これまでの説明でおわかりいただけるように、IaaSは基本的にはこれまでのホスティングサービスと同様の機能が提供されるため、そのサービスを利用して構築できるシステムも基本的にはこれまでのホスティングサービスと同じです。もちろん、それだけでは、これまでのホスティングサービスを選択するのと何が違うのか?単にコストが安いだけか?ということになりますが、IaaSならではの特徴を利用することで、近年特に要求が強くなっている、短納期や高信頼性に対応できるようなシステム構築を実現することができます。
IaaSの最も大きな特徴として、CPUやメモリ容量などのサーバ資源(リソース)を柔軟に増減可能なことが挙げられます。これは、「Chapter2:クラウドを取り巻く考え方」でもご紹介した「グリッドコンピューティング」や「ユーティリティコンピューティング」という考えによるものです。
「グリッド・コンピューティング」や「ユーティリティコンピューティング」の仕組みを利用することで、サーバリソースを自由に増加させる「スケールアップ」や、複数のサーバを束ねて利用することで全体の処理能力を向上させる「スケールアウト」などの技術を、比較的容易に活用することができます。
そのため、これまでのホスティングサービスでは実現困難だった、Webサイトへのアクセス増加に伴うサーバリソースの短時間での増強や、週末や月末などの期間限定でのサーバリソースの増強を比較的容易に行うことができます。
スケールアップ、スケールアウト
スケールアップは、サーバ自体のリソース(CPUやメモリ容量など)を増強することで、スケールアウトは、複数台のサーバを1台のサーバに仮想的にまとめあげることでサーバリソースを増強する方法です(図1)。
IaaSを利用する大きな利点が、スケールアップとスケールアウトのいずれであっても、とても素早くかつ簡単に実現できることです。そのため、急にサーバスペックを増強しなくてはならない場合や、一定期間サーバスペックを増強しなければならない場合に、簡単に対応できます。
WebサイトやWebサービスを構築するときには、一般的に事前にアクセスピークを慎重に見積もる必要がありますが、IaaSであれば、すぐにサーバスペックを増強できる利点を活かし、WebサイトやWebサービス構築時には最低限のシステムで構成しておいて、追って必要になったときにサーバスペックを増強していく、という方法も考えられます。
スケールアップの場合、実際の物理サーバに装着されているCPUやメモリを仮想化技術によって細かい単位で増減することができます。
スケールアウトの場合、物理サーバを調達する必要がありません。そのため、とても素早く、多くの場合数分から数十分でサーバを増設することができます。OSインストールや各種設定済みのサーバが用意されている場合は、操作画面を数回クリックするだけでスケールアウトが完了します。
また、気付かれにくいのですが、能力が過剰になった時点での縮小が簡単な点は意外に重要です。IaaSであれば、スケールアウトで増設したサーバを削減することも、スケールアップで増強したサーバの能力を削減することも、簡単です。物理的な資産を購入したわけではありませんから、資産計上の問題も生じません。
パブリッククラウド、プライベートクラウドの違い
クラウドサービスの説明によく出てくる言葉に、パブリッククラウドやプライベートクラウドという言葉があります。これは、クラウドサービスを使い方や対象ユーザ別に分けたもので、パブリッククラウド、プライベートクラウド、コミュニティクラウドの3種類に分かれます(図2)。
パブリッククラウドは、単一のクラウドシステムを不特定多数が共用する形のクラウドサービスを指します。ビジネス的には、現在の一般的なホスティングサービスとほぼ同じです。パブリッククラウドのIaaSがいわゆるこれまでのホスティングサービス(レンタルサーバ)だと言えます。もちろんパブリッククラウドのSaaSやPaaSもあります。クラウドという単一システムを不特定多数で共用するため、独自仕様のシステム構築にはあまり向きません。また、不特定多数が共用するシステムに自社データを持ち込むことへの、セキュリティ面での技術的・心理的・法的懸念が広く言われています。その代わり、初期費用が安価であり、契約すればすぐに始めることができるので、とくに個人やSOHO、中小企業、あるいはサービスをスモールスタートで素早く立ち上げたい場合に適しています。
プライベートクラウドは、企業内サーバの集約化のクラウド版です。ビジネス的には、従来のSIと大差ありません。企業内サーバの稼働率向上とユーティリティコンピューティング化が主な目的となります。
通常、システムをゼロから構築することになるため、機能やサービス面では、自社が必要なものを用意することが可能です。ユーザも基本的に自社内に限られるので、セキュリティ面でも比較的安心かもしれません。しかしながら、基本的にすべてを自社保有することになるため、従来のSI同様の納期と費用がかかるのが、パブリッククラウドとは大きく異なる点です。
ただし、一部のクラウドサービスは、クラウド基盤を用いたプライベートクラウドの構築サービスを提供していますので、自社のデータを社外システムに託すことができるのであれば、システムを自社保有すること無しに、プライベートクラウドを構築可能です。プライベートクラウド構築は、比較的大規模社内サーバ群を抱える企業向けと言えます。
コミュニティクラウドとは、ちょうど両者の中間のようなものです。いわゆる共同センターのクラウド版とでも言うべきもので、複数のユーザでクラウドサービスを共用しますが、ユーザ自体は限定されています。パブリッククラウド利用には技術的・心理的・法的懸念があるが、プライベートクラウドを独自に構築するほどの規模ではない、という企業が、共同で構築して利用するのに適しています。
この他に、ハイブリッドクラウドという言葉もあります。これは、プライベートクラウドとパブリッククラウドを連携させて利用できるようにしたクラウドシステムのことです。