阿部: そうです。本当に簡単なものですけど、ベータ版が2、3ヵ月ぐらいで、そのあと本稼働しました。会社員のときはコンサルティングみたいなことをやってて、ずっとプログラミングから離れてたんですけども、やっぱり根がプログラミング好きっていうのがあるのか、自分で作ってみたいっていう欲求がわいてきまして。それで主夫業のかたわらちょろちょろ作り始めたという形ですね。
多分、本当にうつな状態で一日中寝たような状態の中で、本当にやりたいことをやってみたいと思ったときに、自然にそうなっていったような感じです。
主夫の生活
中島: その時期の一日のスケジュールはどんな感じですか?
阿部: 朝起きて、ご飯作って、上の子を学校にカミさんを会社に送り出して、下の子は当時保育園だったので、車で連れていきます。その後時間があるとき朝買い物に行ってしまいます。午前中に洗濯機まわして洗濯物干すと。
昼ご飯食べてから午後は仕事をして、仕事しているうちに上の子が帰ってきて、友達の家に遊びに行ったり、友達が遊びに来たりワイワイやってるはじっこのほうでカチャカチャやってて、夕方5時過ぎくらいから夕飯の準備を始めて、トントントントンと野菜切ったり下ごしらえをして、5時半になると、車で保育園に行って下の子ピックアップして、家に帰ってきてご飯作って6時半ぐらいから夕飯ですね。
で、宿題の面倒をみたりとかして、そうこうするうちにカミさんが帰ってきてご飯食べてもらって、子どもたちとお風呂入って、9時にはなかば強制的に寝かしつけちゃいます。子どもたちが寝た後PC取り出してまたカチャカチャカチャと。だいたいそういう感じですね。
中島: なるほど、しっかり家事をこなしているんですね。集中して作業できるのは、午後の時間と、子どもが寝てからですか?
阿部: そうですね。夜は結構遅くまでやってたりはしますけど。ただ、通勤時間がない分、やっぱり有効に時間を使えますね。
中島: 会社勤めでプログラマやってても、プログラミングに集中できる時間って似たような感じかもしれないですね。
阿部: そうですね。ただ違うのは、自営の場合は、この機能を必ずこの日までにみたいなデッドラインが特にないところです。確かに機能を盛り込めばそれだけサイトの魅力は高まるんですけど、いつ公開するっていうのは自分で決められるっていうのは、やっぱりいいですね。
中島: 家事を優先してその空いた時間の中で開発して、テストして、問題なければその日が公開日ですね。それは自営だから自分の判断でやりくりできるということですね。
阿部: はい。受託の仕事もしているので、すべてそういうわけにはいきませんが。
中島: 学校のPTAとかも阿部君が行っているんですか?
阿部: 行きました。毎回、保護者会にも行きました。学校の行事に私が行くと周りが全部お母さんなんですね。で、担任の先生も女性なんですよ。その中におじさん私1人だけぽつんといて、最初は針のむしろだったんですけれども、顔見知りになると案外すんなりとやっていけるなぁという感じになりました。
主夫への心理的な抵抗感
中島: それで今は、阿部君のほうがフルタイムになったんですか?
阿部: そうです。カミさんの会社が傾いてきてしまったので、今度は私が自営のままフルタイムで働こうとしています。「 みんなのシフト表」だけでは食べていけないので、受託の仕事をしながら、もう一つ、カミさんの友達でカナダに住んでいる人がいて、その人と一緒に英語圏向けに別のサイトを立ち上げようと準備しているところです。
中島: 休んでいるときに試行錯誤していたことが今実ったという感じですね。
阿部: それはわからないですが、今は何でも個人でできるという感じはします。サーバとかも簡単に調達できるし、資料もネットにあるし、海外とやりとりするにもSkypeでできますから。そのカナダ人と話していても、向こうでは自営というのが、ごく普通の選択肢だということを感じます。個人に対して仕事を発注することも普通の感覚のようですね。
中島: 主夫にしても自営にしても、経済的には成立する条件が整っていたとしても、世間体を気にして踏みきれない人も多いと思うんですよね。
阿部: たしかに、主夫をやってて、いろいろ雑音が入ってきますね。まぁ直接は言われないんですけど…。ただ、世間から離れても生きていけるみたいな感じがあれば、結構思い切ったことができるとは思います。
中島: 雑音っていうと、「 あの家はどういう家なんだ」みたいな感じですか?
