト設計にゲーミフィケーションを応用する必要性が見えてきそうです。
一方、企業のマーケティング活動にも、ゲーミフィケーションを活用しようという動きがあります。
お客様と企業とのエンゲージメントを高める(関係性を強化する)
お客様の行動をより長期的なものに変えることでより多くの利益を得る
今までのマーケティング活動は「客単価」と「販売数」を高めることで売上を増大しようという考え方でした。ゲーミフィケーション以降、新たに「継続率」という評価軸が加わってくると久保田氏は言及しました。お客様から永続的に取引を続けてもらうことによって得られる利益・価値「ライフタイムバリュー」の具現化がゲーミフィケーションの本質であるという考え方です。
UXとゲーミフィケーション
久保田氏は、「 ゲーミフィケーションが、Webサイトとユーザー体験を設計する方法論の主流になるかも知れない」というTechCrunchの記事を引用しながら、UXとゲーミフィケーションの違いについても解説しました。これによると、UXとゲーミフィケーションには厳密な境界は存在せず、重複する領域が多いということです。あえて違いを挙げるなら、ゲーミフィケーションは、繰り返し利用するという「動機づけ」の要素をより重要視しているという点です。
このように、サイト設計の手法としても今後注目が集まりそうなゲーミフィケーション。サイトの流入経路は検索エンジンからソーシャルメディアへとシフトし、人が「面白い」と感じたり、「 驚く」「 感動する」といった心の動きが、今まで以上に重要視されるでしょう。一方で、サイト戦略へのゲーミフィケーションの応用はまだまだ発展途上であると久保田氏は語ります。
最後に、「 ゲーミフィケーションのフレームワーク」や、ソーシャル上でいかにフィードバックを獲得するかという「ソーシャルフィードバック」 、プレーヤーをどのように動機づけするかという「ゲームメカニクス」といったサイト戦略を考える上でのエッセンスについて紹介がありました。
これらの詳細については、2012年3月17日(土)に開催される「SwapSkills W『成功するWebサイト戦略指標 ゲーミフィケーション』 」で学ぶことができるので、興味のある方はぜひ受講して欲しいという案内とともに講演は終了しました。
成功するWebサイト戦略手法 "ゲームニクス/ゲーミフィケーション"