クラウドコンピューティングにおける重要な概念である「複数のコンピュータを1つのコンピュータ資源と見なす」「 ネットワーク全体の資源を1つのコンピュータ資源として見る」という考え方は、コンピュータの黎明期とも言える1960年代、メインフレームの時代にはすでにあったものです。
初期のコンピュータ、メインフレームは非常に高価でした。しかも、同時に複数の作業をすることができなかったため、ほかの誰かが使っているときは使えないのです。そこで、ふとした瞬間に生じる空白の時間を複数ユーザに割り振るようにしました。交互に、こま切れに処理を行うことで、擬似的に複数のユーザが同時に作業できるようになったのです。これをタイムシェアリングシステム(TSS)と言います。
1960年代後半になると、電話回線経由でタイムシェアリングをするというコンセプトが生まれました。これはタイムシェアリングを同一組織内ではなく、外部ネットワークへも提供するよう発展したもので、小規模ながらもクラウド的と言えます。
その後、1990年代になるとコンピュータがかなり安価になり、コンピュータの使用形態はメインフレームのような一極集中型から、クライアント/サーバシステムのような分散型へと移行していきます。
このころ創立した会社の中に、Sun Microsystems, Inc.(現Oracle)があります。Sunは創立の際、「 ネットワークがコンピュータだ=The Network is The Computer」というスローガンを掲げています。「 ネットワークがプロセッサ並みに高速になれば、コンピュータはネットワークに拡散し、ネットワークがコンピュータになる」とも言っています。早くから「ネットワーク全体の資源を1つのコンピュータ資源として見る」考え方を持つ会社だったのです。
ただ、その当時のネットワーク回線は貧弱なもので、ネットワークをコンピュータとして使用することはかなり難しい状況でした。
明確に「ネットワークコンピューティング」という標語を使用したのはIBMです。彼らの言う「ネットワークコンピューティング」の目指すところは「いつでもどこでも必要なときにネットワーク上でコンピュータのパワーをサービスする」ことです。とはいえ、やはり回線の貧弱さはネックで、実用化には高速な専用回線でも引かないとかなり難しかったでしょう。
その後、コンピュータの家電化に加えて2000年頃からのブロードバンド化が、端末、および最大の障害であった回線の問題を解消し始めます。
そんな中、「 インターネット全体を1つの資源として見る」ことを人々に自覚させるきっかけになったのがGoogle、正確にはそのCEO、Eric Shmidt氏です。彼はかつてSunの最高責任者でした。「 ネットワークをコンピュータに」の時代がやっと来たのです。
彼は2006年に英エコノミスト誌に寄稿したのを皮切りに、その年の「検索エンジン戦略会議」 において、インターネットの現状と、それによって引き起こされたコンピュータ資源の利用方法の変化を「クラウドコンピューティング」と表現。これにより、空前のクラウドフィーバーが巻き起こります。
その後、「 クラウド」という言葉は明確な定義のないままひとり歩きします。
米国のITアドバイザリ企業ガートナーに至っては「クラウドは産業革命」と言い出す始末。各国のメディアもいつものように流行りモノとしてクラウドを扱い、言葉の知名度だけはどんどん上がりました。
でも、肝心なユーザが置いてきぼり。「 結局、クラウドって何?」という質問には明確な返答が与えられず、ずっと宙に浮いたままなのです。
表1 クラウドコンピューティングの歴史
1983年 Sun Microsystems,Inc.創業
1994年 Amazon.com創業
1995年 Yahoo!,Inc.創業
1998年 Google創業
1999年 Salesforce.com創業
2001年 IBM、グリッドコンピューティング構想を発表
2005年 Tim O'Reilly氏による論文「What Is Web2.0?」発表
2006年 Amazon S3スタート
Google、Eric Schmidt氏が「クラウド」というキーワードを使用
Twitterスタート
Amazon EC2スタート
2008年 Force.comスタート
Google App Engineスタート