単なるWebの制作会社だっていう認識は持っていない
Webキャンペーンに関わるキープレイヤーである、広告主、Webクリエイター(制作会社)、広告代理店、の三者のそれぞれの立場をインタビューすることで、これからのWeb広告/Webデザイン業界の未来を探るこの連載。今回は制作会社の立場から既存のWeb制作の枠にとらわれずに幅広い制作活動を行っているイメージソース/ ノングリッド 代表 小池博史さんにお話を伺った。
早速ですが、最近の事例を紹介していただけますか。
小池:
丁度ロンチしたばかりのサイトがあるんですよ。京セラの携帯のサイト(W53K×井川遥スペシャルサイト)なんですが、ちょっとしたゲーム的なインタラクションを通じて携帯の機能を知ってもらえるようなサイトなんです。
井川遥さんがCMキャラクターをされているのですが、彼女にWebの撮影にも協力いただいて登場してもらっています。
新野:
モーショングラフィックスや人物の動画が効果的に取り入れられていて、とてもスタイリッシュな印象のサイトですね。
それにインタラクションの仕掛けも複雑なものでなくて、シンプルに理解できるものなのがいいですね。
小池:
他には、今もまだいろいろとやっている最中(取材時当時)なのがSONYのREC YOU.ですね。
早速、新野さんにも顔写真の登録 をしていただいたようで、ありがとうございました。うちのスタッフも喜んでましたよ。
僕、実は新野さんのブログを時々チェックしてるんですが、多分一番乗りくらいのタイミングでREC YOU.の動画が貼ってあったので、社内のみんなに教えたんですよ。
新野:
皆さんに見られてたんですね! ちょっと恥ずかしいですけど。(笑)
変な表情で歌っているのが面白いって、僕の周りでもちょっとした話題になってました。
取り組みとしてもREC YOU.は業界内でもかなり注目のキャンペーンになってますね。
技術的にはどういう仕組みになっているんですか?
小池:
あれは、モーションポートレートというSONYの関連会社が開発した技術を使って顔写真を動かしてます。
もともとローカルマシンで動かすアプリケーションで、静止画の顔写真を取り込んでそれが動いているように見える動画を書き出せるというものです。
今回は投稿された画像をサーバサイドで動画にできるようにして、書き出した動画をウェブサイトやバナー、blogparts、TVCM、リアルイベントなど様々なメディアにサーバから配信するシステムとデザイン制作に関わりました。
やることが多すぎて大変でしたね。スタッフ達は楽しみながらも死んでましたね。(笑)
新野:
イメージソース/ノングリッドさんではこういった通常のWeb制作の枠に収まらないような、ある種実験的な取り組みを積極的にされているように見えたのですが、その辺りの組織としての戦略とかがあったら聞かせていただけますか。
REC YOU.もそうですし、 カンヌをはじめ広告賞を総なめにしたBIG SHADOW、メタモルフォーゼの音楽フェスの会場で行ったインスタレーション、GUCCI銀座店の映像演出システムと、FlashやHTMLといったWeb技術とは違った作品も精力的に取り組まれてますよね。
小池:
そうですね、僕はもともと紙のデザインのディレクションをやっていたところから、徐々にWebもやるようになってきたんですね。
そういう性格だというのもあると思うのですが、新しくいろいろなことを取り入れるのが好きなんでしょうね。
紙のデザインも好きだし、Webも好きだし、映像やモーショングラフィックもやりたいし、そういった流れの中で最近はインスタレーションなども面白そうだなって思ってて。
僕らの組織は単なるWebの制作会社だっていう認識は持っていなくて、広告の制作会社だと思っているので、Webに限らずいまある手法のなかで、クライアントワークに結びつけられるようなものができないかなって常々考えてます。
新野:
スゴく可能性を感じますね。
小池:
ただ、それが仕事に直結しているというようなことはまだ少なくて。
イギリスなんかだと、国がアートシーンをサポートしてくれるような土壌があったりするんですが、日本はそういった活動をしている人が仕事として活躍できる場があんまり無いんですよね。
そうしたことをやっている学生さんや、アーティストの人たちってわりと辛い状況にあるんです。
なのでインスタレーションアートをやっていたプログラマーが僕らの会社に加わることになった時に、「こういうことができるスタッフが加わったんで何か面白いことやりましょうよ!」って周りに宣伝しておいたところ、たまたまいいタイミングで声がかかったのがBIG SHADOWだったんです。
新野:
あれは、やっぱり通常のWebのテクノロジーだけでは実現できないようなものだったんですか。
小池:
