IaaS型パブリッククラウドサービスを選択する場合、IaaSの特徴でも説明したような、ユーティリティコンピューティングが実現しやすいものを選択したいものです。そのためには、以下のようなポイントに注目してみると良いのではないでしょうか。
すぐに使えるようになるか? すぐに止められるか?
この項目は、契約と機能の両方を考える必要があります。
まず、すぐ使えるようになるかという面を考えます。
契約については、申し込みから、実際の仮想サーバの起動までにかかる時間は、サービス提供者によって大きく異なります。クレジットカード決済かつコントロールパネルからユーザ自らがサーバ設定するタイプのサービスでは、申し込みからほんの数分でサーバ起動まで完了させることも可能だったりしますが、これまでの専用サーバ同様、申し込みから設定まで数営業日かかるサービスもあります。日本の企業では、クレジットカード払いが不可能で、請求書による前払いしか選択肢がないことも多いと思いますが、この場合はさらに数日かかることになります。
機能の面から見ると、必要とする機能が用意された初期構築済みプランが用意されているかどうかが重要です。複数台構成でシステムを組む場合は、ロードバランサなどの仮想アプライアンスが用意されているIaaSを選択するのも一考です。
もし、Windowsを利用したい場合は、当然ですが、Windowsに対応したIaaSかどうかも確認しておかないといけません。
次に、すぐに止められるかという面ですが、こちらは機能的にはどのサービスも一般的な物理サーバと同等なので、とくに問題になることはないでしょう。
契約の面から見ると、契約期間の最小単位がどうなっているのかが重要です。サービスによって、時間ごとや日ごと、月ごとなどありますが、時間毎の契約であれば、無駄な契約期間を最も少なくできるので、止めやすくなります。ただし、サーバを止めていても、サーバのイメージファイルが残っている間は課金され続けるサービスもありますので、詳細を確認しておく必要があります。また、月ごとの契約にすると、料金が長期契約割引される場合もありますので、支払条件の選択肢がある場合は、用途との兼ね合いの見極めも必要です。
システムの拡張や縮小が簡単か?
この項目は、主に機能面の話になります。IaaSの特徴で説明したように、IaaSでは、システムのスケールアップとスケールアウトが簡単かつ迅速に行える特徴があります。
スケールアウトに関しては、クラウド内部で各仮想サーバ間をネットワーク接続する必要があるため、内部プライベートIPアドレスを割り当ててもらえるのかを確認しておく必要があります。また、ロードバランサなどで仮想IPアドレスを利用する場合もあるので、追加のグローバルIPアドレスを割り当ててもらえるのかも確認しておいたほうが良いでしょう。いずれも割当て可能個数や料金(有料なのか無料なのか)、手続き(申請制なのか、自分で割当て可能なのか)の確認が必要です。
スケールアップに関しては、IaaSによって、稼働中のサーバをそのままスケールアップさせることができるものと、一旦データを退避させ、より大きなサーバ上にシステムを再構築してから、退避したデータを移行しないとスケールアップできないものがあります。言うまでもなく、スケールアップという面では、再構成なしでスケールアップできるタイプのIaaSが、圧倒的に便利です。
また、どのような単位でスケールアップできるかもIaaSによって異なります。リソースの大きさが異なる仮想サーバが何種類か提供されているだけのものや、CPU/メモリ/ディスクなどがセットになった、いわば仮想サーバブロックのようなものを、必要な数だけ束ねて仮想サーバを構築するもの、CPUやメモリ、ディスクなどの各種リソースごとに必要量を細かく設定可能なものなどがあります。
一般的に、リソースを細かく調整できるものほど、利用コストも細かく調節でき、利用効率も高まりますが、その分、きめ細やかなシステム設計が必要になります。
スケールアウト同様、スケールアップにかかる時間も、利用手続き(申請制なのか、自分で割当て可能なのか)によって異なってきますので、確認しておくべきです。
契約面では、スケールアップ・スケールアウトとも、やはり実際に利用する期間と契約期間の最小単位(時、日、月)との兼ね合いを事前に検討しておくべきでしょう。月に数日しか利用しないスケールアップ・スケールアウト分に月契約で支払うと、当然無駄なコストが発生します。
その他
これまで説明してきたような、IaaS独自の機能の他に、以下のような点は、IaaS選択の際にチェックが欠かせない項目です。
- バックアップ
- サーバの設定やデータのバックアップは、言うまでもなく重要です。利用前に、どのようなバックアップが行われているのかや、標準でバックアップが行われていないIaaSを利用するのであれば、どうやったらバックアップを取れるのかを確認しておく必要があります。
- ユーザサポート
- 一般的なホスティングサービスでは、メールだけではなく電話やチャットでのサポートが無料で行われていることも多いのですが、IaaSではメールサポートのみであったり、掲示板やコミュニティでのサポート体制を取っているところもあります。事前に希望のユーザサポート体制が提供されるかを確認する必要があります。
- データセンターのロケーション
- 海外のデータセンターだと、国内からのアクセス時のネットワーク遅延の問題がやはり無視できません。ネットワーク遅延による、アクセス速度の低下は、作業効率の低下や、ビジネスチャンスの逸失につながりかねません。
- しかし、一般的には海外データセンター利用の方が料金も安価ですし、海外からのアクセスが多く発生するようなWebサイトであれば海外のデータセンターのほうが有利です。利用前に、コストのメリットとレスポンス低下のデメリットのバランスを検討しておいた方が良いでしょう。また、CDNを利用すれば、データセンターのロケーションはそれほど大きな問題にはならないかもしれません。
- 各種オプション機能
- IaaSの機能を強化するために、さまざまなオプションサービスが提供されています。もちろんそれらのオプションサービスを上手に利用することで、より効率的に運営を行うことができますが、たとえばグローバルIPアドレスのように、サイト構築に不可欠なものがオプションになっている場合もありますので、必要なオプションを合算した料金がどの程度になるのかは、事前にしっかり把握しておきましょう。
- コントロールパネル
- 一般的なホスティングサービスであれば、通常コントロールパネルと呼ばれる、ブラウザからグラフィカルな画面をマウスで操作して、システムにそれほど詳しくないユーザでもサーバの各種設定や管理が行えるアプリケーションが標準搭載されています。もし、サーバ管理者にシステムの十分な知識がない場合は、コントロールパネルが標準搭載されているか、あるいは有料オプションで提供されているIaaSを選ぶべきでしょう。
- データ転送量の扱い
- とくに海外のIaaSでは、データ転送量への課金が一般的です。自分のサイトがどの程度の転送量を利用するのかを事前に見積もることは難しい場合も多いのですが、この点を忘れると、サーバ構築までは低コストで済んでも、実際の運用を始めると、転送量課金が思いのほか大きくなり、結果としてコスト高のサイトになってしまう可能性があります。
- 転送量課金は、完全従量制の場合が多いのですが、基本料金に一定量まで込みになっているIaaSもありますので、比較をしてみることをお勧めします。