本コラムもこれで最終回となりました。そこで今回は、筆者がUIやUXについて学んできた中で、個人的に印象に残った書籍を紹介します。みなさんの今後の学びを広げていくための参考となれば幸いです。
学びを深めるための8冊の書籍
UIやUXを学ぶうえで、心理学的な考え方が重要になります。しかしエンジニアやデザイナからすれば、心理学は縁遠い分野だと思います。しかもUIで使われる心理学は、テレビで紹介されるような心理テストのようなものではなく、認知心理学や知覚心理学ですから、なかなかそういう本を手に取ろうとは思わないでしょうし、そもそも心理学という領域がどのようになっているかすらわからないと思います。
ここで紹介するのは「人は人工物や環境の前でどのような振る舞いをするのか」という、人の認知や行為についての書籍たちです。
アフォーダンス[2]を生んだJames Jerome Gibsonの生態心理学についての佐々木正人氏による解説や、深澤直人氏との対談があり、デザインと生態心理学の関係性を学べます。また後藤武氏による建築との関係についての解説も収録されています。
デザインは見た目だけではないという発想を知るのにちょうどよいと思います。
もう少し深くアフォーダンスについて学びたい人向けの読み物です。人間や動物の知性がそれ自身に内在するのではなく、環境に分散して存在していることを感じさせてくれる1冊です。デザインという視点で読むとおもしろく読めると思います。
プロクセミックスという対人空間距離が国柄、文化によって変わるという話で有名な本です。ここでもGibsonの生態心理学が紹介されており、人工物や対人との関係性を考察するうえで示唆に富んだ本です。インタラクションの基礎とも言えます。
インタフェースデザインを学ぶ人が、だいたい最初に紹介されるNormanの本です。定番であるだけに読んでおいてほしい1冊です。人工物と人とのインタラクションをどうとらえるかが書かれています。人間を中心に発想する基本がここにあります。
『誰のためのデザイン?』が有名な一方で、同じNormanの本でもこちらはあまり紹介されないのですが、人間と道具を考えるうえで学ぶことの多い1冊です。人間中心に物を設計することについて『誰のためのデザイン?』以上に示唆に富む内容だと思っています。
こちらは専門書なのですが、人間が道具やある環境を利用し、あるタスクを遂行するときにどのようにその環境を利用しているのかを研究した事例集です。うまくタスクを遂行する能力は、うまく環境を作る能力だと気づかされます。
こちらもGibsonの著書です。内容は難解な部分もありますが、環境と人の関係性が詳細に記述してあり、世界に対する感覚や視点が大きく変わる1冊です。Gibsonの著書は、このほかに、『視覚ワールドの知覚』(注9)、『生態学的知覚システム』(注10)という書籍が出ています。
手前味噌ですが拙著です。人間にとってのコンピュータの歴史的経緯を踏まえながら、コンピュータの万能性を目の前にこれからどうデザインするかについて考えていく本です。本コラムでも紹介してきたiPhoneの気持ち良さ、自己帰属感といった道具の透明性を議論しながら、情報がどのように身体と近づくのかを考察していきます。また、情報の道具化、環境化として、ブラウザ以外の方法でインターネットと接するあり方についても考察しています。
どうやってUIやUXを学ぶのか
本コラムは今回で最終回です。コラムという形式のため、毎回異なるテーマを簡単にしか説明できませんでした。ですからぜひこれらの本を参考にしてみてください。この分野の歴史は浅く、UXというキーワードがバズワード化し混乱が起きるのも、さまざまな人が独自の視点で新しいプラットフォーム、新しい方法をリアルタイムで試行錯誤しているからです。みなさんは最先端にいることを自負しながら、ぜひ学びを言語化し共有していってほしいと思います。なぜならそれが、いつの日か学問の一部を成すからです。
さらに筆者としては、WebやスマートフォンのUIデザインだけではなく、これまで見たことのない新しい体験を作るメディア(インタフェース)自体の発明にも挑戦していってしてほしいと願っています。