阿部: そうですね。「 お前の父さん何やってるんだ?」みたいな。案外お母さんたちには受け入れられやすいっていうのはあるんですよ。雑音はどっちかというとお父さんのほうからなんですよ。「 男が主夫やるのはちょっと許せない」というような感じです。
中島: まぁ、おそらく嫉妬なんだけど、そう言えないからですかね。
阿部: お父さんのほうがやっぱり世間体にしばられてるっていうのはあるんでしょうね。お母さんたちは案外、何の苦もなく「あ、そうなんですかー」みたいな感じになってくれるし、子どもが遊びに行ったり遊びに来たりして、メールで頻繁に連絡したり、コミュニケーションとってるんで、特別何とも思わなくなるみたいですね。
中島: 普通に同級生の親御さんの1人であると。お互いにただのそういう認識になっていくと。
阿部: そうですね。最初はやっぱりびっくりされますけど、時間が経つとそうでもないみたいですね。
多様な家族の形、働き方があっていい
中島: 私は、家族のあり方や働き方って、もっといろいろな形があっていいといつも思っていて、阿部君の話は、ひとつのロールモデルになるような気がします。これは結婚している場合に限らなくて、ルームシェアリング的な共同生活とかも、ある意味新しい家族のあり方という気がします。
阿部: そういうのが広がるといいと思いますけどね。自営になったり会社員になったり、行ったり来たりが自由にできるほうが健全だし、いろんな選択肢があったほうがいいような気がします。
主夫になって最初はすごくプレッシャーがあって、自分で自分を否定するような気分になったりもしたんですが、山田パンダさん[2] が主夫の先輩だということを知って、こういう生き方もありなのかなって思いました。子どもが大きくなってから、自分のお父さんがミュージシャンだってことを初めて知って、親子でコンサートをやったそうです。
中島: 「違う生き方もある」という生の話を知るのは大きいですよね。それが直接参考にならなくても、すごく勇気づけられる。阿部君の話を聞いていると、そのスタイルが阿部君の力を一番発揮できる働き方だったような気がします。もちろん、それはそれでたいへんなところもいろいろあると思いますが。
阿部: 子育てはたいへんでしたね。子どもが問題を起こして、カミさんと子どもと3人で謝りに行ったりとか。これだったら外で働いてたほうが楽だと思うこともありました。
中島: そうですよね。これ、普通のお父さんにはなかなかわからないですよね。子育てって、判断というか意思決定の連続で、ある意味頭脳労働だからストレスもたまるし、同時に肉体労働としてもたいへんだし。あと、仕事とプライベートの境目がないというか、そういうところはどうでしょうか?
阿部: それはありますね。24時間プライベートと仕事を一緒にやってるようなものですから。
中島: 「みんなのシフト表」は、24時間365日稼働ですか?
阿部: 日曜の夜だけはメンテナンスタイムにしていますけど、ほぼ365日稼働ですね。一度、My SQLのバグでひどいトラブルが起きて、データを復旧するのに、朝までかかったことがあります。あのときは冷や汗をかきました。
中島: そういうことに自分一人で対処していかなくてはいけないというたいへんさはあると思います。それと組織の中で仕事をするたいへんさと、どちらが合うかは人それぞれだと思います。試行錯誤して助け合いながら、自分に合うところを見つけていけるようになればいいと本当に思いますよ。
阿部: やっぱりいろんな家庭があったほうが健康的だと思いますね。あそこの家はああだけど、あそこの家はこうで全然違うけれども全然OK、というように。僕が子どものときはそういう感じだったんじゃないかなって思います。自営で商売やってる人もいれば会社勤めの人もいるし。みんなそこまで会社勤めにこだわってなかった気がするんですけどね。
二人は17年前、上司と部下だった
あとがき
「子どもがワイワイやってるはじっこのほうでカチャカチャやってて」という言葉が印象的でした。「 お父さんは家でパソコンの仕事をする人」と子どもさんが自然に受け止めているように感じました。