紅葉の美しい日々も終わり、そろそろ年末の大掃除に向けて準備をしようと部屋を見まわし始めた今日このごろ、皆様いかがお過ごしでしょうか。今回も個人的に感じた、素晴らしいサイトの特徴をいくつかお話したいと思います。
“架空”と“実在”
NBA(National Basketball Association)のマイアミ・ヒートに所属するDwyane Wadeをフィーチャーした、Nikeのスポーツグッズブランド「Jordan Brand」のキャンペーンサイト『Dwyane Wade - The Interview』です。
図1 ユーザーは採用試験の面接官となる
credit: Academy
MJ(マイケル・ジョーダン)が代表を務める会社の採用試験をDwyane Wadeが受けるという設定で、ユーザーは面接官となって質問内容を2つの選択肢から決定し、それについてDwyane Wadeが答えるという内容となっています。
図2 質問に答えるDwyane Wadeの姿がユニーク
Dwyane Wadeの内面に迫るまじめな質問や、身ぶり手ぶりを駆使したパフォーマンスの要求など、バラエティに富んだパターンでユーザーを楽しませてくれます。最終的にDwyane Wadeは採用されるのか、ぜひ実際に確認してみてください。
表現しにくい事実をどう伝えるか
ウェブサイトに登場するDwyane Wadeは、2009年7月に3年の契約を残してCONVERSEとのスポンサーシップを解消し、Nikeの「Jordan Brand」と契約 しました。すでに2010年2月に発売予定の新作モデル「Nike Air Jordan 2010 」を履いてプレーすることも発表されています。
図3 「 Jordan Brand」も多くの選手と契約している
選手とスポーツ用品メーカーとのスポンサーシップは、何か契約上の問題があった場合、双方への影響が非常に大きいものとなります。過去には選手とメーカーとの間で裁判が起きた(あるメーカーとのスポンサーシップ中にもかかわらず他社のシューズを履いたNBAのスター選手は、契約解除を求めて裁判で争ったが敗れ、約14億円もの賠償金を支払うように命じられた)こともあり、非常にデリケートな問題も含んでいます。
そんな中「採用面接を受けて会社の一員となる」という“ 架空” の出来事を創出して、「 Dwyane WadeがJordan Brandと契約した」という“ 実在” する出来事を表したこのウェブサイト。微妙な問題が存在する選手のスポンサーシップの解除・移籍に関して、たじろぐことなく、ユニークな演出で表現した創造性が実に見事だと思います。
拡大すると見えてくる真実
「Unbelievable Satellite Images!(信じられない衛星写真!) 」という見出しが特徴的な、Australian Coastal Watch(オーストラリア沿岸警備隊)のウェブサイトです。
図4 刺激的な見出しが付けられた衛星写真
credit: ★★★★
見出しの下には「泳ぐ人たちからわずか数メートルのところを回遊する、正体不明の大きなサメの群れをとらえた最近のボンダイビーチの画像です。+のシンボルをクリックして拡大してください」という文章が記載されています。
図5 拡大すると徐々にサメの群れが見えてくる
ウェブサイトの画像左上にある+のシンボルを何度かクリックして写真を拡大していくと、やがてサメの群れが現れ始めて…仕掛けはシンプルで、一発勝負のアイデアですが、そのおかげで誰にでも強烈なインパクトを与えることに成功しています。
図6 Discovery Channelの「Shark Week」特集のウェブサイト
このAustralian Coastal Watchのウェブサイト、実は世界最大のドキュメンタリー専門チャンネルであるDiscovery Channelで2009年12月7日から13日に特集される「Shark Week 」のプロモーションのために作られたものです。もちろん、Australian Coastal Watchも実在しません。
ユーザーの“スキ”を突く
ウェブサイトで使用されている、どこかで見たような写真を拡大するインターフェースは、Google Maps API(JavaScriptを使って、Google Mapsに使われている機能をウェブサイトで利用できる)で実現されています。
現在、Google Maps APIは多くのウェブサイトやウェブサービスなどで使われていることから、ユーザーはクリックすると画面にどのような変化が起こるのかを理解しています。そのため、使い慣れたGoogle Mapsで地図を見るように、写真を確認するために拡大を繰り返すユーザーの無防備な部分を鋭く突いた演出が効果を発揮しています。
ユーザーに決して意識させないことが重要なために何度も使えませんが、“ 無意識” と同居する“ スキ” をうまく突き、より強い印象を与える手段としてまだまだ残っていきそうです。
見えにくい“行動”の可視化
東京都中野区の区議会議員である奥田けんじさんと地域の住民をつなぐ、次世代区政コミュニケーションツール『NAKANO QUEST』です。
図7 ゲームかと思わせる世界観で表現されている『NAKANO QUEST』
credit: 1-10design Inc. , 実現ネット , TOCマーケティング研究所 , ピコトン (日英混在表記、実現ネット以下はあいうえお順)
Google Maps APIとTwitter APIを使って制作されているこのウェブサイトでは、奥田さんのTwitterのつぶやきである「ふつうのつぶやき」 、ユーザーからのクエスト(要望・依頼)に対してのつぶやきである「クエストつぶやき」がマップ上に表示されています。
図8 マップ上にはさまざまなつぶやきが並ぶ
ユーザーは奥田さんに対してクエストを投稿することも可能で、画面左上にリストアップされたクエストに投票することが可能です。得票数の多いクエストは、実際に奥田さんが実行していき、その過程と結果がリアルタイムでマップ上に表示されます。
図9 「 クエストつぶやき」では実際に行った行動が確認できる
実際に行動する様子を、奥田さんを表すキャラクターがマップ上を駆け回る姿で表現しているのもおもしろいです。政治家に何かを依頼するという今まで難しかった部分を、“ クエスト形式” で表現したところに、大きな可能性を感じるウェブサイトです。
“コミュニケーション”を作る重要性
選挙時に有権者が一番悩むのは、「 普段、政治家が何をやっているのかがよくわからない」ということでしょう。政治家も選挙の直前になって活動報告のパンフレットを配っても、普段の地道な活動はなかなか理解されず、有権者からの共感も得られにくいのではないでしょうか。
『NAKANO QUEST』では、目に見えにくい政治家の普段の活動と行動を可視化したことで、政治家にとっては自らをアピールできる、有権者にとっては要望に対する経緯と現状を把握することができるという、お互いのコミュニケーションの場を作っています。
日本でもTwitterを利用する政治家が増え、その行動がリアルタイムで続々とつぶやかれる一方で、時系列からの視点ではわかりづらい政治の部分も出てきています。有権者にとって政治がより身近で関心を持ってもらえる存在になるために、どのような形でウェブサイトを使っていくのか。政治家のウェブ上の動きは、今後、ますます見逃せなくなってくるでしょう。
というわけで、今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。それでは次回をおたのしみに。