表現的には似てるところもあるんですが、違うプログラミング言語を使ってます。
人のシルエットを検知して、それを映し出すっていう仕組みに関しては、プログラマーがトライ&エラーを重ねながら作って行ったものなんです。
でも、最終的に投影されるドラゴンのビジュアルのクオリティが高かったことが一番の成功要因だと思ってます。絵的なことが大事だなと。
その時も認識したんですが、ビジュアルとしての最終アウトプットのクオリティを意識してプログラミングできるプログラマーのスキルが重要だなって。
海外だとそれができている作品が結構あるんです。ぼくらもそこをしっかりやってかないと駄目だなって問題意識をもって取り組んでます。
仕事以外の活動がきっかけで、新しいお客さんから声をかけてもらえることも
新野:
技術だけでなくて、そういったこだわりから生まれた成功なんですね。
小池:
でも、そういったスキルやテクノロジーのことなんかよりも、あのプロジェクトの成功要因は、そういった誰もまだやったことの無いような企画に理解を示してくれたクライアントと、その企画を立てて通してくれた広告代理店がすごいんだと思うんです。
新野:
ああ、確かにそうですね。BIG SHADOWのような前例のない企画をリスクを取ってやるっていうのはクライアントにとってすごく勇気のいることですからね。
小池:
一応イメージは事前に伝えますが、それでも実際にやってみないとどうなるか分からないものに、大金を使うわけですからね。
新野さんも、普段それをされていると思うんですが、それを関係者みんなが理解できるように説明して、協力体制をつくってくれる代理店さんもほんとにすごいと思います。
僕らは、そのおかげで制作のトライ&エラーに没頭できるんですから。
新野:
過去のこのインタビューでも、新しいことに一緒にチャレンジできるような、クライアントとの信頼関係を構築することが大事だって話は皆さん共通の認識でしたね。
以前僕が担当したエコトノハも、消費者参加型コンテンツのハシリだったわけで、当時あれをやるにはやっぱり覚悟が必要だったんですよ。例えば、メッセージの書き込みに変なことを書かれたらどう対応するかとか。
なので、信頼してGOサインを出したクライアントはほんとに凄いって思いますよ。もちろんそれなりの対策は立てていたんですけどね。
新野:
Web以外のアートをやっていたメンバーが加わったことで、社内でもなにか変化はありましたか。
小池:
そうですね、すごく刺激になりますよね。なんか面白いことやっている人が居るぞって。
だって、Flashとか作っているそばで、ハンダゴテとかつかって煙だしたりしてるんですから(笑)
クリエイターってそういう新しいものとか、変わったことって好きじゃないですか。
ただ、正直なところをお話しすると、BIG SHADOWのようにそれがビジネスにつながって利益を上げてるケースって言うのはまだ少なくて。
今の段階では既存のWebの仕事で利益を出しつつ、そういった新しいことを実験的にやっている状況です。
でも最近、もうそろそろ仕事としてもやって行けそうな感じが見えてきました。
新野:
それは、なんだか嬉しいお話ですね。
Google社では社内制度で各社員が勤務の時間の20%を担当業務から離れたプライベートワークに使うことになっているそうですが、その制度によって開発されたサービスが事業化されてやがて収益を生むものになっているという話を思い出しました。小池さんの所でも、なにかそういったイノベーションを生むような社内制度とかはあるんですか?
小池:
制度としては特にないですが、社内に声をかけて何か面白そうなことでやってみたいことがあったら、何人かでチームを作って取り組んでみないかというようなことを、ちょこちょこ言って回ってます。
まだ人数が少なかった頃は、カフェを借りてちっちゃな展示会をやったりもしましたし。
ワークショプをやったりもしてますし、さっき話に出たメタモルフォーゼのインスタレーションもそんな感じで生まれたプロジェクトです。
そういった仕事以外の活動がきっかけで、新しいお客さんから声をかけてもらえることもありますし、「あそこの会社はなんか面白いことやってるね」と思ってもらえるようなことは続けていきたいですね。
新野:
やっぱり、そういう技術や表現が目新しいっていうのは、広告として興味を引くためには重要な要素ですよね。
もちろん、技術ありきで目的を見失った企画になってしまうのは良くないですが、まず「面白そう!」って興味を持ってもらえることが大事ですから。
小池:
ええ、それにWebっていろんなメディアのハブになりえるものじゃないですか。
だからこれからもWebを中心にやって行きつつも、そういった新しいことも取り入れていって、Webでそれらをつなげるようなことをやっていきたいですね。