紅葉の美しい日々も終わり、そろそろ年末の大掃除に向けて準備をしようと部屋を見まわし始めた今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
ウェブサイトでも山頂を目指す
“地球上で生活する10億人以上が清潔で安全な飲料水を得ることができない” という事実に関心をもってもらうことを目的に、ミュージシャンのKenna、女優のJessica Biel、Isabel Lucasなどが、アフリカ大陸の最高峰キリマンジャロ(標高5,895m)に登頂するというプロジェクト、『 Summit on the Summit』のウェブサイトです。
図1 大きな目標を持つSummit on the Summitのウェブサイト
credit: BNC.
ウェブサイトに表示される足型のプレート購入による寄付だけでなく、プロジェクトをサポートしているスポンサーの製品であるHP(Hewlett-Packard)のSkinit(ノートPCなどの天板に張るデザイン性を高めるシール)や、家庭用浄水器メーカーPURのウォーターボトルの購入によって安全な飲料水が供給されるなど、プロジェクトにはコーズ・リレーティッド・マーケティング(Cause Related Marketing:企業が社会貢献型のキャンペーンを実施して、顧客との信頼や企業の商品のイメージを向上させる)と呼ばれる手法が取り入れられています。
図2 スポンサーの製品購入で寄付が行える
2010年1月7日から始まるこの登頂プロジェクトの進行状況は、スポンサーとなっているHPから提供された機器を使用して、 Twitter や Facebook 、 YouTube などのソーシャル・メディアを通じて世界中に配信されます。
奇妙なスクロールの理由
『Summit on the Summit』にアクセスすると、下へのスクロールが始まり、最後に止まった部分(ページの最下部)がウェブサイトのトップとなります。操作の点から考えれば、上から下へとスクロールさせるのが自然だと思うのですが、なぜこのような表現方法を行ったのでしょうか。
図3 ウェブサイトの最上部は山頂を表す
『Summit on the Summit』プロジェクトでは、多くの人たちが目的を達成するために山に登ります。ウェブサイトではプロジェクトにとって重要なこの行為を、ページの最下部をスタート地点(ベースキャンプ) 、最上部をゴール地点(山頂)として表現しています。このため、スタート地点から山頂を目指して山を登るように、下から上へとスクロールさせる仕掛けとなっているのです。
“山に登る” というプロジェクトの内容を、スクロールで表現するという見事なアイデアが光るこのウェブサイト。いつも見慣れている、使い慣れているウェブサイトの仕組みを上手に利用することで、新しい表現を可能にした良い例ではないでしょうか。
“成熟期”に入ったAR技術
1933年にアメリカで創刊された世界初の男性誌「Esquire」の2009年12月号で採用されたAR(Augmented Reality:拡張現実)技術を紹介するウェブサイト、『 Augmented Reality - Esquire Cover Augmented Reality Software and Video - Esquire』です。
図4 AR技術を取り入れた「Esquire」の2009年12月号
credit: The Barbarian Group , Psyop
ウェブサイトからダウンロードしたアプリケーション(プログラミング言語のC++で制作)をインストールして、「 Esquire」の2009年12月号の表紙や各ページに用意されたマーカーをウェブカメラで確認させることで、俳優のRobert Downey Jr.や女優のGillian Jacobsなどのパフォーマンスが楽しめるというものです。
「Esquire」の12月号を使ってARを試している映像
「Esquire」では、この仕組みを"Augmented Magazine"と呼んでおり、今後さらなる拡張(携帯端末への対応など)を行っていくとのことです。
次のレベルに移行したAR技術
ここにきて国内でも、 新聞紙面とAR技術を利用した初の広告 が公開されるなど、来年にはより多くの分野でAR技術を利用したコンテンツが生まれてくるかもしれません。
AR技術を使った各種コンテンツは、“ AR元年” とも言うべき今年、急速に拡大と進歩を続けてきました。その結果として、「 Esquire」の例でも確認できますが、技術的には表現に関する問題がないレベルまで来ています。
「Esquire」のARを担当したThe Barbarian GroupのBenjamin Palmerも、「 われわれはテクノロジーを見せることではなく、記事に価値を加える何かをつくりたかった」と話しているように、ユーザーに“ 技術としての驚き” を与える時期はすでに過ぎ去ったと思います。
AR技術を何のために使い、ユーザーに何を与えていくのか。成熟してきた考え方と技術によって生み出される、今後のAR技術による新しい体験に期待したいと思います。
“軽快さ”の裏にある“したたかさ”
三菱化学メディア株式会社が海外展開で展開しているグローバルブランドVerbatimの日本上陸を記念したスペシャルコンテンツ、 Verbatim(バーべイタム)のスペシャルサイト、『 全日本バーベイタム選手権』です。
図5 キャラクターの動きが非常に軽快な対戦ゲーム
credit: ROXIK , IMG SRC , Kaibutsu
難しい言葉の読み方に関する3択クイズに答えると、獲得したポイントによって、さまざまな記録メディアでできたメディアモンスター(メディモン)が誕生します。ユーザーはこのメディアモンスターを操作して対戦を楽しみます。
図6 ランキングなど、ゲームを楽しめる要素もしっかりと準備されている
さらに、勝敗を左右する3種類必殺技やランキングシステムなども用意され、対戦ゲームとしても奥深い作りとなっています。
2009年11月22日まで行われていたキャンペーン『 記録せよ!AKB4800! 』では、最強のボスモンスターに勝利すると、特別なコンテンツがダウンロードすることができました。
なお、第二弾コンテンツも鋭意準備中で、そちらも面白いコンテンツになるということです。
さりげなく、そして強烈なアピール
ブランド名であるVerbatimは、「 一語一句そのままの(に) 」という意味を持つラテン語だそうですが、初めてこの名前を見たとき、誰もが「正直何と読めばいいのか」と思うのではないでしょうか。
このウェブサイト上で行われるゲームに参加するためには、ユーザーは3択クイズに答えてモンスターを作らなければならないのですが、そのクイズの中に、必ず一度、ブランド名であるVerbatimの読み方を聞く質問が出題されます。
図7 3択クイズで必ず出題されるVerbatimの読み方
モンスターの基本的な能力値はクイズを素早く正解することで決まるため、能力値を良くしようと何体ものモンスターを生み出していくうちに、いつの間にかブランド名の正しい読み方である「バーベイタム」を覚えてしまいます。
キャンペーンサイトでは、ユーザーに覚えてもらおうと、商品の名前などを徹底的に繰り返したり、過剰にアピールしたりすることも多いでしょう。しかし、その方法が逆にユーザーに悪い印象を与えてしまう可能性も否定できません。そんな中、読みにくいブランド名をさりげなくユーザーに覚えさせてしまう仕掛けと、軽快に動くコンテンツの面白さを用意したこのウェブサイトから学べる部分は非常に多いと思います。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。